光と影の焔
〜此処に存在する意味〜

大空を鳥のように優雅に飛行するアルビオールは目的地バチカルへと向かっていた。
今回の瘴気の件をインゴベルト9世陛下に報告すると言う名目ではあるが
ルークを家で休養させたいと言う意味も兼ねての帰国となった。
そんなバチカルへ向かうアルビオールの中でルークは何度となく眠気に襲われた。
まだ昼間だと言うにもかかわらず体がふわふわするような感覚とともに頭がぼ〜っとしてくる。
自分の意思とは無関係に襲ってくる睡魔を振り払おうと腕を上に伸ばしたり足をぶらぶらさせてはみるものの
眠気は増すばかり。

これも乖離のせいなのかな・・・

そう思いながらルーク俯いた。
分かっていたようで、分かっていなかった己の終末の兆しに弱気になりそうな考えを振り払うように
頭を左右に振った。

あと少しだから・・・
この世界を、皆のいるこの世界を救いたい。大切な人を守りたいから。
罪滅ぼしなんて言う甘い考えを事を口にする気はないから。アクゼリュス崩落やレムの塔での
大勢のレプリカの犠牲。何をしたって償う事なんて出来ないから。
だからせめて今の自分に出来ることをしたい・・・
それが自分の命と引き換えにしたとしても。進むしか俺には残されてないから・・・

「・・・く・・・ルーク?眠いのなら少し休んだら?」
考え込んでいたルークに不意に後ろから声がかけられた。振り返ればそこにはティアの姿が。
膝には既に夢の国の住人となっているであろうアニスが横になっている。
「ティア?・・・俺そんなに眠そうだったか?」
図星を指され少し焦りながらも軽くはにかんだ微笑を向けた。

気を使わせてしまっただろうか?と思いつつもその優しい気遣いに心の奥が少しだけ暖かくなった。
自分はそんなに優しくしてもらえるような人間ではないのに。
フォミクリーによって作り出されただけの存在・・・
本当ならば被験者であるアッシュが居るべき場所。その場所を自分が奪っている。
何度考えてもきりがない事は分かっている。分かっていてもルークの心に深い罪悪間が渦巻く。
ティアの優しさに喜んでしまう自分さえ許せない気がした。

だけど今だけ・・・少しだけなら。いい・・・よな?


ルークはふと立ち上がるとティアの横へと腰を下ろした。
「・・・なに?」
ティアは不思議そうに隣に座るルークを横目に見る。
「少しだけ・・・肩貸してくれ。」
そう言うとルークはティアの返事も待たないまま、自らの頭をそっと置いた。
母のようにいつも自分を見ていてくれた彼女には本当に感謝している。
(ありがとな)
と心の中で呟きながら瞳を閉じる。
もぉ〜。と口では言いいながらも肩を貸してくれる優しいティアに頭を預けルークはしばしの眠りに付いた。
遠くで、「おやおや大きな子を持つ母は大変ですねぇ〜。」と相変わらず嫌味口調で話すジェイドの声が
聞こえた気がするが、あえて聞こえない振りをした。
聞こえない振りと言うよりは既に瞼を上げることが出来なかった。






バチカルに着いた一行は一先ずファブレ公爵家へと向かった。
陛下への報告はまた後日という事にして今日はルークを休ませようと言う話になった。
俺の事は別に平気だからと話すルークだが、どう見ても顔色が良い様には見えなかった。
「そうですか〜。ルークは若いですねぇ。ですが私のような年寄りは少々疲れてしまって。」
そんなルークを察したのか、ジェイドはいつもの陽気な口調でそう言葉にした。
ルークはしょうがないなぁと言いつつも何処かほっとした表情をした。
ジェイドの分かりづらいようで分かりやすい優しさにこっそり甘える事にした。

解散となりガイとルークはファブレ家へと、ナタリアは城へと戻った。
その他の三人はバチカルホテルへと帰っていった。


ファブレ家に戻ると息子の帰りに喜ぶファブレ夫妻、それにメイド、白光騎士団の皆に向い入れられた。
夕食の席では、母シュザンヌに旅先の事での話しをして欲しいなどとお願いされ、仲間の話などを楽しそうにすれば
とても嬉しそうに相槌をうってくれる。

優しい微笑を向けてくれる母・・・
目の前には暖かで豪華なご馳走・・・
食事を運んできてくれるメイド達・・・
隣座る幼馴染のガイ・・・

その光景を何処か遠くの事のように見ていたルークの手がふと止まった。

これは俺のじゃない・・・
これはアッシュの・・・!

「ルーク?どうしました?」
異変に気がついたシュザンヌがそっとルークの名前と呼ぶ。

(ルーク。)

・・・それも俺のものじゃない
アッシュ・・・ごめんな。本当ごめん。

ガタンと音を立ててルークは椅子から立ち上がった。その場にいた全員の視線がルークへと向けられる。
「えっと・・・すみません。俺もうお腹いっぱいで・・・先に失礼します。」
俯いたままルークは誰の方を見ることもなく食事の席を後にした。
パタンと扉を閉じると同時位にルークの翠色の瞳から雫が流れ落ちた。
それを腕で乱暴に拭い去ると自分の部屋へを駆け足で戻った。
こんな顔を誰かに見られてしまわないうちに。

部屋に戻ったルークは中央に置かれたベットへと体を横たわらせた。
ふぅと溜め息を漏らす。
ゴロンと寝返りをうち仰向けになると自室の天井を眺めた。

「そうだよな・・・。ここも俺の部屋じゃないもんな。」
はぁ〜っと更に深いため息をつく。
「俺って本当に必要ないのかもな・・・アッシュがここに帰ってくれさえすれば丸く収まる気がするんだけどな。
でもあいつこの前ここに連れてきたときにここにはもう帰らないって言ってたし・・・」
独り思い耽るルークの耳に部屋の扉を叩く音が聞こえた。

「ルーク?大丈夫か?」
部屋の外からガイの心配そうな声が聞こえてくる。
先ほどの様子がおかしかった事を気にかけて来てくれたのだろう。
そんな幼馴染を心配させないようにルークは出来るだけ明るい声で返事を返した。

「あ!あぁ。大丈夫だって、ホントお腹いっぱいだっただけだし!
それに少し眠かったからさっ。悪いな心配かけて。」
上手く誤魔化せたか心配だったが、微妙な沈黙が流れたがガイはそのまま扉越しに返事を返す。
「・・・そうか。ならいいんだがな。まぁ今夜はゆっくり休めよ。」
「あぁ。ありがとうなガイ。」
扉の向こうの彼の表情は分からなかったがきっと腑に落ちないような顔をしていただろう。
だからと言って彼にもこれ以上心配をかける分けにはいかない。
乖離の事だって本当は伝えた方がいいのかもしれない。きっと知られた時には隠していたことを
物凄い勢いで怒られるだろう。なぜ早くに言わなかったのかと。
でも今は普通に接してくれる方が嬉しいから。気を遣わないで居て欲しいから・・・
大切な幼馴染に感謝の言葉だけを伝えた。




部屋の前から気配が消え辺りはまた静かになった。
ルークの部屋は庭に囲まれていて他の棟からは孤立した場所にあるために、メイド達の話し声なども
聞こえなければ、人の気配を感じる事もない。

はずだった・・・

不意にルークは耳を澄ました・・・ベットメイキングも終わっているし、自分はもう寝ると言ったのだ
メイド達がここに来るはずもない。白光騎士団の誰かが見回りでもしているのだろうか・・・

!!!

・ ・・違う。この感じは!

ベットから飛び降りるとルークは部屋の扉を開けた。
「アッシュ!」
そこには壁に背を預け腕を組んだまま立つルークの被験者であるアッシュが立っていた。
相変わらず眉間に皺をよせ、呼びかけるルークを見ようとはしなかった。
「アッシュ?えっと、中・・・入るか?人きたら色々面倒だろ?」
あまりの想定外の来客に動揺しながらもアッシュを部屋に入るように促す。
渋るかなと思ってはいたが、以外にあっさり部屋へと入ってきた。

パタンとルークが扉を閉めると部屋の中が妙な緊張感と静寂が辺りに漂う。
「なぁ。何かあったのか?」
その静寂を破るようにルークがアッシュに問いかける。
横目にルークを見たかと思うと、ふんっとその視線はまた別の方へと向けられる。
いつもなら自分の用件だけを伝えたらさっさと立ち去ってしまう彼にしては珍しい行動に
ルークはどうしたらいいのかわからない。

えっと・・・うぅ〜あの・・・
考え込むルークにアッシュは苛立ったのか「屑が」と一言発した。
「何かあったじゃねぇよ。それは俺のセリフだ。」
え?と益々訳が分からなかった。確かに会いたいとは思っていたが、それにしてもなぜ急に?
回線も試みたが繋がった感覚はなかった・・・はずなのに。
彼はこうしてルークの元に来てくれている。それがなんだが嬉しかった。

「用もねぇのに呼んだのか?このレプリカが。」
そう言い入って来たばかりの部屋を出て行こうとするアッシュの腕をルークは思わず掴んだ。
「ちがっ!待てって。俺、お前に聞きたい事があって。」
そう言って掴んだ腕に力を込めた。
「触るな。」
バッとその腕を振り払われ一瞬驚いたような顔つきをしたルークは俯き、払われた腕を擦るように
もう片方の手で押さえた。
触られるのも嫌なんだな・・・当たり前、か・・・
払われた腕の痛みより、拒絶されたと言う事に心の奥がちくりと痛んだ。
悲しげな表情を見せるルークを見つめ、アッシュは罪悪感のようなものが湧き上がる。
ちっ、と舌打ちをしながらも続きを促した。
「聞いてやる。用件はなんだ?」
「えっと、あのさ。レムの塔のあと体に異常とか、なかったか?」
ぴくり、と眉間が動いた気がした。
「てめぇこそどうなんだよ。」
自分の問いかけに逆に問われてしまい、ルークはたじろいた。
「え・・・俺。俺は・・・体内の血中音素が少なくなってるって言われただけ・・・だよ。
直に元に戻るみたいだから心配ないって。」
本心を押し隠すように微笑みを向ける。

言えないよ・・・言いたくない。これ以上アッシュに幻滅されたくないから。
心配なんかされないだろうけど・・・それでもアッシュにも知られなくはない。
隠しきれるか不安だったが、それでも必死に微笑みで隠した。

「そうか・・・。話はそれだけか?済んだのなら俺はもう行く。」
「あ!待てって。」
直ぐにまた出て行こうとするアッシュの行く手を阻むかのように扉の前へと立ち塞がった。
睨み付ける様にルークを見つめるアッシュにビクリと肩を揺らしながらもその視線はアッシュを見つめていた。
「まだ聞いてない。お前はどうなんだよ。」
「俺はお前のような劣化レプリカとは違うからな。」
ふっん、と吐き棄てるようにアッシュは言った。
「じゃあ大丈夫なんだな・・・良かった!」
心底嬉しそうに微笑むルークに意表をつかれ思わずアッシュは視線を逸らす。

自分はルークの事を嫌っているはずなのだ。それなのに自分のレプリカであるルークは、
いつでも曇りのない笑みを向けてくる。いくら遠ざけても歩みよろうとする。
その反面アッシュはレプリカを嫌い、憎み続けなければ生きてはいけない。
酷い罵倒を浴びせ、時には剣を向けることさえある。
それなのになぜ?このレプリカは俺に対してこのように笑えるのかが不思議で仕方ない。

「アッシュ?」
ふいに思考を途切れさせられアッシュは視線をルークへと向ける。
「・・・なんだ。」
普段逸らされる事が多かったためか、急にアッシュと目が合ってしまいドキッとしたがルークだが
続けてもう一つ気になる事をアッシュに尋ねた。
「なぁ。本当にもうここには帰ってこないつもりか?」
ルークは真剣な眼差しでアッシュを見つめる。
「前にもそう言った筈だが。もう忘れたのか劣化レプリカが。」
「覚えてるよ!覚えてるからもう一度確かめたくて・・・。」
悲しそうに俯き手を握り締める。
そして何か思いつめたような表情をしたがすぐ様アッシュへと視線を移す。
「やっぱり駄目だ。ここはお前が帰る場所だから!お前が居なくちゃ駄目なんだよ!
俺じゃ・・・だめ・・・なんだよ。」
アッシュを見つめる悲しげな表情は今にも泣き出しそうだった。
「ふんっ。てめぇが奪いやがったんだろ。今更何を言う。」
「だっ、だからそれは・・・何も知らなかったから。」
「あーそうだろうな。何も知らずにのこのこ生きてきて、なんの苦労もなく育てられたお坊ちゃまが!
偉そうな口訊くんじゃねぇ!」
言い放たれた言葉にはっとしてルークは言葉を失い俯く。
「ごめん・・・」
搾り出すようにして出た言葉はそれだけだった。
なぜ自分は生まれてきてしまったのだろうか。アッシュの居場所を奪い、沢山の人々の命まで奪い。
俺はなんのために生きているんだろう?人から沢山のものを奪うだけ奪っておいて自らは乖離現象のせいで
もうすぐ消えてしまう。
それでも一つだけ何か残せるとしたらこの場所をアッシュへと返す事。
「ごめん。でも俺、アッシュにここに居て欲しいから。」
だから俺は・・・

そんな卑屈過ぎると言っても過言ではない態度にアッシュに苛立ちが増した。
「じゃあ、てめぇはどうするんだ?俺のために消えてくれるとでも言うのか?」
睨み付ける瞳は氷のように冷たい色をしている。威圧感のようなものが痛いくらいに伝わってくる。
「アッシュがそう言うなら・・・」
その言葉を聴いた瞬間金属の擦れる音が部屋に響いた。
「・・・アッシュ」
目の前の相手は腰に下げていた筈の剣を引き抜いていた。
「なら今すぐ消してやろうか?」
地の底を這うような低い声で囁かれる。
あまりの恐怖に後ずさりかけて、その足を止めた。何者でもない、一番認めて欲しかったアッシュに斬られるなら
それは自分にとって幸せなのかもしれない。
ルークは肩の力を抜き真っ直ぐとアッシュを見つめた。
まるで「いいよ」と言わんばかりに・・・

「ふざけるな!」
その言葉とともにルークの体に衝撃が走る。床に倒れ込んで背中を打ち付ける痛みとともに
右腕に微かな痛みを感じた。
倒れていく時もアッシュから視線は逸らさなかった。死の間際まで自分の被験者をその瞳に映しておきたかったから。
それなのに痛みがあるのは背中と右腕だけ・・・
なぞ?と痛みのある右腕へと視線を向ければアッシュの剣が腕を掠めていた。
あまり日に当たることの無かったためか、アッシュより幾分白い腕からは、鮮血のアッシュと名高い彼の
髪の色のような血が流れ出ている。
「なぜ逃げない。」
アッシュは両手で剣を持ち、ルークに覆いかぶさるように立ち膝をついていた。
「だって、俺アッシュになら消されてもいいって思ったから。卑屈とかじゃねぇーぞ。だた本当に自分の事より
大切に思ったから。この場所にお前を返したかったから。」
アッシュを見上げるルークは、引き寄せられるようにアッシュへと怪我を負わなかった左手を伸ばした。
暗闇の中、窓から差し込むルナの光に照らされて輝く美しい焔のような色の髪にそっと手を触れる。
すぐに払われるかなと思ったが意外な事にアッシュはその手を振り払おうとはしなかった。

「やっぱりな。本当の焔は・・・お前だよ。」
指の間をすり抜けて流れ落ちる紅の髪に目を細めて見惚れる。
アッシュがなぜ髪に触れることを許してくれているのかは分からなかったがルークはそれがとても嬉しかった。

もっとアッシュに触れたい、こうして傍にいるとなぜかほっとするから。
それは自分の被験者だから?それともアッシュだから?
被験者とかレプリカとか関係ない。アッシュはアッシュだから。口や態度は悪態をついでばかりだけど
本当に危ない時には必ず手を差し伸べてくれた。
そんなアッシュが俺は「すき?」・・・好きか。なんだ・・・俺アッシュの事が好きだったんだ。
だから嫌われたくなくて、逢いたくて。この場所に帰ってきて欲しかったのも一人でじゃなくて
俺もいるこの家に帰って来て欲しかったんだ。

自然とルークの瞳が閉じられていく。
極度の緊張と怪我のせいで、乖離現象の影響で落ちていた体力が更に消費されてしまったのだろう、
急に訪れた眠気にルークは消え行きそうな意識の中ぽつりと一言呟いた。
その言葉は一瞬にしてアッシュ思考を止めるほどの力を秘めていた。









・・・俺・・アッシュの事・・好きだ・・よ。

















ここまで読んでくださってありがとうございます!・・・えぇまだまだ続きます(爆)
やっと自分の気持ちに気付いたルーク(やっとかよ!)てな感じではありますが私的には
最後のホドの決着が修羅場なのでそこまで頑張りたいです!どちらか一人なんて悲しすぎるから。
えぇもう私の中ではED後はラブラブですから(笑)