上の画像で観察すると、スーリヤヴァルマン2世は種々の宝飾品で身体を飾っています。『Khmer Gold』という本のなかから説明を抜き出し抄訳しておきましょう。
右の写真はスーリヤヴァルマン2世の三代後の王ジャヤヴァルマン七世(仏教徒、統治1181-1218)の時代に作られた仏像で、英語では「着飾った仏陀」です。ヒューストンの美術館に所蔵されています。着飾っていますから、日本語では「菩薩」(成仏前の仏陀)ということになります。また、足を交差させていませんし、薬壺をもっていますから半跏の薬王菩薩ということになります。
この仏像は、頭に円錐帽子、宝冠、イアリング、胸飾り、腕輪、ブレスレット、胴体ベルト、足首飾りを身につけています。
写真:アンコール・ワット、聖池の蓮花。
アンコール・ワット (1)
2013/01/30
薬王菩薩が身につけているこれらの宝飾品は金と宝石で作られていました。カンボジャのこのような宝飾品は長年にわたり散逸してしまってカンボジャにはほとんど残っていないのですが、Emma C. Bunker と Douglas A. J. Latchfordという人達がたんねんに調べ上げて、2008年に“Khmer Gold : Gifts for the Gods”という題名の本を出版しました。この本を見ればスーリヤヴァルマン2世が身につけていた宝飾品がどのようなものであったか、見当がつくようになります。
地図出典:“Khmer Gold : Gifts for the Gods”(一部改変)
この回廊をさらに進むと、スーリヤヴァルマンの軍隊力の展示がある。甲冑を着け武器を手にした指揮者達が獰猛な戦争象の上に立ち、それぞれが槍と楯をもった歩兵達を従えている。指揮者の一人は王彼自身であり、右肩越しに視察している。彼の胸は甲冑で覆われ、右手に鋭利な武器を携えている。
スーリヤヴァルマン2世(在位1113 AD から 1145-1150 AD)
アンコール・ワットを作った王です。この王のとき、クメール王国は最大版図となりました。
画像出典:“Khmer Gold : Gifts for the Gods”
P62
Late-tenth century,
Douglas Latchford Collection
下部胴体ベルト、胴回り60cm
下にアプサラ(天女)の写真を二枚載せておきますが、使われている宝飾品はまったく同一です。カンボジャでは沖積金がかなり採れていたようです。
画像:
“Khmer Gold : Gifts for the Gods”
Figure 5.33 Apsaras, the Bayon, Angkor Thom,
late twelfth century
P111
これらの実物を見てからもういちどスーリヤヴァルマン2世のレリーフを見ておきましょう。足首飾りをも含め、定式どおりに身体を金製品で飾っていることがわかります。
2. 王の宝飾品セット
画像出典:“Khmer Gold : Gifts for the Gods” P83
上から順番に:
シニョン帽、宝冠、イアリング、(左右)腕輪、ネックレス、胸飾り、ブレスレット
カンボジャ、12世紀後半、金板打ち出し、カンボジャ国立博物館、Douglas Latchfordによる寄付、2008
3.胴体ベルト
写真出典:“Khmer Gold : Gifts for the Gods” P68
シニョン帽、タイ北東部ナコン・ラチシマ州、プラン・タノン・ハク出土、11世紀後半、青銅製鍍金、フィマイ博物館(バンコック東北約300km)
1. シニョン帽
シニョンとは普通はポニーテールのような後頭部で結い上げた髷を指すのですが、この場合は頭頂部で作った髷です。このシニョンに被せる円錐形の帽子がシニョン帽です。
画像: Adorned Buddha, twelfth century, cast bronze, 28cb, Fine Arts Museum Houston
“Khmer Gold : Gifts for the Gods”, Emma C. Bunker and Douglas A. J. Latchford, Art Media Resourses, Inc. Chicago, Illinois 2008
P46/47
彼の肖像は、アンコール期の宮廷生活のユニークで細い描写の一部である。この場面設定は戸外で、森のなかであるように思われる。膝をついた召使い達が陛下にたくさんの扇、払子や日よけを差し出している。これは差し出された人間の高位なることを示している。王女たちは精巧に彫刻された輿(こし)で運ばれている。ほお髭をはやしたブラーマン僧侶が見物しているが、そのうちの何人かは儀式のための準備をしているように見える。陛下の右となりには、ひとりの廷臣が跪き、なにかを呈上しているように見える。顧問達が膝をついて見物しているが、いくにんかは服従のしぐさで胸に手をあてている。右側に、入念な行列が見られる。家臣達がホラ貝、太鼓や銅鑼を鳴らしている。権力の象徴である王のかがり火を載せた箱船が肩で担がれている。
スーリヤヴァルマン二世はクメール王のなかで芸術上に画かれた最初の王である。アンコール・ワット南回廊の浅浮彫には彼が精巧な木製の高座に坐っている様子が写されている。高座の脚と手すりはナーガ(蛇神)に似せて彫刻されている。彼の頭には尖った王冠が乗っており、耳にはペンダントが付けられている。足首飾り、腕飾りと腕輪を着けている。彼の右手は小さな死んだ蛇と思われるものを掴んでいる。これがなにを意味するかは不明である。彼の胴体は優雅に曲げられ、足を下に組んでいる。表現された一般的なイメージは権力と地位のもつうららかさと安楽さである。
写真:Suryavarman U, Angkor Vat, twelfth century、スーリヤヴァルマン2世
“Khmer Gold : Gifts for the Gods”, Emma C. Bunker and Douglas A. J. Latchford, Art Media Resourses, Inc. Chicago, Illinois 2008
P76
画像:
Dancing apsaras on a column of the outer gallery, the Bayon
“Ancient Angkor”
Michael Freeman, Claude Jacques
River Books 2012
では皆様、ご機嫌よう。
スーリヤヴァルマン2世の宝飾品
写真:スーリヤヴァルマン二世が造ったアンコール・ワット。
この人の浅浮彫肖像が第一回廊南面(西寄り)にあります。