THE SAME

 

 

 

 

「父上、母上、本物のルークを連れてきました」

 

先刻、屋敷の前でルークは例の頭痛に襲われ、いつものようにアッシュの声が頭の中に響き渡った。
自分の声であって違う声、ルークより少しトーンの低い声。

始めのうちは酷く鬱っとしかったそれが今では何故かとても心地が良かった。

頭痛は相変わらず頭が割れるほど痛いのだが、その声を聞くと何故か安心出来る。

 

港へ来いと言うアッシュからの待ち合わせを拒否し屋敷へ来いと伝えた。

二人の居場所を確認するためにはこれが一番良いのだとルークは考えたのだ

しばらくして屋敷に来たアッシュはローレライの宝珠の事だけを報告すると直ぐに屋敷から出て行こうとした。

慌ててルークは引きとめファブレ夫妻のいる部屋へと向かった。

 

「おいレプリカどこに連れてく気だ!」

「良いから着いて来いって。」

 

アッシュは聞くまでもなく、なんとなく予想はしていた、自分のレプリカであるルークが何を考えているかなど

だいたいは分かってしまう。だからこそ、その事が々させるのだ。

ファブレ夫妻の部屋の前まで来るとルークは事もあろうにアッシュの腕を掴み部屋のノブに手を伸ばした。

 

「てめ!なんだよこの手は」

さわるんじゃねぇ!と罵声を飛ばすも、ルークは掴んだ腕を離そうとはしなかった。

馬鹿かこいつはここまで来て今更逃げるとでも思ってるのか!?

訝しげにルークを見ると思いもよらない言葉が返ってきた

「大丈夫だから・・・」

突然訳の分からない事を言われ、アッシュはさらに眉間に皺を寄せた

 

「あ!わりぃ・・・けど、アッシュ不安そうな顔してたから・・・」

「なっ!てめぇ、余計なお世話だ!」

これだからレプリカはムカツクのだ。同じ、だから相手が何を考えているかが分かってしまう。

両親にあって拒絶されたらと思う少なからずの不安・・・それをルークは感じ取ったのだ。

 

部屋に入ると予想通りの反応が返ってきた。

「ルーク!ルーク?」

シュザンヌの驚きの声を聞きつつルークはアッシュの背をそっと押した。

「あなたの本当の息子のルークを連れてきました。」

本当の息子・・・ルークは自分が発したその言葉に酷く動揺した・・・

 

そう、俺はレプリカ・・・人間の体内からではなく第七音素で構築された物体・・・人ではない・・・音素の集合体・・・

頭で分かってはいても、やはり現実的に受け止める事が出来ない・・・

先ほど出くわしたバチカルの民達もレプリカの事を快く思っていない。

むしろ忌み嫌われる存在でしかない。

ルークの目じりが薄っすら潤んだ。それを払いのけようとルークは部屋を後にした。

 

「じゃあ、俺庭にいるから!!!」

「おい!レプリっっっ・・・」

アッシュはいつものように呼びかけて口を押さえた。

さすがに両親を目の前にしてレプリカと呼ぶのは躊躇いがあった。二人にとってもあいつはルークなのだから。

 

屑が・・・泣きそうな顔・・・しやがって。

 

アッシュはルークの出て行った扉を見つめていた。

それに気づいたのかシュザンヌがアッシュに優しく問いかけた。

 

「ルーク、ルークなのね!」

「ご、ご無沙汰してます母上」

その返事にシュザンヌはそっと微笑む。

「神託の盾騎士団にいたのか。・・・大きくなったな」

「はい・・・。」

 

ぎこち無さは消えないが今はそれでも十分だった。

昔と変わらない母の優しい微笑が見れたから。父のなんとも申し訳なさそうな顔が見れたから。

「ルーク。」

シュザンヌがその名で呼ぼうとしたのをアッシュは制止た。

「父上、それに母上、こちらに伺うのが遅くなり申し訳なく思うのですが俺はあの誘拐された日に

ルークの名を失いました。今は・・・・・・」

しばしの沈黙の中、意を決したようにアッシュは呟く。

「・・・・・・アッシュ。神託の盾騎士団。六神将、鮮血のアッシュ。これが今の俺の名です。」

 

「そうか・・・ルーク・・・いやアッシュよ。苦労をかけさせてしまったな。すまない・・・」

「ですが、あなたがどんな名であっても私の息子。それだけは変わらない事実よ。

またいつでも帰ってらっしゃい。」

シュザンヌの優しい言葉に胸の中が暖かくなった。

もう一度ここへ戻れたらどれほどいいか・・・だがここにアッシュの居場所はない。

レプリカであれ、ここに必要なのは「ルーク」なのだと。

 

「お言葉ありがとうございます。ですが私はもうここには二度と戻りません。父上も母上も・・・・お元気で・・・」

振り返り部屋を出ようとしたアッシュを、シュザンヌが引き止めるように声を掛けた。

「ルーク!・・・いえアッシュ。今日はもう遅いわ、せめて、せめて一日だけでも泊まっていきなさい。」

 

どんなに意地っ張りでもやはり母親には適わないものだ。あのように寂しそうに言われてはアッシュも

嫌とは言えなかった。アッシュは一晩屋敷に泊まる事になった。

なにより気になったのは先ほどのルークの今にも泣き出しそうな顔だった

 

ったくなんだってあの屑は分らねぇんだよ。

人から居場所奪っておいてふざけるな。ここにはもう俺の方が居場所がねぇってのに。

ルークのレプリカだと言う引け目になりがちな言動に苛々しながらも久しぶりに自分の部屋へと

足を踏み入れた。もう一人のルークの待つ部屋へ・・・・

 

 

客室を用意してくれると言うシュザンヌの言葉に丁重に断りをいれた。

本当はルークと同じ部屋など考えたくもなかったがあえて客室を用意してもらうと言うの躊躇いがあった。

本心では自分の部屋、(今となってはレプリカルークの部屋だが)へと戻りたかったのかもしれない。

 

 

 

「アッシュ?」

部屋の隅に無言で立たれると言うのはなんとも居心地が悪かった。

部屋の窓際に立ち窓の外を眺めているアッシュだか時折ルークの方に視線が向けられてる気がして。

それがルークには気になって仕方がなかった。

気がする、と言うのはルークがアッシュの方を見た時にはアッシュの視線は窓の外に向けられているからだ。

ただなんとなく見られていると言う気配がするのだ。

既に二人とも寝着に着替えてはいたのだが寝る気配もない

 

「なぁ、アッシュ立ったままで疲れないか?」

相変わらずの沈黙・・・そんな沈黙に耐え切れずルークはもう一度だけ問いかけた

 

「アッシュ?やっぱ俺となんかと一緒に寝るのは嫌・・・だよな。」

「・・・・・・・・・・」

アッシュの居場所を奪ってしまったのは紛れもなく自分、名前も。家族も。・・・この部屋も。

全て被験者ルークから奪ってしまった。

もちろんルークが好意的にやったのではなかったとしても、アッシュにとっては許しがたい事実。

それは変わらなかった。

 

「なぁ。俺ティア達が泊まってるホテル・・・行くよ。だからさっ。アッシュはここ使ってよ!」

ルークが言い終わるをやいなやアッシュは眉間に皺を寄せ声を荒立てた。

「使ってよだと!元々ここは俺の部屋だ!言われなくとも好きに使わせてもらう。」

ふんっとまた窓の外に視線を向けてしまう。

 

あ〜あ。また余計な事で怒らせちゃったな。とルークは軽くため息をついた

「そうだよな。ごめん。」

そう言うとルークは立ち上がり部屋を出て行こうとした。

だか、アッシュの思いがけない一言がルークの耳に飛び込んできた。

 

「おいレプリカ、何処へ行くつもりだ!」

「えっと、だから皆の泊まってるホテルに・・・アッシュ俺がいると迷惑みたい・・・だから。」

迷惑・・・。そう、折角世界でたった一人の自分の同位体・・・そんなアッシュに迷惑をかけるのも、

嫌われるのもルークには耐えられなかった。

 

振り返ってアッシュを見つめるルークの瞳は微かに潤んでいた。

そんな顔をみせられアッシュは動揺した。

自分と同じ顔のはずなのになぜだか魅せられて目が離せなくなってしまう。

 

「てめぇのそう言う所がムカツクんだよ!いいか、この部屋は俺の部屋でもあるがてめぇの部屋でもあるだろが!」

そう言うアッシュの眉間にはいつもにまして皺が出来ていたが、その放たれた言葉にはルークは耳を疑った。

 

(てめぇの部屋)それは自分もここに居てもいいのだと言う、分かりずらいがアッシュらしい言い回しであった。

その事を理解したルークは思わず目から雫を漏らしていた。

 

「おいっ!何泣いてやがんだこのレプリカが。」

ルークはハッとして頬に手を伸ばして涙を拭った。よほど嬉しかったのだろう。この部屋に居てもいいと、

アッシュの側に居てもイイと言ってもらえた事が。

その嬉しさを涙から笑顔へと変えた。

「ありがとう、アッシュ。」

 

気恥ずかしさから、ふんっと顔を逸らしながら中央に置かれているベットへと潜り込ませた。

相変わらずのしかめっ面のまま。

ルークもベットへ入ろうとして驚いた事は、そこには一人分のスペースが空いていた。

アッシュが右端に寄ってくれていたのだ。ルークはその事にも嬉しさを感じ空けてくれてある

左側へとそっと潜り込んだ。

二人で寝るには少し小さめのベットに二人は背中合わせにして眠りについた。

 

 

 

 

 

「・・・・っ・・・・・・」

夜も更けった頃、アッシュは微かな声音に目を醒ました。

・・ご・・なさ・・・い・・・ごめん・・さい。

ボーっとする意識の中、再び聞こえた弱く消え入りそうな声にアッシュは意識を覚醒させた。

ひっく・・・おれの・・・せいで・・・ごめ・・・」

泣き声交じりの声にアッシュは思わず振り返った。

 

いつの間にこちらを向いていたのだろう?

そこには鏡、否鏡などより同じ、全てが同じパーツで作られた自分のレプリカの顔があった。

一つ違うとしたらアッシュにはこうやって涙を流すことはしないだろう。笑顔もまた・・・失ってしまった。

今は閉じられている翠色の瞳からは透明な雫が滴り落ちていた。

随分と長い間流し続けていたのだろ。頬にはあとが幾つもあった。

 

その様子があまりにも儚く見えアッシュは無意識にそっと頬を伝う雫を拭った。

 

「・・・・っ!?」

自分のした行動に酷く動揺した

恨んで、憎んで、憎む事でしか生きていけなかったその相手に向けて取った行動とはアッシュ自身が

一番驚いていた。無意識とは恐ろしいものだ、アッシュはそう思った。

 

ア・・・ッシュ

 

困惑していたアッシュに更に追い討ちをかける言葉をルークは口にした。

ごめ・・・な・・・アッ・・シュ。

「夢の中までこいつは俺に謝ってやがるのか。・・・屑が」

 

 

しばらく様子を見ていたが急にルークの表情が何か恐ろしい物でも見たかの様に震えだした。

「いや・・・だ。こんな・・・ことに・・・しらなかっひっく。

蹲り自分自身を抱きしめながら震えに耐えるルーク。

みんな・・・ごめんな・・・さ・・・助けられなく・・・て

眠ると訪れる悪夢・・・アクゼリュス崩落そしてアッシュの居場所を奪ってしまった事への罪

その血塗られた手を、罪を、ルークは一人で背負い込んでいる。

皆の前では明るく振舞って、笑顔を見せ、自ら犯した罪に償おうと必死に頑張っている。

それは同時に、これから先も目的の為とは言え向かってくる敵を倒さなくてはいけない。

人の命を奪ってしまう・・・その事への恐怖。その恐怖にさらに涙を流す・・・・・・・

 

 

罪を背負い続けて・・・・・・・

 

 

「っち・・・・本当に何もかも同じなんだな・・・。胸糞悪い。」

アッシュは昔の自分も夜になると悪夢を見ていた。

神託の盾騎士団に来たばかりの時に任務とは言え初めて人を殺してしまった日。

目に焼きついているのは血に染められた手を伸ばしながら助けを懇願する敵の姿・・・

恐ろしさの余りアッシュは逃げるようにその場から走り出した。

 

震える自分の手を握り締め、帰る事の出来ないファブレ家を想った。

温かい腕で抱きしめてくれた母シュザンヌを・・・

起きた時に誰もいない事への恐怖はアッシュも身を持って知っている。

 

「レプリカ!・・・おい!」

パシ、パッシっと軽く頬を叩く。

「・・・・・・。ア・・・ッシュ?」

薄っすらと開かれた瞳には先程からの涙で潤んでいる。

「さっきから煩ぇんだよ」

ほえっと意識が定まらないルークの体を温かいものが包んだ。

 

背中に回された腕はしっかりとルークを抱きしめている。

自分と同じ温もり、鼓動。それに安心してルークもアッシュの体を抱きしめる。

温かい・・・その安心感に包まれてルークは再び眠りへ落ちていった。

 

 

チュン チュンと言う朝鳥の声でいつもより少しだけ早い時間にルークは目を覚ました。

ぼーとした意識のまま見慣れている天井を眺めていた。

なんだか昨日は久しぶりによく寝れた。とてもイイ夢をみていた気がする。

・・・誰かが優しく抱きしめてくれていたような・・・・

あれは・・・

 

「・・・ア・・・ッシュ?」

その名を口にした瞬間一気にルークの意識は覚醒した。

 

 

えっ!えぇ〜。な、なんだよこれ!?

自分はまだ夢の中にいるのかとも思える現状に思わず自分の頬を抓ってみるが、もちろん痛いだけ。

正真正銘の現実の世界だ。

夢の中で抱きしめてくれていた腕は今もしっかりとルークを包み込んでいる。

温かさも鼓動も夢と同じもの。そう感じるとルークは昨日のあれは夢ではなかったのだと言うことを知った。

 

「・・・寝てる・・・よな?」

アッシュがまだ深い眠りについてる事を確認するとアッシュの胸へと顔を寄せた。

この状況に戸惑いながらも、もっと近くでアッシュの鼓動を感じたくて。もっと触れていたくて。

でもなぜだかドキドキする・・・。ドキドキ?

この気持ちはなんだろう?ふと目線を上に向ければ自分より濃い赤毛が目に入る。

朝日に照らし出されてキラキラと輝いてみえる。何よりも美しく鮮やかな紅色・・・

そんなアッシュの寝顔にドッキっと胸がつまるのを感じた。

 

 

切ないような、締め付けられるような感覚。

今のルークにはまだそれがなんなのか分からなかった。

でもこれだけは思った。

 

――  俺、お前には幸せになって欲しい。・・・いつかこの場所をお前に返すよ・・・   ルーク    ――

 

 

 

 

 

 

はい!やってしまいました。初のアシュルク書いてしまいました(汗)まぁ一度ブログで書いてはいますが

あれはお遊びですし(笑)誤字雑字があったらスミマセン・・・(イヤきっとある)

アッシュがファブレ家に来た時に絶対泊まってって欲しかった!!!

そんな願いを込めた作品です。本当はもっとラブラブでもいいんですが、私のアッシュはED後までは

おあずけしててもらって(爆) え!書く気なの!?とか思いますが。ED後捏造物長編で書きたいと言うのが夢ですね^^

 

このあとルークはまた寝ちゃうんですが

次に目を覚ます時にはアッシュの姿はないです。照れ隠しですねvvvツンデレなんだから!














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