「100匹のアリの問題」の解説


 問題はこちらです。

 長さ1メートルの細い棒の上に、アリが100匹いました。アリのいる場所はばらばらで、アリの向きも、右向き、左向きランダムです。どのアリも毎分1メートルの速さで歩いています。アリ同士がぶつかると、どちらのアリも瞬時に反対向きに向きを変えて同じ速さで歩き続けます。棒の端にたどり着いたアリは棒から消え去って戻ってきません。

 さて問題です。最初のアリの位置や向きがどんな条件であったとしても、アリが棒の上から一匹もいなくなるためには、最短でどれだけの時間待てばよいでしょうか?

 この問題は、web上には複数個所で紹介されているようですが、出典は不明、とのことです。(いずれも英語のページです。)

 この問題を解くにあたって、次のような思考実験をしてみましょう。

 100匹のアリが、それぞれ1本ずつバトンを持っているとします。アリ同士が衝突したときには、お互いに持っているバトンを相手に渡して向きを変えます。最初に右を向いていたアリは赤いバトンを、左を向いていたアリは白いバトンを持っていることにしましょう。アリではなくバトンに注目すると、赤いバトンは、それを運んでいるアリが衝突するたびに運び手が変わりながら、常に毎分1メートルの速さで右に進んでいきます。逆に白いバトンは、常に毎分1メートルの速さで左に進んでいきます。

 アリが棒の先端にたどり着いたときには、最後に持っていたバトンと共に棒から消え去りますので、棒の右側からは赤いバトンだけが出て行き、左側からは白いバトンだけが出てゆくのです。ということは、一番長いこと棒の上に残る「バトン」は、左端にある赤いバトンか右端にある白いバトンということになります。(その、最後のバトンの最後の運び手になるアリが、最後まで棒の上に残るアリ、ということになります。)

 ということは、最悪でも1分待てば、棒の上からアリは一匹もいなくなるのです! いかがでしょうか。直感的にはもっと時間がかかりそうなのに、こうして考えると、明確に1分という答が出てくるのがとても鮮やかだと思います。

 ここまで読んでいただいて明らかなように、この問題、実はアリの数は関係ないのです。棒が1メートルでアリの数が100匹、というのも、実にうまい設定だと思います。



 以下、おまけです。

 この問題を、こういう問題を面白がってくれる(数少ない貴重な)同僚の若い物理屋さんに出題したときに、「けっこう時間がかかりそうな気がしますね」と言ってくれたので、「両端が解放端の長さLの1次元空間に、質量mの質点が100個、ランダムに配置されている。速度は+vか-vのいずれかである。質点は完全弾性衝突するものとして、両端から全ての質点が出てゆくのはどれだけ時間が経過した後か?」と言い換えたら、一瞬で正解を答えてくれました。さすが。

 この問題を出題した日に、珍しく2名の方から答を送っていただきました。そのときに「衝突したときに、アリがSF映画のように一瞬で入れ替わる、と思っても同じなのですね」とか、もっとシンプルに「衝突ではなくすれ違うと考えても同じなのですね」とコメントをいただきました。


[↑表紙へ] 

mailto:hhase@po10.lcv.ne.jp
2001-2007 hhase