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Musikalisches Kunstbuch
音楽技法書

北ドイツの音楽家、タイレが残した対位法的作品集です。
同時代の音楽家ラインケンやベルンハルトが作曲・対位法に関する
いくつかの著述を残しているのに対して、タイレは著述はせず、
様々な技法を網羅した作品集を作り上げました。

この音楽技法書は15曲からなり、それらは以下の4種類に大別できます。


1.カノンによる2重対位法の範例(第1、5、6、7曲)

どの曲も10度の2重対位法と転回対位法が用いられています。
第1、5、6曲は拡大カノンで、特に第6曲は2倍と4倍の拡大が行われます。


第6曲の冒頭です。中声部は2倍拡大・反行形、下声部は4倍拡大形です。

また第7曲は逆行カノンで、転回形と逆行形の組合せなどが示されます。



なお先ほど、どの曲も10度の2重対位法が用いられていると書きましたが、
タイレは2重対位法によって旋律を3度で重複させ、2声の曲を4声とし、
その4つの旋律を様々な声部に配置した例を示しています。


2.種々の小品(第2、3、4、9、10曲)

アリア、組曲、フーガなどがあり、第2〜4曲は2重対位法が使われています。
技術的には次のミサ曲と同様ですので、譜面の紹介や説明は省略します。


3.2重対位法によるミサ曲(第8、12曲)

第12曲はキリエのみですが、第8曲はキリエ、サンクトゥス、
オザナ、ベネディクトゥス、アニュス・デイを含む大作です。
この第8曲では8度、10度、12度の3種の2重対位法が用いられています。
どの曲においてもソプラノとバスが2重対位法によって入れ替えられます。

下の例は第8曲の2つ目のキリエの一部です。
57小節〜のソプラノが68小節〜ではバス(12度下)に、
57小節〜のバスが68小節〜ではソプラノ(15度上)に、
それぞれ移されています。


アルトとテノールは57小節〜と68小節〜とで異なっています。


4.ソナタ(第11、13、14、15曲)

どのソナタも多部分からなり、フーガ部分を含んでいます。
4つのソナタのうち第13〜15曲の3曲には関連性が見られます。
すなわちフーガ部分の主題の数が、第13曲は2つ、第14曲は3つ、
そして第15曲は4つと、次第に数を増すように配置されているのです。
また3曲すべて2つのフーガ部分を含み、1つ目のフーガに
示された主題が、2つ目のフーガでは反行形で示されます。

BGMは5声のソナタです。

次に示すのは第15曲「5声のソナタ」の1つ目のフーガの一部です。
互いにリズムを補い合う4つの主題が示されています。



また次は2つ目のフーガの一部で、上の主題の反行形が示されています。



この第15曲は曲の規模も175小節と群を抜いて長大であり、
曲集の最後にあって、その頂点を成している労作です。

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