そこは古い部屋だった。
机以外の家具はいっさい置かれておらず、天井には豆電球が一つ。
そのテーブルを、四人の若者が囲んでいた。




『・・・・さて、今回の仕事だが』











MISSION







秀吾。
生徒手帳にはそう書かれている。
まぁ本名が違うとかそう言うわけではないので、秀吾でいいだろう。
とにかく彼は、疲れていた。





京葉高校 三年二組教室

一人の男子生徒が机に突っ伏していた。
別に髪を染めているわけでもなく、何処か校則を違反しているような様子もない。
ごく一般的な生徒だ。
昼は。
ただ夜は危ない仕事でもしているのか、といえば・・・やはりしているのだろう。
普通の仕事ではないことは確かだ。
そして、そのせいで夜は殆ど眠れない。





三晃高校 三年一組教室

やはり生徒が机に突っ伏していた。
ただ先ほどと違うのは、その前の席に、こちらを向いた女子がいるということだろう。
そして彼らは、一般的といえば一般的だが、会話していた。

「・・・大丈夫?」
「あのなぁ、お前の方が大丈夫かっての」
「何で? 亨の方が絶対疲れてる用に見えるって」
「そうじゃなくてな、俺は何でお前が『疲れてないか』というのが聞きたいんだ。こっちは寝不足で立つ気もしないの」
「・・・・ねぇ」
「なんだよ」
「頭大丈夫?」
「どうしてそうなる」
「だって今までずっとそうだったじゃない。今頃になってそんなに」
「あのな、友紀」

亨は口を開いた。

「疲れには周期があるんだ」

そして、すぐ突っ伏してしまう。
長い話を予想していた友紀は、すこしこけた。

「まったく・・・しょうがないなぁ」





浅間学院高等部 三年六組教室

生徒が今し方数学の問題を解き終わったところだ。

「よし、じゃあ次の問題を・・・裕二、解いてみろ」

数学担任の教師が、生徒を指して言った。
裕二はすぐ立ち上がると、黒板に向かった。
カツカツと音を立て、白い文字を書いていく。

「・・・正解だ。よくわかったな」
「・・・いえ」

裕二は、無表情で言葉を返した。





国道二十号沿い『レイツ』地下

『さて、今回の仕事だが』

音を出すテープレコーダのまわりに、四人立っていた。
秀吾、亨、友紀、裕二である。

『君たちMURDERの今回の仕事は、密偵だ』
「密偵・・・?」
『最近、和気銀行が儲けているのは知っているだろう。この不況に、だ』

声がいったん切れる。が、すぐに始まった。

『何か裏があると我々は踏んだ。君達には和気銀行への潜入を指令する。いい報告を期待しているぞ』

キュルキュルと言って、テープが止まった。
いちいち取り出して処分などはしない。勝手に中で消えてしまう。
何故かは知らないが。

「・・・って訳だ。俺が行こう」

秀吾は、言い出したら聞かないのを皆知っている。

「・・・・あぁ」
「裕二、セキュリティは任せるぞ」
「任せろ」





和気銀行玄関 “MISSION START”

裕二がインターホンのカバーを外した。中の線を一つ斬る。
そこに、パソコンからつながる線をつけた。
打ち込むと、その命令が実行される。
玄関の赤外線レーザーが消えた。裕二が秀吾に合図する。
秀吾は自動ドアを手でこじ開けると、中へと入っていった。

「・・・さて」

裕二がカタカタとキーボードを操作した。





和気銀行前 “MISSION START 2”

ピピピ・・・・ピピピ・・・

「はい、こちら亨」

亨が携帯を取る。

『・・・君達の仕事は秀吾達とは別に行ってもらう。今から裏口へと回れ。裕二が準備しているはずだ』
「・・・はい」

亨は携帯をしまった。

「どうしたの?」
「任務だとさ。裏に回るぞ」





和気銀行 三階

ビーッビーッ!

「うお!」

突如警報が鳴り響き、辺りが赤く染まる。

「裕二の奴、しくじりやがったな!」

愚痴ながらも、ドアの中へと飛び込んだ。
足音が近づいた。

「どこだ? 侵入者は!」
「ここにはいません。何処かに逃げたんでしょう。他を当たります」
「よし、各班に分かれて探すんだ! いけ」
「はいっ!」
(・・・おかしいな)
「全く・・・社長も予期していた訳か。今日に限って警備をつけるなどと」

(予期!?)

馬鹿な、あり得るはずがない。
自分たちの組織『魂入霊歌』の情報が漏れることなどあり得ない。

(どういうことだ・・・!)

やがて警報が止んだ。足音が遠ざかっていく。

「・・・ふう」

体に丁度良い戦闘用スーツから、拳銃を引き抜いた。

「・・・くそ。自分から罠に飛び込んだんじゃねぇか」





和気銀行 裏手

「・・・・・てわけか」
「何が?」

壁に張り付いて歩く亨と友紀。
頭上には体温感知レーダーが首を振っている。
ただ真下は死角のようなので、そこを利用しているわけだ。

「いいか? 友紀。よく聞くんだ」
「うん」
「今からあそこに走る、いいな?」
「わかってるよ」
「よし、見つからないようにいけよ」
「わかった。じゃ行くね」
タッ

「あっ! おい馬鹿! 体温遮断装置をONに・・・!」

パーン!

「!?」

二人が上を見上げた。
暗くてよくわからないが、どうやら窓ガラスがわれたらしい。
飛び出たであろう黒い影が降ってくる。

「なに!」

ズン、と地響きを立てて、影は着地した。
最上階から落ちてきて、それでも平然としているその影は、巨大な黒ずくめの男だった。





和気銀行 三階

二つの影が素早く動いていた。
片方は秀吾。そしてもう片方は、黒ずくめの大男だった。

「くそっ!」

秀吾が跳び、男に向かって膝蹴りを放つ。
それを男は手のひらで受け止め、秀吾の脇腹に手刀をたたき込んだ。

「ぐっ」

少し離れて着地し、汗を拭う。
基本的に隠密行動の時は拳銃は使わないようにしている。
ただそれは、相手が人間であったときだ。
こんな化け物の時は例外である。
秀吾は拳銃を構えた。
弾は二十発。
こらえるかどうか。
放った。





和気銀行 二階

「なっ、何だお前は!? う、うあああぁぁ!」

悲鳴を上げた男の首筋に、裕二は手刀を入れた。
男・・・警備員だろう・・・は崩れ落ちる。

「これで・・・・全員か」

裕二は辺りを見回した。
そこらじゅうに気絶した男達が転がっている。
死者はいない。
自分はそうするように『セッティング』されている。

「・・・さて」





和気銀行 最上階 社長室

「なんとまぁ・・・やるね」

ソファにもたれたのは、とても社長とは言い難いひょろりとした男だった。
ソファがブカブカとしているぶん、やせた男の体は沈んでいるようだ。

「だが・・・あの男達には勝てるのかな?」

和気はニヤリと笑った。





和気銀行 三階

弾は確実に男をとらえていた。
男の眉間に突き刺さるはずだった。
しかし。
弾は男に当たる前にはじけとんだ。
パァン! という音と共に。

「・・・なに?」

男の周りの空気が、波を立てるように歪む。
そのせいかはわからないが、男の顔がニヤと笑ったように見えた。
もう一度、弾を放つ。
だがそれも、男に当たる前にはじけた。

「どういう・・・ことだ?」

男が跳んだ。『つま先』で。
つま先でちょんと軽く床を蹴る。
それだけで。
それだけで男の巨体は、瞬く間に秀吾との距離を縮めた。

「が!!」

秀吾の首を掴み、持ち上げる。
首を締め付けていった。

「がぁ・・・う」

しばらくもがいていたが、秀吾の体はだらんと垂れた。
男がニヤリと笑い、手を緩める。
その瞬間。
秀吾の目が見開かれた。男のみぞおちを蹴りつける。
男が腕を放した。男の胸板をけり、後方にジャンプする。
一回転してから、拳銃を放った。
だがやはり、波を残すだけにとどまる。

「くそぉっ!」

何がどうなっている。
何故当たらない。





和気銀行 裏口

どうして。
亨が拳銃を投げ捨てた。
弾を撃ち尽くしてしまったからだ。
無論、男の体には傷一つ付いていない。

「・・・ちっ」
「亨!」
「来るな!」

友紀を止めてから、亨は構えた。
肉弾戦用だ。『魂入霊歌』仕込みの。
通じるかどうか。相手はプロである。





和気銀行 三階

秀吾の腕が跳ねた。三回。
男の周りの空気に波紋が三つできる。
相変わらず、当たることはなかった。
後ろを向いて、走り出す。
途中にあった非常ボタンを叩き割った。
ブザーが鳴り、男の目の前のシャッターが閉まる。
男の姿が消えた。と同時に、秀吾は拳銃を撃ちまくる。
四発。
穴が四つ開いたからそうだろう。

「・・・・・ぐ」

打たれた脇腹が痛んだ。左手で押さえ、踵を返す。
目的は情報収集だ。化け物にかまっている暇はない。
が。

ドゴオッ!

秀吾の体がピタと止まる。

ドゴオッ!

素早く振り返り、撃った。
穴が三つ開く。
それでも音は止まらなかった。
そして、五回目。
厚さ三センチはあった鉄のシャッターが破壊された。

「・・・・なんだよ。『ただのガードマン』がこんな化け物なんつー話は・・・きいてねぇぞ」





和気銀行 裏口

「うっ!」

亨の体が飛んだ。男の拳によって。
亨は何とか着地すると、腹を押さえて構える。
口から出てくるのは、胃液だ。
吐くことはしない。その分、相手に隙を与えることになる。

「・・・化け物が」

少し深呼吸をする。気を落ち着かせる。
さて、どうするか。





和気銀行 三階

男が姿を現した瞬間、秀吾は拳銃を四発はなった。
やはりはじけ、消える。

「くそっ」

秀吾がもう一度撃とうとした瞬間。
男が素早く間合いを詰めた。
秀吾の懐に一瞬にして潜り込み、銃を構えている秀吾の腕を弾く。
秀吾の放った弾は天井に当たった。
同時に、男は秀吾を殴り飛ばした。
体が、飛ぶ。
落ちた。うめいてから目を開けると、シャッターが目の前にあった。
閉まっている。
確認する前に体が動いた。辛うじてすり抜ける。
秀吾の後ろのシャッターが閉じた。

(・・・しまった)

秀吾は、男と対峙していた。シャッターを背にして。





和気銀行 裏口 “MISSION END”

あっけなかったと自分でも思う。
自分たちがかなわなかった相手は、いとも簡単に死んだ。
そう、裕二の手によって。

「・・・がっ」

亨が血を吐き出した。

「亨!」

友紀が駆け寄ってくる。

「亨、大丈夫!?」
「ま・・・まだまだ」

と亨が構えた。

(・・・差し違えてでも!)

と。

パーン!

「な!?」

また頭上のガラスが割れた。
ただ先ほどと違うのは、それが二階のガラスだったことだ。
飛び出してきたのは裕二。
彼は空中で一回転して、落ちてきた。
男が上を見上げる。
その顔面に、裕二は容赦なくかかとを落とした。
男の顔にめり込む。
グシャと音がして、男の顔が潰れた。





和気銀行 三階 “MISSION END2”

秀吾が前に出ようとした。
瞬間、彼の前を赤い光が過ぎる。

「なっ!?」

秀吾は振り向いた。
赤外線探知式レーザーだ。
秀吾はそれを撃つ。火花をあげて、それは壊れた。
煙が立ち上り、それに反応してスプリンクラーが作動する。
辺りは気を待たずして水浸しになった。
男がニヤニヤと笑いながら、こちらに向かって歩いてくる。
ゆっくりと。

「・・・くそ」

秀吾は拳銃を構えた。
放つ。もう、相手のどこでもいい。
辺りはしないから。
そのとき、男の肩から血がほとばしった。

「なに!?」

男がたじろぐ。
バリアが消えた。

(・・・次で殺せる)

秀吾は歓喜の念を込めて、眉間を狙った。
引き金を引く。





かチッ





「・・・・・な?」

弾切れ。
絶望が脳裏をかすめる。
男は顔を歪めた。同時に飛びかかってくる。

「何か・・・・何か!」

秀吾は素早く辺りを見回した。レーザーの残骸が火花を散らしている。

「! これだ!」

秀吾は、横に跳んだ。男が横を通り過ぎる。
レーザーの内部に手を突っ込んだ。耐電製の特別仕様だ。流れたりはしない。
その中から、コードを引き抜く。
ブチブチと音がして、何本も切れた。
秀吾が引き抜く。パリパリとまだショートしているコードをみた。

「死ねぇっ!」

コードを、スプリンクラーによってできた水たまりに突っ込んだ。
何百ボルトの電圧が流れる。その先には・・・男。

「ガアアアアアアアアアアアアア!!」

男が奇声を上げた。体がビクビクと震える。
口から泡が吹き出た。
秀吾はなるべく見ないようにして、コードを引き出す。
男はしばらくの間は立って痙攣していたが、その内、倒れた。

「・・・・ふぅ」

秀吾は雨の中壁にもたれかかった。

「・・・おかしい。おかしいぞ」

どこがおかしい。
全てだ。全てがおかしい。





京葉高校 “AFTER MISSION”

報告はしたが、それといった返事は来なかった。

「・・・・なんなんだよ」

秀吾は頭をかきむしる。腑に落ちないのだ。
予見していた、というつぶやき、銃の効かない化け物。
『魂入霊歌』でもない一般企業がどうしてそんな者を持っているのか。
もう一つの可能性がないわけではないが、それもおかしい。
全ては謎だった。
そう、全てが。







あとがき。
どーも、ろう・ふぁみりあさんの所は初めての投稿です。
ぶぅ、終わり方がわけわからん。
ぶぅ、つながりもわからん。
ぶぅ、アクションが少なすぎ。
ぶぅ、謎が多すぎ。
ぶぅ、登場人物のその後がない。
↑はブーイングです。
てわけでオリジナル小説の「MISSION」どうでしたか?
これは本来続き物なんで訳分かんないんですけど、とりあえずこれは読み切りです。
僕がいかにアクションが好きか、駆け引きが好きか、てのを表現したような小説なんですけども。
その部分がわからん。これはゆゆしき問題だ。
まぁ後の方になるとみんな『人外』の動きをするようになるんですが・・・・。
反響が良ければ続きを書こうと思います。じゃないと迷宮入りという恥な小説になりそうなので。
でわ。

追伸:ろう・ふぁみりあさん。そして名前を使わせていただいた同級生の秀吾君、裕二君、亨君、友紀さん、和気君。どうもありがとうございました。
でわ。


↑INDEX