添 付 資 料
『ヴェルフ基金の歴史について』
ハンス・フィリッピ著
ニーダーザクセン年鑑
第31巻、1959年
ヒルデスハイム、アウグスト・ラックス出版社
今月10日のホンブルクからのフォン・ビュロー氏の報告の内容について、私の、陛下の勅撰鑑定人としての意見を、次の主旨で理解し、フォン・ビュロー氏に伝えて欲しい。
英国の女王陛下がとられた、やんごとなき方々の間で電報による意見交換で国際問題を個人的に交渉するという方法は、ただでさえ難しい問題をさらにややこしくさせる危険をもたらすであろう。「今回の件では、陛下の下される同意承諾そのすべてはプロイセンの名の下になされ、プロイセンにとってみれば強制力があるようにみえる一方で、英国の女王陛下が所信表明してもそれはクンバーラント公爵をなにも拘束しないものであり、そしてジョージ王死直後の対応は、クンバーラント公爵の意思決定がヴィクトリア女王によってではなく、ヴィントホルストとハノーファーの急進的なヴェルフ党によってなされているとみてとれる。
ヴィクトリア女王陛下の電報に公式に返答しなければならないとするのであれば、その返答では真っ先に、われわれが彼との交渉を開始する際に、クンバーラント公爵に彼の権利の実質的な放棄を要求しなければならないという明快な立場表明をしたいのだ。私は、プロイセン首相たるものが公式にほかの政治的立場をとることは決してないであろうと固く信じるところである。プロイセン王に対して策動しない、かつ正当に確立されている秩序に反して行動をとらないという、ふたつのクンバーラント公爵の誓約は、プロイセンの国益を保証するに十分ではないと私は考える。それというのも、このような立場表明が行われるのであるとすれば、それはハノーファーがもつ権利の存続を言外に承認することとなりうる上、それは、公爵がこれらの権利を行使するためにいかなるたくらみも企てない、という不確かな前提によってのみ成立するものであり、よって大筋はクンバーラント公爵がそれを彼の声明のなかに取り入れた考え方そのものとなんらかわりはないのである。われわれが必要としているのは、クンバーラント公爵が、ドイツ帝国およびプロイセンの正当に形作られた秩序に反する策動をとることによってもたらされるであろう脅威に対する保証ではなく、ハノーファーの数カ所での策動の放棄が確約され、その効果が現れることこそわれわれが必要としていることなのだ。クンバーラント一派が策謀を断念するだけでは、ヴェルフ党のかの地域での策動にはなんら影響しない。この策動の首謀者らは、エルンスト公爵を主導者としてではなく、ただ単に道具としてしかみておらず、公爵の積極的な協力がなくともかれら自身のみで、本年の選挙の際に発揮したのと同様の情熱をもって、今後も政府に敵対していくことであろう。
私は、双方の内閣によるこの件につき実務交渉の次の段階に入るよう、ただうやうやしく陛下が信任される方にお任せするところである。
この通達の写しは、陛下への口頭による上奏する際の基本文献として送付するよう、フォン・ビュロー氏にお願いした。
フォン・ビスマルク
親展
ホワイトホール、ダウニング街10番地
4月8日
拝啓 閣下
閣下はお忘れになってはおられないと存じますが、わたくしにベルリンで合意いただいたことは、もしなにか承認出来ないことが再び生じた際は、双方互いに秘密裡に、そして率直に連絡をとりあおうことにしよう、ということでございました。
他日わたくしが聞いたことでございますが、わが国のさる高位の人物が貴国のある高位のお方と連絡をしようとしておりましたので、この件はわたくしにお任せいただき、通信をお控えいただくよう申し上げたところでございます。
閣下、問題はこうなのでございます。故クンバーラント公爵はその遺言のなかで、公爵のご令室とご令嬢がたへ、公爵の個人財産から遺贈されました。しかしながら公爵の財産はその片意地により、公的私的問わずすべて没収されましたので、その実このご婦人がたは文字通り生計の手段がなくなっております。
「このようなとても私的な困窮に、閣下の政治的なお力をいただくには、閣下はあまりにも高貴であらせられますので、閣下の御意にかなうべくもございません。わたくしが口をはさむところではございませんが、しかしわたくしがこの心の痛むお暮らしをされているご婦人がたのおそばに立ち、あえて閣下に懇請いたしますのは、このかたがたの元のくらしの復元をドイツがすることこそが、ドイツの政治の正義性をより神聖かつ強固なものにするであろうことと信じているところであるからであります」。
閣下におかれましても、くれぐれもご自愛くださいませ。この前お目見えして以来、多忙でご挨拶もままならず失礼いたしておりますので、どうぞ閣下の魅力的なご家族に、とくに、閣下のご令室に宜しくお伝えいただければ幸いでございます。ご令室におかれましてはいつか彼女の親切心と、特に美味しい夕食を賜れますよう、と願い期待しております。
敬具
閣下の忠実なしもべより
ビーコンスフィールド
拝復 親愛なる閣下
今月6日付の貴翰拝誦いたしました。この案件を外交チャンネルからわれわれの間の極秘通信チャンネルに切り換えてくださったご配慮に深謝申し上げます。
メアリー女王陛下とそのご令嬢方のつらいお立場を鑑み、かの方々にふさわしい対策を探し出すことが妥当であると考えます。しかしながらこれは、プロイセン政府の側においていかなる義務をも持たないことを明言しておきます。ジョージ先王陛下の遺言を閣下はご親切にも抄録として送ってくださいましたが、この遺言は誤った想定に基づいております。すなわち、私が同封させていただきます覚書から読み取れますように、我々の遺産管理にはこの遺産手当を支払う基金がありません。また、1842年11月、女王メアリーとその子孫のためになるように作成された合意書はプロイセン政府を拘束するものではありません。
しかし、先王陛下の私有財産として英国その他に存在するものは専らクンバーラント公爵へ渡っておりますので、私は、プロイセンの諸大臣の同意を取り付けたのち、皇帝陛下に、上述の合意書におおよそ相応する金額が女王メアリーとご令嬢方に、ご生涯を通じて支払われるように提案する心づもりです。もし、クンバーラント公爵が昨年6月の声明を発した際の姿勢が続く場合、押収された財産はプロイセンの国庫に戻されることになるでしょう。さらに私といたしましては正当性の観点から、前述の年金の存続を確保し、王家御婦人達御三方が、自らではどうすることもできない事柄の犠牲になることを決して許さないよう尽力いたす所存です。
閣下が私の一家を思い出してくださるというお気遣いのなか私は、閣下が英国ライオンを領地のそこかしこで悩ませる、手に負えないスズメバチを追っているような政策を慮っております。私の妻と娘は閣下のご親切なお言葉に感謝し、私同様閣下にもう一度拙宅のマホガニーを囲んで私的にお会いできるようお祈りしております。
敬具
フォン・ビスマルク
No.4
ザクセン・アルテンブルク公爵エルンストよりのビスマルク侯爵宛書簡
アルテンブルク、1879年4月11日
(文書作成番号: II類ハノーファー2番I巻より引用)
閣下
私の近い親戚であるハノーファーの先王妃マリーならびにご令嬢がたのために、閣下に、以下の事項を、おそれながら陛下に具申いたしたく、ここにそのお許しをお願い申し上げます。
添付いたします覚書には請求の簡単な一覧が含まれています。これは、先王妃マリーの「結婚財産」、すなわち結婚の際、いざという時のために夫君から譲り受けたものであり、また王女フレデリーケと王女メアリーの「現物給与」すなわち日頃の生活の糧であります。それは、同封いたしますハノーファー王家の家法と同国法に沿い作成された1842年11月22日および同26日付の結婚協定書に基づいた権利であります。その認証済謄本を一部同封いたします。
閣下、私の切々たる希望といたしましては、閣下ご自身がこの件を先入観なしに吟味されれば、この主張があらゆる方面を鑑みても根拠が認められることを御納得いただけると思います。そしてこのことが陛下のお耳に達するやいなや、陛下はかたじけなくもその実現のために必要な指示を発してくださると私は信じて疑いません。
もし閣下が請求を好意的に吟味されそれに必要な陛下の勅令をいただくようとりなしていただけるならば陛下は私に深く感謝をされることとなるでしょう。
閣下におかれましてはすでにご納得のことと思いますが、同封いたしました結婚協定書を締結したひとりであるザクセン・アルテンブルク家の当時の家長である故ヨーゼフ公爵の後継者として、そして、先王妃とご令嬢方の近い親戚として、私がここに記されている利益を代表することにつき、陛下に謹んでご相談させていただきました。
この機会に私の陛下への永久に変わらない格別の尊敬の念を表明いたしたいと思います。
閣下
敬具
ザクセン・アルテンブルク公爵エルンスト
No.5
ビスマルク侯爵よりのザクセン・アルテンブルク公爵エルンスト宛書簡
ベルリン、1879年4月17日
(II類ハノーファー2番I巻、ビスマルクにより添削された草案より引用)
公爵閣下、拝啓
閣下御直筆の本月11日付の書簡を拝読いたし、閣下の私への身に余るご信頼に感謝申上げます。私は、閣下の拠り所とされている法解釈につき、おそれながら同意はいたしかねますが、私の権限の及ぶ限り、喜んで、王妃マリー殿下とそのご令嬢方の御身分相応のご要望に添うために、適宜働きかけをいたしたいと思います。これは、いうまでもなく、私ひとりの裁量で決められるものではありません。私はさしあたり、プロイセン内閣の了承を取り付けなければなりません。その了承の後に、陛下の勅命を受けることとなりましょう。この案件は、それに加え、プロイセン州議会による支持をとりつけなければなりません。
この角度からみましても、もし仮に、この案件が法的に閣下が判断されているよう根拠づけられているようでしたら、私個人といたしましてもこんなに都合のよいことはありません。といいますのも、もし仮にそういうことでしたら、これは議論の余地のない、裁判により告訴しうる請求となり、様々な方面から非難を受けるであろう措置を支持採用する責務を私が課されることもなくなりましょう。
閣下がお考えになっている、高貴な親族のかたがたのおためになる目的に対し、私はまったくもって共感を抱いており、閣下のご見解とご要望に誠心誠意添うことのできるよう、問題となっている懸案に対しできる限り努力すること、そしてこの件の解決にむけて道を切り開くことができるならば、私の職責を行使することを厭いませんし、むしろそれを喜びに思います。どの程度までそれが進んでいくかは今後の斟酌次第となるでしょうが、私はもうすでに、直ちに実務的な手段を執りました。閣下におかれましては恐れ多くも今後、私のとる措置の結果につき、その都度ご報告致したく、そのお許しをいただければと思います。
恐惶謹言
閣下
恭順なる従者の
フォン・ビスマルク署名
No.6
帝国宰相ビスマルク侯爵よりの王国内閣副総理ツー・シュトルベルク・ヴェルニゲローデ伯爵宛命令書
ベルリン、1879年4月17日
(II類ハノーファー2番I巻、謄本より引用)
これをもって、本月5日付の財務大臣の、また本月9日付の法務大臣の所見に関連して、同封する本月11日付のザクセン・アルテンブルク公爵閣下御直筆の私宛ての書簡、ならびに、故ジョージ王の残された王妃マリー殿下の「結婚財産」、およびご令嬢方の毎年の「現物給与」の請求の実現のために公爵閣下が用いられた添付資料を謹んで念のため送付いたします。かの高貴な御婦人方の、1842年11月22日付および同26日付結婚協定書、およびかつてハノーファーで発せられた王家の家法と同国法に基づき、プロイセンに対し「結婚財産」と「現物給与」の合法的な支払請求の権利があるとの公爵閣下のお持ちになっている法解釈を分かち合うことは私には出来ませんが、財務大臣と法務大臣の所見の中で展開されている、プロイセン国庫はこの類の要求に決して屈しないという見解に与するものです。しかしながら私は政治的観点から、王妃マリー殿下とご令嬢方に、身分相応の生活を保証する毎年の支払が認められることが適当であると考えております。
信頼しうる情報源からの情報によりますと、王妃殿下と、とりわけそのご令嬢方は事実、経済的にみてお困りの生活環境の中におかれており、クンバーラント公爵はその母上と姉妹達のために、今までより多額かつ定期的な仕送りをするつもりはなく、またそもそもその余裕もありません。したがって、ご婦人方は本当の意味での苦境に陥ることになりかねません。このことの、外国ならびにハノーファー州において引き起こす印象は、クンバーラント公爵のかのご婦人方に対する対応が無責任なものである以上、私は我々の政治的な利益にとってマイナスとなり、ヴェルフ一派の影響力を強めることとなると考えます。
予定している支出はさしあたり、ジョージ王の差押えられた財産からの収入から、ならびにプロイセンが保証している補償金からなされるべきです。
「当該基金からの支出の適法性につき、財務大臣ならびに法務大臣により確認済ですので、前述の観点から王妃マリーならびにご令嬢お二方への年金につき、陛下のご許可の申請がなされるべきかどうか王国内閣のこの件についての所見を定めるよう、閣下に謹んでお願い申し上げます。」
支出されるべき金額につき私の考えは、これは財務大臣と合意済ですが、支出額は要求されている金額と等しく算出されてはなりません。といいますのは、結婚協定ないしそれと関連する以前の王家の家法と同国法上の規定に基づく支払義務を、プロイセン側が承認した形になるのを回避するためです。
「そしてさらに、その支払認可がその即時撤回の留保条件付でなされることに私が同意を示すのであれば、私のその留保条件についての考えを予め述べておいたほうがよいと思います。すなわちその撤回がなされる場合、もっともこれはクンバーラント公爵の対応如何に依りますが、管財人の管理下にある基金はプロイセン州の国庫に没収されること、前述の年金支払が合法化され、プロイセンの国庫よりなされること、これがこの件に関する私の考えであります」。
閣下に謹んで引き続き指示をさせていただくうえで、この書簡につきましては、謄本と添付資料を内閣閣僚全員に送付したことを念のため申し添えます。
フォン・ビスマルク署名
No.7
ビスマルク侯爵よりのザクセン・アルテンブルク公爵エルンスト宛書簡
ベルリン、1879年5月26日
(II類ハノーファー2番I巻、ビスマルクにより添削された草案より引用)
公爵閣下
謹啓
閣下本年4月17日付返書のなかでお答えを差し上げました際、確かにご報告申し上げましたが、王国内閣が、1842年11月22日付および同26日付の結婚協定書、そして以前のハノーファーで発せられた王家の家法と同国法に基づく王妃マリー殿下のプロイセン国庫に対する請求権を承認することは難しいと思われます。かの結婚協定書、そしてかの法律と、それを根拠としている国家への請求に関連する規定は、ハノーファー王国そして支配者としての王家の存続という前提条件に基づいています。この正当性が疑わしい請求権の成功不成功がかかっているこの前提は的確ではなく、ドイツ帝国憲法における憲法上の、ならびに国際法上の前提条件と相容れません。そこで王妃マリー殿下ならびにそのご令嬢方に、ジョージ王にたいして1868年2月28日付の法律に基づき認められ、そして後に押収された、ジョージ王の財産部分から生じる収入の中から、差し当たり年金が認められよう、陛下の御認可をいただくべく、王国内閣は政治的理由から決定しました。
認証謄本の形で謹んで同封いたします、本月14日付勅令により閣下におかれましてもご理解いただけますように、陛下も次のことに同意されております。すなわち王妃マリー殿下および令嬢フレデリーケと令嬢メアリーに、本年4月1日から、経常的年金20万マルクならびにお一方あたり3万マルクの継続的年金がヴェルフ基金の収入から、即時撤回の留保条件付で支払われるということへのご同意です。
つきまして、王妃マリー殿下にこの件をお伝えいただくとともに、年金の支払の際の殿下のお望みを私に伝えていただくよう、そして財務省において年金を受領される際の、殿下の信任状をもつ全権委任者を選定されるよう、閣下におかれましては謹んでお願い申し上げます。
以て深き尊崇の念をもちつつ閣下にご報告申し上げます。
謹白
フォン・ビスマルク
No.8
元プロイセン財務大臣K.H.ビッテルよりのビスマルク侯爵宛書簡
ベルリン、1884年3月21日
(証拠文献34番より作成)
少し前に、信頼できるとされる、とある人物を通じて、クンバーラント公爵が、プロイセン政府とハノーファーのジョージ王の財産の押収廃止について合意に達することを望んでおられるとの報告がウイーンよりなされました。
同時に、それに関連する交渉の仲介を私が引き受ける気があるかどうか問い合わされました。
私は、閣下と王国内閣が、これは私見でございますが、検討に値し、そして私自身、それが本当に真剣に意図されているものであるという確信のうえで、向こう側から適切な提案がなされるかどうかにかかっていると答えました。これをもって謹んで同封いたしますのは、私にとっての説明用の試案の写しであり、クンバーラント公爵はこれを渡す準備が整っております。
これについての私からの意見と致しましては、
1. 私に伝えられたとおり、ハノーファーの王位と王権を公爵が放棄する試案の内容は、
帝国憲法と、ドイツ帝国およびプロイセンの現在の国土規模の存続に抵触するすべてを、公爵自らすすんで公式に、かつ一切の留保条件なく放棄する
というものであり、父君のご臨終の床でなされた誓約によってある一種の限界的なものを前提としており、
2. 公爵が関連づけたブラウンシュヴァイク家の相続問題は、また別の機会の交渉の中で取り上げられるのが最良と思われます。
この状況の評価につき、畏くも閣下にご判断を委ねつつ、これより先の交渉をする際必要な全権委任状をいただく前に、陛下におかれましてはこの案件につき、さらなるご指示がおありかどうかをおききしたいと切に望みます。
そして状況により、それが得策と思われるようでしたら、上述の公爵の宣言をもとに、今後の交渉の基礎を果たして、そしてどの程度まで築けるかどうか、陛下のご心中をお知らせいただきたいと思います。クンバーラント公爵が、どうみても非常に関心をもっているブラウンシュヴァイク家の相続に関して、なにかご報告することが万一発生する場合は、公国のその相続権は問題にもならず、かつとうてい容れられるものではありませんが、公爵はあきらかにご令息への相続を視野に入れているのですから、公爵の起こりうる爵位継承の前に、起こりうる将来の策動計画からドイツ帝国とプロイセン王国を守るであろう、公爵の声明を出すという留保条件は必要不可欠かつ懸念はないように私には思われます。
この案件につき、閣下のご指示を謹んでお待ちいたしております。補足させていただくなら、クンバーラント公爵は、達成しうる合意は早ければ早いほどよいと考えておりますので、プロイセン州議会に(ヘッセンの押収廃止の例に従い)例の非常に短い法案を今会期中に審議にかけることはできます。
ビッテル
同封内容:
クンバーラント公爵閣下は、亡くなったお父君であるハノーファー王ジョージの財産に対する押収の廃止について、ここしばらく妨げとなっている障害を取り除こうとされておられます。「押収によりプロイセンの管理下にある財産の、担当の関連機関によって計上された最終決算に基づく金額を、クンバーラント公爵ないし公爵の委任状を持つ代理人に、プロイセン王国政府が確実に支払うという前提のもとに、そしてさらに、もし仮に万一ブラウンシュバイク公爵が亡くなられた後、クンバーラント公爵閣下が相続権に基づき、相続人としてブラウンシュバイク公国に入る場合、プロイセン王国政府がその爵位継承に対して根本的に異議を唱えないというのであれば、すなわちそのクンバーラント公爵閣下はいままさに御自ら公式に、そして留保条件なしに、ドイツ帝国とプロイセン王国の存続とその憲法に対する異議を唱えることを放棄するつもりでおられます」。そして公爵閣下は本案件が速やかかつ円滑に、そして本案件に関連する細目がきちんと順序正しく行われるよう、公爵閣下御自らがプロイセン王国政府との関連予備交渉をお任せいただきたいと熱望もって、特命全権委任状を携えた全権使節を指名することになるでありましょう。
No.9
ビスマルク侯爵よりの元財務大臣ビッテル宛返書
ベルリン、1884年4月5日
(証拠文献34番、ビスマルクにより添削された草案より引用)
閣下の3月21日付書簡は、提案として持ち込まれた案件につき陛下と皇太子殿下のご意向を確認[する]まで、未決のままにせざるをえませんでした。遅ればせながらこれをもって回答申し上げます。プロイセン政府とクンバーラント公爵との間に合意をもたらすための閣下のご尽力に謹んで感謝したいとは思いますが、このような意図の交渉に対しては私自身は距離を置きたいと思います。
閣下と同様私も、ブラウンシュバイクの相続とヴェルフ財産の押収の廃止は別個に取り扱うべきだと見ています。私は他方で、ハノーファーのヴェルフ党の指導者の対応が、関係者のすべての所見表明で、最近の例ではゲッティンゲンのゲッツ・フォン・オレンフーゼン氏の選出の際に記録されたようなものである限りは、後者の、押収廃止の措置のみを進めていくことはお薦めできかねます。提案された趣旨でクンバーラント公爵と合意に達することは、ヴェルフ一派の敵対的な対応が変わらない限り、そして、ハノーファーの住民のなかの公爵側の支持者達らが率先して和解を望み、かつ現状を速やかに取って代わるべき暫定的な状態とみなさなくなることを表明する兆候が現れない限り、プロイセンの国家にとって有益ではありません。クンバーラント公爵の回りくどくなく、曖昧でもない放棄のお心と、以前の臣下へのそれ相応の指示と要請だけでは、ヴェルフ財産の管理の停止により起こりうる結果ならびに公爵の態度のうえに成り立っている保証を取り下げることによって起こりうる結果についての責任を考えますと、目下の状況ではそれを正当化するに十分ではありません。
ハールブルクでの前々回の帝国議会選挙で生じたように、暴発へと発展しそうな策動を妨げたり、新たな懸念を抑止するのは、政府の義務であり、そして、公爵との合意に達するまでは、ハノーファー一帯における鎮静化と恒久的な友好関係の礎が築かれるまでは、われわれは確実さのほうをとらねばなりません。われわれは、最近のゲッティンゲンの選挙の際に公然と活動をするようなやり方をかの一派の信条と指導者層がもっている以上、和解の道をとらない好戦的なかの一味が、その策動を続けるための増強されつつある資金源と、一味にとって段々とよくなってゆく情勢は決して容認できかねます。
フォン・ビスマルク
No.10
ザクセン・アルテンブルク公爵エルンストよりの皇帝ヴィルヘルム二世宛書簡
アルテンブルク、1890年5月22日
(プロイセン5 /1a番II巻、謄本より引用)
本日クンバーラント公爵の件できみを煩わすのを、厚かましいと考えたもうな。もし公爵と、そして彼のお母上であるハノーファー王妃マリーからこの案件に関し、きみの関心を喚起してほしいと懇請されなかったとしたら、これについてはきみへは一言も語らなかったことだろう。あのかたがたの望みは、同封するお二方の手紙を一瞥するだけで明らかだ! わたしは、きみにこれをみせること以外にできることはないし、する必要もないと思う。実は、この二通の手紙はきみがかたじけなくも訪問してくれる少し前に届いていたのだよ。きみの貴重な滞在中はこの件に触れないでおくのがふさわしいと考えて、だから君が国元へ向け出立してから14日経った今、初めてこの行動をとろうと思ったのだ。
この望みに寛大な配慮を施すことがもし可能なれば、私としては非常に嬉しく、そしてこのことに直接関係してくる人々に大いなる恩恵を施すこととなるであろう。この案件に関するすべてをきみの手中に委ねつつ、私の出発の前に慈悲深き従兄弟へ一筆書かせていただいた。
きみの、きみに心の底から忠実なる
そして心服している従兄弟かつ従者である
エルンスト・フォン・ザクセン・アルテンブルク署名
No.11
クンバーラント公爵エルンスト・アウグストよりのザクセン・アルテンベルク公爵エルンスト宛の書簡
ペンツィング、1890年4月22日
(プロイセン5 /1a番II巻、謄本より引用)
敬愛する伯父上
伯父上が私に日頃から示してくださった、肉親としての愛情に満ちたお気遣いにより、今が伯父上にとって激動の時期であることは承知しておりますが、ここは思い切って、私にとって重要な問題で伯父上を煩わさせていただきます。それというのはわが家門の財産問題で、伯父上が我が家に訪問された折りに話し合ったことで、もう私の考えをご存じのことと思います。伯父上がドイツ皇帝であられるところの陛下の光栄なるご訪問の間、このわが家門にとっての懸案につき、もし話す機会がある時のために、ひとつだけ言及しておきたいと存じます。
つまり、私が伯父上にお話ししたいことと申しますのは、純粋に家門内の、私的な財産状況にのみ関係のある問題が、先日プロイセン下院での党派間討議の対象になったということは、私自身にとってまったくもって好ましいことではなく、いえ、実のところ、著しく不愉快であったということでございます。議会で、諸々の党派がこの財産条約の履行問題につき討論したことによりこの問題は、この問題の性格から決して起こりえないある種の土壌が形成されてしまいました。
といいますのもこれは、陛下と私との間のまったくもって私的な、わが家門の家族世襲財産についての条約に基づく私の請求に関する事柄であるからでございます。
1867年9月29日付の条約は、国王ジョージ五世の財産状況それそのもの以外のなにものをも対象としていなかったのでございます。この条約は二王間のみで締結され、そして二王は自らの署名によりその遵守義務を負いました。いかなる但書、前提、条件もなしに、いまや神のみもとで安息されている私の父がこの条約を直ちに履行した時のように、そしてまた、ヴィルヘルム先帝陛下がそれと同時にこの条約を履行し始められた時のようにでございます。しかるうえにもしこの条約が、条約の当事者である高貴なお二方の明確なご意思ならびに条約そのものに基づき履行されるのであれば、それは議会の介入なしに、ただただ陛下の意思表明ひとつによって実現されなければなりません。この件の法解釈にとって押収法はその効力をもっておりません。なんとなれば、それは故人となった私の父親個人に対してのみであって、その死去とともに消滅しておりますので、この法律をあらためて正式に破棄することはもはや必要ではないのです。
親愛なる伯父上、この条約と法解釈に基づき、またその気高き正義心ゆえに有名な陛下におかれまして同意いただけると思われますこの見解を、もし伯父上のほうから陛下へ言上いただくことができるならば、私といたしましてはこれ以上の喜びはありません。
そして、ドイツの貴族が私的に仲介することにより、財産に関する条約の案件が陛下の意思表明のみで、解決への道が開けることを私としては最も望むところでして、私個人の考えとしましては、この方法が両当事者にとって満足するであろうということを付け加えます。
伯父上をこの件でこれから煩わせることを切にお詫びいたすとともに、私の心からの感謝を捧げます。
テューラから心からのご挨拶を伝えるよう言われております。伯父上の手へは子供たちからのキスをお受け取りください。どうぞアグネスに、そしてまたすべての親戚の方々に私達の心からのご挨拶をお伝えください。
敬愛する伯父上様
敬具
忠実なる甥の
エルネスト・アウグスト署名
No.12
皇帝ヴィルヘルム二世よりのザクセン・アルテンブルクのエルンスト公爵宛返書
新宮殿、1890年5月28日
(プロイセン5 /1a番II巻、帝国宰相により作成された草案より引用)
親愛なる従兄弟殿
あなたの今月22日付の手紙につき、急いで返答しますが、王妃マリーとクンバーラント公爵の要望については、誠に遺憾ながら理解を示すことはできません。
ハノーファーの家族世襲財産返還の案件は純粋に私法上の問題であり、その遂行には私個人の意思行為のみ必要であるという公爵の見解は、適切ではありません。ジョージ王とそのご子息の、私の宮廷、プロイセン国家ならびにドイツ帝国への敵対的な姿勢でこの案件は、とっくの昔に私法上の領域から国法上のまた国政上の領域に移ってしまいましたので、1869年2月15日付の明確な法文に基づき、かの財産の返還のためには、それとは別の立法手続が必要となります。
ですが、このやりかたでは私としては、皇帝としての判断の後、次の前提の下にはじめて考慮の対象となりえるでしょう。すなわち、わが王家とわが国、そしてクンバーラント公爵との間の、1885年7月2日付の連邦参議院決議のなかで定められている目下の状態が、公爵の意思表示により完全に最終的に終わりを告げるという前提、しかもそれに加えて、このわれわれ両者の状態のなかに根ざしている、わが王家とわが国に敵対する策動もこれっきり最後とするという保証がなされるという前提です。
私がいただいたこの二通の私的な手紙は、これをもって返送します。
アルテンブルグの滞在での楽しい日々を感謝とともに思い出しつつ
あなたの心より忠実な従兄弟より
御名