第一五章 女神の搭
ザクザク、ザックザック・・・・・・。
雪の中を進む。
太陽の油のおかげで、やはり寒くない。
雪山を降りたら、まっすぐに雪原が続いていた。
ときどき、激しい地震や、女神の塔から、衝撃波が飛んでくる。
強烈すぎる衝撃波は、レッジたちに影響を及ぼすことなく、遠くの山々を破壊して去っていく。
女神の塔で何が行われているのか、レッジには想像すらできない。
だがやがて、辿りついた。戦いの場所に。
雪原の真中に、黄金に近い輝きを放つ塔が建っている。五角形の細長い塔。
その巨大さは見上げるとひっくり返ってしまいそうなぐらいである。
「ここ、なんだね」
――― レッジ・・・・。
「だれ?」
――― マリーです。
フォーマーの妹であり、ラーネッドとともに写真にうつっていた女性。
そして、『白い衣の女の人』
しかし目の前に現れたのは、仄かな緑色の炎だった。
――― レッジ、よくここまで来てくれました。
「マリーさん・・・・・・・」
――― ごめんね。こんな姿で。
マリー。
女神の塔を目指した探検家。
『人』と『妖精』の戦いを、『女神』の『力』で止めてもらうために。
しかし、事実を知ったマリーがとった行動は『塔』の補佐だった。
「あたしを『女神』にするの?」
――― ・・・・・・ええ。
ルストの言葉を思い出す。
「わかるか?お前は使われるんだよ、あの『塔』の妖精、ラーネッドにな」
――― そう、あなたは使われるの。ジジのパートナーだった、リマインドと同じように。
・・・・・リマインド。
ジジの言っていた『あの子』
今、世界と新たなる世界の可能性とを支えている『女神』
「限界、なの?リマインド」
――― ええ。はやく新たなる女神に・・・・。今ならまだ間に合うから、『塔』がルストを止めているから・・・・・。
「俺、レッジが『女神』になるのはいやだ!」
ロイはうつむいて叫ぶ。
――― あなたは『ナイト』女神の塔へ『女神』を運ぶ宿命の者・・・・。
「冗談じゃねぇべっ!!『女神』になっちまったら、どうなるか、ぐらい想像がつく!」
「・・・・・・ロイ」
レッジは静かに首を振る。
「レッジ!!おめぇ、『女神』になんか、なるんか?」
「ロイ、あたしはレインボーバードの声を聞いたから。あたしの願いとレインボーバードの願いを叶えるよ」
直接聞いたわけではない。
だが、レインボーバードは確かに破壊を望んではいないはずだ。
それに、リマインドは押さえこむことを望んでいない。
それにあたしだって、レインボーバードを解放したい!
「レッジ?」
レッジの黒い瞳はきらきらと輝いていた。その輝きは、いたずらを思いついたときに浮かぶ、お馴染みのもの。
「れ、レッジ?」
さっきとはちょっと違う、戸惑いを含んだ声で尋ねる。
「ロイ、レインボーバードは押さえこんじゃいけないと思う。だからね、解放しなきゃ!すべてを壊しちゃう前に」
「どうやって解放するんだべ?」
「それは、この羽根が教えてくれると思う!」
自信たっぷりのレッジ。
マリーは何も言わない。ただ緑の炎が燃えるように鮮やかな色を帯びていた。
「ルスト、最後の戦いに入ったんでしょ?」
――― ええ。最上階に向かっています。
「あたしも、あたしのできる最後の戦いをしなくちゃ。さあ、リマインドのところへ行こう!」
それが全てを止めることができる手段だと、レッジは信じているから。
そうして、塔の扉は開かれた。
――― あなたがたは、光の道を通れます。ルストは闇の階段を上っているけれど。
光の道と闇の階段。ともに女神の塔の最上階を目指す方法。
招かれし者は光の道を、招かれざる者は闇の階段を進むしかない。
光の道は、直径2メートルほどの円形の石版。
その上に乗ると青い光が降り注ぐ。
石版は音もたてずに浮き上がった。
どこまでも上へ進む。
「マリーさん、一つ聞いていい?」
――― ・・・・なに?
「ラーネッドはあたしのお兄ちゃんなの?」
――― 彼は『塔』何年もの周期で、時を渡る者。彼はある程度の年齢になったら、再び幼子に戻る。
「じゃあ、お兄ちゃんじゃないの?」
――― けれど、あなたの兄として存在したのは事実。
「え?」
――― 血は繋がっていないけれど、確かにあなたが生まれたとき、彼はあなたのそばにいた。
マリーの光は瞬く。
――― あなたに記憶はないかもしれないけれど、彼はあなたのことをとても、可愛がったのよ。
緑色の光が優しさを帯びていた。
ラーネッドが『塔』としてではなく、ラーネッドとして過ごした期間。
最高の幸せを与えてくれたのが、このレッジだった。
そうラーネッドは、マリーに話していた。
そのときの瞳をマリーは微笑えましく思ったものだ。
――― だから彼はあなたに、来て欲しかったのかもしれないわね。
「そっか」
レッジは嬉しそうに、ふふふと笑う。
――― さ、もうすぐ着くわ。リマインドのもとに。
マリーの光が薄れていく。
「マリーさん?」
――― 私はここまで。さようなら、レッジ。・・・・・・ラーネッドを、許してあげて。
最後の言葉は本当にかすかに聞こえて消えていった。
扉が開く。
☆ ☆ ☆
その頃。
闇の階段では、白と黒の対峙が始まっていた。
彼は復讐鬼となった。あの時から。
左足は不自由になったが、誰よりも有益な『力』の知識を得た。
妖精が、『力』を使うのは新しきレインボーバードによるもの。
古のレインボーバードは、もう答えない。
なぜなら、大地になってしまったから。
ならば。新しきレインボーバードを倒すには、どうしたらいいか。
逆に『力』を奪えばいい。『塔』ラーネッドがしたように。
ラーネッドは新しき者、妖精だった。
だが、古のレインボーバードの羽根により、古の『力』を使った。
そして、彼の尊敬する先生を、美しかった奥さんを、そして幼いロイを奪った。
彼の手には復讐という義務のみが残った。
世界の侵略者どもを倒すのだ。この手で。
ルストの研究はいつもこの思念で続いていた。
つまらない戦争を起していた国で、研究を手伝ったのも、妖精を殺して回ったのもそのため。
国のマフィアと手を組んで、資金を与え、『力』を与える変わりにレインボーバードの羽根を捜して回ったのもそのため。
すべてはこの日のためのこと。
「ラーネッド」
「ルスト・・・・・」
目の前の車椅子の男があの、ラーネッド。
黒一色の装束に身を包み、もしルスト自身から発せられる白い光がなかったら、闇に紛れてしまうところだった。
まだまだ子どもだった『塔』の妖精。
だが、青年になった彼は落ちつきの中にも諦めの様相を呈している。
ただ、眼鏡だけが昔と変わらない、たった一つのところ。
勝てる。今のこいつになら、俺は勝てる。
「お前も失ったか」
ニヤリと皮肉な笑みがこぼれる。
仲良く足をやられるとは。
あの頃・・・・・・。
忘れもしない。ラーネッドが学院の研究室に入ってきたときのこと。
当時の妖精科学課の教授はロイの父だった。
教授と俺そして新入りのラーネッド。三人はよく学院に泊りがけで研究をしたものだ。
すべてはあの時、壊れてしまった。
だが、俺は全てを救う義務がある。世界を救う・・・・・。
――― ルスト、お前は無理やりレインボーバードを解放しようとしてる ―――
口ではなく、頭に直接語り掛けてくる。
――― それがどんなに危険なことかわかっているのか?―――
「いつからそんなに偉そうな口が利けるようになったんだ?レインボーバードは俺が倒す!!」
ルストは徐々に『力』を集め始めた。
「その前に、まずはお前からだ!!」
この塔自体が妖精の『力』
集まる『力』はとどまるところを知らない。
――― こちらも負けるわけにはいかない。―――
ラーネッドにも『力』が注ぎこまれる。
闇の階段では『力』と『力』のぶつかり合いが、はじまろうとしていた。
☆ ☆ ☆
「お兄ちゃん!!」
レッジのオペラ歌手なみの声が響く。
塔の最上階は天井がない、しいていうなら、一面晴れ渡るような空。それが天井だ。
部屋の中央には筒型の祭壇が置かれている。
――― レッジ!!来てくれたんだ!!!
「え・・・・」
兄ではない。
そこにいたのは一人の少女。
長く、それでいて外はねの緋色の髪が特徴的だ。
年は、レッジと同じぐらい。
「レッジ?誰と話してるんだべ?」
「ロイ、聞こえないの?見えないの?」
レッジは目の前の少女を指して言った。
真っ白ではなく、クリーム色の布をふんだんに使った衣。
マリーの着ていた服に似た、女神の衣に身を包んだ少女。
大きな金色の目、燃えるような髪、溢れる情熱がレッジには伝わってくる。
しかし。
リマインドの姿、声はロイには届かない。
――― あたしの声が聞こえるのはレッジ、あなただけ。もうあたし、影になっちゃったんですもん。
寂しそうにうつむくリマインド。だが、すぐに顔を上げてにっこり微笑む。
表情がくるくると変わっていく。
「あたしには、リマインドが見えるの!ねぇ、リマ!!あたしたち、遅かったの?お兄ちゃんは!?」
――― ラーは今、ルストと戦ってる。今のうちにレインボーバード、解放しちゃお?
リマインドの黄色い瞳はいたずらっぽく輝く。
それが見えるのはレッジだけだったけれども。
「そうだね!どうやればいい?」
リマインドとレッジはすでに息もぴったりである。
――― 祭壇に行って!そこでお願いするの!!羽根を掲げて。
「レッジ?」
さくさくと部屋の中央に向かうレッジ。
その背中を見つめながらロイは慌てて呼びかけた。
「レインボーバードを解放するの」
「解放したあとは大丈夫なんかの?」
「『銀河』があれば大丈夫」
確信を持って答える。
――― うんうん、そうなの。『銀河』があれば大丈夫!
自分の声が届いていたのが嬉しかったのか、リマインドは楽しそうに笑った。
――― 今、ホワイトローレンスピータルチオサンデイロックウェルオンリイザフクロウレルが向かってくれてる。
「え・・・フクロウレルが・・・・・」
「なんだべ?」
「フクロウレルが向かってくれてるって」
「どこへ?」
――― きれいなお姉さんも一緒だよ。トリプ島の『時の歯車』を『愚者』が回してくれる。それで空が開くの!
「トリプ島・・・・あ、一番東の鳥の尾の島名前・・・・」
――― そ、思い出した?
「そこに向かってるべか」
「ラレアも一緒だって!」
レッジは嬉しそうだ。
なんでも知ってるはずなのに、なんにも知らない『愚者』フクロウレル。
それにラレア。あの二人なら大丈夫だ。
――― さあ、レッジはこの祭壇に願いを込めて!
「うん!」
レッジが祭壇に近づく。
と、衝撃波がレッジとロイを襲う。
「きゃっ!!」
「うぉっ!?」
衝撃に投げ出され、床に叩きつけられた。胸が圧迫され、息が詰まる。
「『塔』は『世界』が新しくなるまで監視する」
――― ラー!?帰って来ちゃったの!!?
「たとえ複数の敵が現れても、我が身は分割できる」
――― げ、やばっ!!
「『女神』いいや、リマインド。君はもういい。もう、休んでくれ。これからはレッジが『女神』だ」
全身黒ずくめの車椅子の青年が姿を現した。まるで霧のように音もなく。
それとともにリマインドの気配が薄れていく。
「リマインド!」
「さあ、レッジ『女神』に・・・・・・」
「冗談じゃねぇべ」
「ロイ、君はもう『ナイト』の『力』を残していないだろう」
「まだだ、俺には『盾』があるッ!!!」
『剣』は奪われてしまったが、ロイの手には『盾』が握られていた。
幻の『盾』はもはや、幻とは言い難いほど、実体を伴っていた。
「俺はレッジを『守ラナキャ』いけないんだ!!・・・・いいや違うべ。俺はレッジを守りたいんだっ!!」
「ロイ・・・・」
「私は『塔』としての本能でしか動けない」
ふっと、悲しそうな表情を浮かべた。
――― あ・・・・・・。
「そっか・・・・・」
レッジはリマインドと同じことを感じたと確信した。
"ラーネッド"としての思い、それは今のラーネッドの行動と逆のものなのだと。
「だから、それに従うことしかできない」
リマインドの存在は完全に消えてしまった。
ラーネッドの手の中に『女神』の『力』はおさまっている。
「さあ、レッジ。この『力』を受け継ぐんだ」
「そんなこと、させねぇ、俺はあんたと戦うべっ!!」
麻袋から、ロイはジィンク譲りのサーベルをとりだした。
右手にサーベル左手に『盾』
ロイはラーネッドに向かっていく。
「待って、ロイ!!!!」
レッジはロイに呼びかけた。
「向かって行っちゃダメだよ。お願い、ロイはあたしを『守って』?」
「え?ああ、わかったべ」
「・・・・・ごめんね、ロイ」
ラーネッドは、いや、『塔』はロイにとっては両親の仇。
心のどこかで確かに彼はラーネッドを恨んでいたはずだ。
「お兄ちゃん、あたし虹の鳥を解放するから」
ラーネッドは、また、ふっと寂しそうに笑った。
「私はルストと戦いながら、君たちを止める。そしてこの『力』をレッジに渡す。・・・・・全力で行くからな」
その言葉の裏には攻撃を防ぎ続けて欲しいという、気持ちが込められていた。
黒い衝撃の影が飛んでくる。
それをロイの『盾』はしっかりと受けとめた。
レッジは兄の黒い袋型鞄から、虹の鳥の羽根を取り出した。古の虹の鳥の羽根。
それを両手に捧げて祭壇に近づく。
祭壇はロイの記憶を垣間見たときのものと同じく、筒型だった。
そこには七色に輝く大きなドーム、そうまるでタマゴのようなものがあった。
そこが砂漠の遺跡と違うところ。
「お願い・・・・鳥篭の扉を開け放って!!」
願いは、聞き入れられた。いとも簡単に。
どんな複雑な呪文もいらない。レインボーバードの羽根は音もなく消えていった。
――― キュゥッゥゥウキュゥゥゥッ!!!―――
鳥独特の不思議な鳴き声。
「こ、これが・・・・」
『力』が満ち満ちる。
レッジもロイも呆然と見上げている。
流れる滝のような、それでいて七色の光。『力』の渦が、鳥を形づくっている。
『力』の塊なのか。それとも鳥の発する『力』なのか。それはわからない。
それと同時に、ラーネッドが消えていく。
「お兄ちゃん!!」
「私がルストを倒すにはもう、分身をしている場合ではなさそうだ」
本当はもう決着はついている。
闇の階段では白と黒の者――― ラーネッドの一部と、ルスト―――が、『剣』を互いに刺し違えて事切れていた。
ラーネッドの最後の嘘。それはレッジへの最初で最後の優しさ。
『塔』ラーネッドはその役割を終え、そして、彼の存在は完全に消滅した。
「お兄ちゃん・・・・・・!!!!」
レッジにも感じられた。兄の気配が、存在が消えてしまったことを。
「・・・・・・・レッジ」
レッジは無言で首を振る。ただ、首を左右に振る。
何も言えない。自然と後ずさりせずにいられないレッジを、後ろから抱きとめた。
「ロイ・・・・・お兄ちゃん、消えちゃった・・・・・・」
幼子のようにロイを見上げて訴える。その澄んだ瞳からは涙が溢れようとしていた。
俺は消えないから。そばにいるから。
レッジはロイの肩に顔をうずめて、泣き出した。今までのことすべてを洗い流すかのように。
「レッジ、レッジ!!」
声が聞こえる。
レッジはそっと顔を上げた。
「・・・・・・リマインド」
「あれが、リマインドだべか・・・・」
緋色の髪の少女が、目の前に立った。彼女はレッジよりも背が低い。
「リマインド!!」
レッジは慌てて手の甲で涙をぬぐった。
「影じゃなくなったんだね!!!」
いつもより声がうわずるが、気にしていられない。
「うん。ありがとレッジ!!それにロイくんも」
「鳥は、どうすっべ?」
「それは任せて。けどさ、折角だから、虹の鳥にのろうよ?一緒に。ロイくんも。世界を一周しよ!!ね?」
リマインドは鳥の翼を可愛がるように撫ぜた。
相手が鳥篭の役目だったにもかかわらず、虹の鳥はリマインドに懐いていた。
「うん、うん!!そだね!!」
レッジは頷いた。
「ええー!?ほんとにだべかっ〜〜!」
ロイはちょっとびびっている。
虹の鳥は大空を駆け巡る。
地震、噴火、紛争、汚染。
今や、世界中で起こっていた天変地異や厄災が、虹の鳥の『力』で静まっていく。
女神の搭の島・・・・センドカ島から雪は消え、熱帯雨林の様相が姿を現す。
白い町・・・・ファースハーバーからは、バケモノの放ったよどんだ空気が消えていく。
戦場だったあの地、ルーシーたちが復興させようとしている地――ウィンドスタンにも、同じように光を降らす。
レッジ、ロイ、そして『女神』リマインド。
三人は世界の様子を目に焼き付けていった。
世界を巡り、やがて、トリプ島が見えてきた。
トリプ島の丘の上で、一人の女性が手を振っている。
「ラレア!!」
「こっちよ。ここから、『銀河』にいけるわ!!」
空間の歪み。
『運命の輪』が激しく回っている。
「フクロウレルは?」
大地に降り立ち、レッジが一番に聞いたのはそれだった。
「伯父さまはこれよ」
もとはフクロウレルだった『輪』
「フクロウレル・・・・」
――― って何しんみりしとるんじゃー!!んなとこにいると危ないぞ〜!!
怒られてしまった。
虹の鳥が少しずつ、空間の歪み『銀河』に飲み込まれていく。
まるで、スローモーションのようにゆっくりと。
「さてと。あたしはやらなきゃいけないことがあるのよね」
リマインドは両腕を広げ、虹の鳥に向かって『力』を注ぐ。
『銀河』へむかう虹の鳥の、応援でもしているのだろうか?
「・・・・・・お別れ、かもしれんべ・・・・レッジ」
リマインドの様子を見ていたロイは言った。
「え?」
「ロイくん!!?」
リマインドは振りかえる。額に汗を浮かべている。
「俺にはわかるべ。リマインド」
「あたしがなんとかするから!!」
リマインドは懸命に首を振る。
「いんや、わかるべ」
「私にもわかる・・・・」
ラレアもうなずく。
「もう終わるの。『女神』が支えなきゃいけないような『世界』は。新しきレインボーバードは私たちを引き寄せてる」
「あたしが支えるから、だから!!!」
「リマインド、もういいの。あなたは一人じゃない」
ラレアはリマインドの肩を叩いた。
「レッジ、俺たち妖精、いんや『力』あるものはみんな・・・・」
――― みんなここから去る。
「そんな!!!」
みんないなくなってしまう。
『力』がすべてなくなるなんて。
――― だから、さよなら。
「やだ、やだよ!!」
『新しき者』と『古の者』。
どちらにしても、どちらかが『ここ』から消えていかなくてはならない。
レッジはそんなこと、考えもしなかった。
「違う、違うよ!あなたたちはそんなことしなくていい、あたしがなんとかするから!!」
――― リマインド、別に私たちは死ぬわけじゃない、でしょ?
「そうだけど・・・・」
「え?そうなの?」
――― そ、だんべ、レッジ。
――― 新しい世界に行くだけ。だから、悲しまないで。
「レッジ・・・・ごめん」
リマインドがうつむく。
「死ぬわけじゃないんなら・・・・・」
死ぬわけじゃなくても、お別れなんていや。
「いいよ」
いいわけないじゃない!
「レッジ・・・・」
そうしているうちにも、虹の鳥に光が集まっていく。妖精や『力』を持つ者が、みんな鳥に宿っていく。
――― ほれ、さっさとせんか!!リマインドもッ!!
フクロウレル、いや、『運命の輪』が激しく回る。
――― レッジ、あたしが、あたしが大切なことを思い出させるから!
「リマインド!!!」
――― 大丈夫だから!!!
瞬間、虹色の光が空を覆い尽くした。
――― そうだべ。大丈夫。俺はレッジの前から消えたりしないから。
そして、レッジの視界は真っ暗になっていった。
エピローグ
朝だ。レッジは目を覚ました。
窓から、今日も暖かい日の光が降り注いでいる。
あれ、窓あいているや。昨日、開けて寝ちゃったっけ。ベッドの上で伸びをしたあと、レッジは跳ね起きた。
「んーいい朝♪」
・・・・・あれ?なんだろう?
何か、大切なことを忘れているような・・・・・。
風がカーテンを揺らす。
――― レッジ、レッジ。
誰かに呼ばれたような気がした。
「おはよ。レッジ」
「おはよー、お母さん、お父さん」
Tシャツ、ジーンズのスカート。
黒く長い髪をみつあみにしたレッジは、いつものように父母と挨拶をかわす。
「うん」
父は新聞からちらりと目を離して娘に頷いた。
コーヒーの香りと、トーストの匂いが部屋中に漂う。
「お父さん」
「ん?」
「ううん。なんでもない」
なんだろ、変な気分。
「さ、ご飯たべちゃいなさい」
「はあい」
今日はどうもぼーっとしている。
レッジはそう思いながら、家を出た。
なんとはなしに、散歩をする。
ライフレイク、レッジの故郷はもうすぐ春祭り。
それにあわせるかのように、心地よい天気だ。
―― レッジ。
「んー・・・・・」
あたしは何を忘れているの?
農具を積んだ馬車が、行き来している。
ぼーっと歩き続けるレッジ。
気がつけば、村のはずれの小さな山。
村人は裏山とよぶ、そのふもとに来ていた。
そばに隣町、フィスゲート行きのバス停がある。
「なんか、遠くまで来ちゃったなあ」
――― レッジ!
「??あれ?」
「レッジ!!!!」
笑顔の少年。
「・・・・・ロイ・・・・・ロイ!?」
鮮やかに思い出す。あの旅を。
「ロイッ!!!!」
レッジはロイの胸の中に駆け寄っていった。
――― なあ、思い出したべか?
――― うん。思い出した!!
――― 全部?
――― うーん、たぶん。
――― 自信なさそうじゃねぇべか。
――― じゃあ、最初から話そうか?
あたしの知っている最初から。
世界が一人の女の子に支えられていたあの頃のこと。とても不安定なとき。
もう戻らないあの・・・・・・・。
<THE END>
挨拶
終わった!終わりました。これにて一件落着(!?)でございます。
ここまで読んでくださったみなさまありがとうございます。
なんだか、矛盾も、ツッコミどころも、大量にありそうな気がしてならないのですが、とにもかくにもこれで終了です。
最後になりましたが、この文章をひきとってくださった、ろう・ふぁみりあさん本当にありがとうございました。
ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜
・・・終わってしまった。
気がついてみれば、全27話完結! いつの間にこんなに来たんだろうかこの作品。
思えば、第一章「故郷」を受け取ったのがまるで昨日の事のように思い出されます。
いや嘘です、すっかり忘却の彼方です。いつ貰ったかすら記憶にないし(爆)。
それでも全体のストーリーは、最初から最期まで良く覚えてるんですねこれが。
故郷の村から始まって、隣り町で黒皮ジャンやら骨董商やらと遭遇。首都で兄のことを聞いて、港町ではラレアさんと出会ったり南海海獣大決戦(!?)したり。
そっから、精霊・人、そしてその連合軍の三つ巴の戦争。
この話が一番長かったですね。
最後の「大合唱」は、使い魔的にすごく良かったですッ! 感動でした!
で、ラストへとスパートかけて一直線。と。
で。最終話。
@@@@@@
あたしの知っている最初から。
世界が一人の女の子に支えられていたあの頃のこと。とても不安定なとき。
もう戻らないあの・・・・・・・。
@@@@@@
この文章から最初に続く物語。
ああ、そうか、一番最初のあの文章は、レッジさんが語り手だったんですねー。
さてと。
最後になりましたが、優さんホントに良い物語をありがとうございました!
ツッコミどころなんてぜんぜんないですよー。もお、感動で胸がいっぱいですっ!
ホントのホントにありがとうございました!