死者の双牙
第八話
…怖いくらいに静かだ。
50対2。
誰も口を開かない。
いや、開けないのか。
そうではない。
「自由のない生は、死と大して変わらんですばい。後悔すっですよ?」
再びハンスの声。
誰も答えない。
「良かとですか? 何も未練は無かとですか!? 何もせんなら何もならんとですよ!」
結論を迫るハンスの声。
もう、だいぶその声色は険しいものがある。
シャリッ…
遂にその音が、一瞬光を反射して、ハンスから最も近い位置に居る人物より響く。
「いいだろう…」
低く、強い声だったが、その先は止めてしまったのか、聞こえない。
同時だった。
突然、赤い光球が二人の真上、10m程に飛来したのは。
動揺が走る。
一方、いろんな意味を込め、ニヤリと笑うハンス。
刹那、光球は無数の光の矢と化し、一見無秩序な幾何学模様を描いて降下を開始。
一帯が赤に満ちる。
赤い光と、赤い液体。
光は意思在るが如く、帝国兵の身体を撃ち抜き、さらに次の獲物を求めて旋回…。
ミスト将軍が気付いたとき、辺りには屍の山しか無かった…。
「お前ん魔法は、ど〜も、バイオレンスなぁ。もうちっとスマートにならんとや?」
「文句言う前に礼言いなさいよね」
撃ち洩らしに備えて、バスタードソードを片方だけ抜いたブリュンヒルドが、ハンスの突っ込みに答えたのだった。
「…?」
その惨状に苦笑を浮かべていたエーレ=ミストだったが、橋上に人影を見つける。
自分の直後に城に入った者、つまりはブルートとルーシアだ。
そして、後ろに続く黒い塊。
数えるのも嫌になるほどの、兵士。
「さっさせんや! 逃げるばい!」
血相を変えたハンスの叫びが、湖上に木霊す…。
運命が残酷であるとは、例えばこういう事か。
既に数千の兵士。
それがイナゴの如く集まり、五人を包囲しているのだ。
ブリュンヒルドの指先から赤い閃光が走り、一人を貫いて戦闘能力を奪う。
ブルートの斬撃が、まともな装備を持たない一般兵を、二人まとめて始末する。
ハンスの一撃は、相手を一刀両断。
元将軍の流麗なる攻撃は、抵抗すらさせずに四人を斬り倒す。
が、その調子でいつ終わるだろうか。
いや、いつまで続くか。
己を否定しようとする状況。
音速の衝撃波で将棋倒しを誘発したルーシア。
彼女の頭に、抗い得ない怒りが生まれている。
ブルートが神も運命も否定する気持ちが、今のルーシアにはよくわかる。
自分の望まぬ、理不尽な方に物事を動かそうとする物なんて、存在する価値は無い、と。
運命など、破壊してしまえ、と。
そこまでして、わたしは生きたいのだ、と。
判っている。
そう遠くない内に、それが爆発することが。
声が聞こえるのだ…。
『我慢しなくていいよ。絶対上手く行くから』
と…。
悪魔の誘惑?
最初は、そう思った。
しかし、今は違う気がするのである…。
殺気と悪寒。
それも、尋常な程度ではない。
半径100m以上がどす黒い何かで覆われ、圧迫感で息も出来ない程…と形容しても問題は無いだろう。
殺意があるのは、多かれ少なかれ、この場にいる全員が同じだ。
しかし、質も、次元も違う。
完全に、殺気と憎悪のみ…プロの出す気配ではない。
思わず振り返る。
その場の全員が。『我、汝魔の神に命ず…』
震えた調子で響き渡る声。
これが…魔法陣というやつか?
しばし、状況を忘れて見入るブルート。
無論、彼だけではない。
ルーシアを中心に、半径5m程の巨大な円形の紋様。
それは、意味不明な幾何学模様で飾られており、不可解な紫色に輝いている。『我が意の下に、汝が力と破壊を現出せよ…』
感情のまったく籠もらない声は、続けて言葉を綴る。
光が現れた。
大きな、とても大きな光が、ルーシアのすぐ上に現れて、上昇していく。
まずい。
正気に戻った本能が、そう言っていた。
しかし、どうすればいい?
ルーシア…?
俺は…何をしたらいい?『灰燼に帰せ!』
勿論、守らないとな。
だが、どうすれば?
紫と黒の波動を通して見える、ルーシアの表情は虚ろだ。
何をする気だ?
いや、何かの攻撃だろうと予想するのは容易なことだ。
強力な攻撃だろう。
光の塊は収縮を始め、その分だけ明るさは増していく。
恐らく、この一帯を吹き飛ばすくらいの威力はある。
なら…。
声が聞こえる。
『そんな事しなくても、大丈夫だよ』
と…。
声に構わず、ルーシアを庇うべく、咄嗟に跳ぶブルート。
距離は近い。
二人の影が、見る間に近付く。
昇っていく光弾の下、彼らの周囲を囲むおかしな膜のようなもの。
気付きつつ、ブルートはそのままルーシアに被さる…。『桜華命断光!』
光が満ちる。
黒い稲妻も見える。
そして、一面の、白。
すべてを無に帰す、チカラ…。…
眩しい… 真っ白… 何も、考えられない… 何があったんだろう… 体の感覚がない 浮いてる…みたい どうなってるんだろう…? |
|
『夢を見てるんだよ』 |
|
ん…? 助かったらしいな… … 結局、あれは何だったんだ… |
え…? じゃ、助かった…? … あ、ブルートだ |
『魔法だよ』 『でも、普通の魔法じゃない』 『別の…世界のだよ』 |
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… なんだと? でも、だとすると、あの威力も納得が行くな …待て だったら、何故助かった…? 例の変な膜か? |
魔法? なにそれ? 何かあったの? |
『…』 |
|
言えないことか? 嫌ならいいんだ 俺もあいつも助かった それで、十分だからな… |
??? |
『そうだね。それがいいや』 |
|
ああ どうせ過ぎた事だしな |
な、なんなのよぅ! 教えてよ〜! |
『じゃあ、そろそろ起きてよ』 |
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そうだな まだ、ここも安全じゃない …ちょっと待て あんた…ナニモノだ…?
|
人の話を聞きなさいよぅ〜! … …ん? そういえば、そうだね キミって誰? |
(でも、おいら、そんなの嫌だったし…父ちゃんも望んでたし…) (それで、あんな体で…) (でも、今になったら、本当にどうでもいいことだね) (…) (復讐は失敗しちゃったし、また沢山死んだ) (仕方ないなんて言いたくないけど…) |
サッドネス・スパイラル |
(この世界は、そう…悲しみの輪廻) |
(でも、生きて…) (とにかく生きて。理由なんか要らない) (死んだおいら達の…たった一つの…お願い…) (最後の…ね) 「おい…!」 流れに巻き込まれ、思い悩む者 自ら望み、巨大な力を敵に回した者達 それに手を貸す者達 それもこれも、単なる通過点に過ぎない… 歴史は動く 人々を、その“部品”として… そして… 誰も、結末を知らない… そう、誰も… 死者の双牙 |
☆あとがきとか☆
まず最初に言うことがあります。
シン・マーシーさん、ありがとう御座います。それと、本当に御免なさい。
思いきりラストスターの方に干渉しまくった挙げ句、この終わり方ですからね。迷惑極まりない…。これにゴー・サインをくれた彼に感謝。
それで、ようやく後書きらしい後書きを。
端的に言うと、かなり気に入ってる作品です。
心の描写は、今まで殆どやってきませんでした。作者の精神が極めて単純なため、複雑な心理はなかなか書けなかったのです。
一人称小説は、今回が初挑戦みたいなモンです(実は当初、ブルートの語る昔話にしようか、と思っていたので、その名残です)。
ラヴなど経験ゼロです。現実世界での恋愛経験は、保育園の時に一度きりなんて奴ですから、作者は(しかも破局/爆)。
初挑戦ばかり。
実験作だったのかも知れませんが、自分としては気に入る出来に仕上がりました。
なんというか、ストーリーが詰まってて良い感じだな、と自画自賛(謎)。読んでて、書いてて楽しかったです。
キャラ…ルーシアがぶっ飛んだ性格を持ってたのが良かったのかも知れませんね。
最後にこの話、本格的な戦闘シーンが殆どありません。これは計画外だったんですが、気付いたらそうなってました(笑)。
まあ、最後の方でありましたが、マジギレ(まあ、誰だってキレるか)ルーシアの一人舞台でしたしね(苦笑)。つーかブラッディ(爆)
さて、そろそろお喋りな作者は退散します。
最後に、ここまで読んでくれた皆さん、ありがとう御座いました。
ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜
・・・さあ、どうしよう困った。
この感動をどーすれば言い表すことができるのだろう?
こういうとき、自分の語彙の少なさになんとも苛立ちを感じてしまう自分ですが。
まず言うことは、面白かったです。と一言。
4話から最終話までばーっと読んだせいかな。もぉ、物語の流れにだーっと流されました自分。
何が面白かったってゆーと、ルーシアさん。彼女がすごく楽しかったです。
「復讐」とゆー、本来ならば暗い話をここまで読みやすくなっているのは彼女の功績でしょう。多分。
で、実は五話まではただそれだけだったんですよね。
読みやすいはいいけど、今度は「復讐」という物語の趣旨が薄れすぎて―――ブルートさんの、心理描写もちょっと弱かったなー、とか思うし(ごめん、でも本音)。
「おいおい、このままおちゃらけで終わったりしないだろうな」とか思てたり。
だけど、第六話。
前夜。二人の語らいで、なんつーかこう・・・・・・・・なんだろ。
ああ、この二人は最後に向かってるんだなー。とか妙にしみじみしちゃって。
で、そっから最終話まで一気に突っ走りましたね。
ちぃとばかしラストがよくわからんかったなー。別の世界の魔法とかブルートさんの正体とか。
でも、読み終わってから。
「くうう、いーもん読んだぁ」とか思ったのはマジっす。さいこーっす。感動でしたっ!
オイラもこーゆーもん書きてえええっ!
と、無駄に色々いって見ましたが。
オイラと同じくらいに心を打ち抜かれた人は是非、感想ってゆーか感動を作者さまにぶちまけるべしなのですよ!
歴史は動く
人々を、その“部品”として…
これ。
この一文がめっさお気に入りですっ!