第29章「邪心戦争」
BP.「感応」
main character:ユフィ=キサラギ
location:次元エレベーター
視界からシド達の姿が消える。
―――向こうからしたら、消えたのはこちらの方なのだろうが。首筋に白刃の冷たさを感じながら、仲間と切り離された孤独感を感じ、ユフィは軽い絶望を覚える。
光どころか熱も何も感じられない空間。
闇というよりは “虚無” とでも言うべき場所に彼女はセフィロスと二人、放り出されていた。
おそらくはこれが “幻の月” に続くという “次元エレベーター” なのだろうが。(ほ、ほんとーに月に辿り着くんだろうな!?)
心の中で、あのイカれた科学者に向かって怒りのような疑問を投げかける。
先程まで息が止まるほどに感じていた “殺気” は消え失せていた。
未だに刃を突き付けられているが、それは単に刀を収める理由がなかっただろう。セフィロスにとって見れば、ユフィなどどうでも良い存在であり、月に向かっている今、殺す価値も無いと言うことなのだろう。
・・・逆に言えば、もしも行き先が月ではなかった場合、それでセフィロスが逆上しようものならば。
(マジで頼むよオイ!)
声に出さずに必死に懇願する相手はルゲイエではなくシドだ。
あの狂科学者は自分で言っていたとおり、ユフィがどうなろうと自分の人生にはなんの影響もないと思っているだろう。だからセフィロスの脅迫に従う理由もない。拒否する理由もないが。「なんとなく」とかそういった気分で、行き先がとんでもないところになっている可能性がある。
だがシドの方はバロンの城で働いていた時の顔なじみでもあり、ルゲイエに比べれば―――比べるのも失礼なくらい、はるかに良識人だ。ユフィの事を案じずに、下手な真似をするとは思えない。・・・思いたくない。
(でもでも、こんな危険人物をあたし一人の命で始末出来るなら安い買物かもー!?)
忍者的な思考を巡らせて、ユフィは一人で愕然とする。
と、不意に周囲に変化が生まれた。「ふえっ!?」
変化、というにはあまりにも唐突に、周囲が切り替わる。
そこはまるで元居たバブイルの塔と同じような場所で―――「―――セフィロスッ!」
鋭い怒声。
顔を上げれば、そこにはツンツンとした金髪の青年が、巨剣を振り上げながら跳躍していた。
殺気に満ちた形相でこちらへ向けて巨剣を振り下ろしてくる!「ちょっとおぉっ!?」
迫る鋼を前に、ユフィは身動きすることも出来ず悲鳴をあげる―――よりも早く、金属と金属の激しい衝突音が眼前で鳴り響く。
寸前までユフィの首元にあったセフィロスの刀が、巨剣を受け止めていた。「チッ!」
巨剣の一撃を刀で受け止められ、ツンツン頭の青年は舌打ちしつつ、受けられた反動で後方へと退く。
それを追うように、セフィロスが刀を一閃。しかし僅かに届かず、切っ先は青年の服の裾をかすめ、短く切れただけだった。(うっわああああああっ!)
そんなやりとりが行われている隙に、ユフィは身をかがめて転がるようにセフィロスの傍から離れる。
「こっちです!」
耳に飛び込んできた声に誘われるようにしてそちらの方へ視線を向ければ、そこにはさっきまで一緒に居た少年と良く似た少女がユフィを手招きしていた。
「大丈夫ですか!? ・・・ええと、ユフィ、さん?」
「あ、あんたもしかしてポロム!? パロムの双子の」パロムから話を聞いていたユフィがその名を出すと、少女は緊張した様子ながらも「はい」と微笑んで頷く。
と、そこでふと疑問を覚えた。「初対面だよね? どうしてあたしの名前を・・・?」
パロムが伝えたとは考えにくい。少年がエブラーナに来てから、そんな暇はなかったはずだ。
他の知り合いがユフィの事を伝えたのかもしれないが、こんな状況で人伝に聞いただけのユフィをすぐ解るものだろうか?「おおおおおおおおおおおっ!」
「・・・ふ、ん」裂帛の気合いに驚いて振り返れば、セフィロスと先程の青年が激しく斬り結んでいた。
身の丈ほどの巨剣を軽々と振り回す青年の猛攻を、しかしセフィロスは難なくさばいていく。(・・・そういえばアイツも反応早すぎだろ。気がついた時にはすでに襲いかかってきてたし―――まるで、あたしらが来るのが解っていたかのような・・・)
そう思っていると、その心を読んだかのように少女が呟く。
「パロムが、教えてくれたんです」
******
時間は少々遡る。
それはユフィとセフィロスが、月へと到達する直前の事。“幻の月” にある次元エレベーターのコントロールルーム。
月の魔物達を地上へと送り続けていたゼムスマインド達を退けた後も、、ポロム達はその場に待機し続けていた。
魔物の転送を食い止めた以上、ここでするべき事は何もない。ポロムとしてはセシル達の後を追いかけたかったが、再びゼムスの手先がここを襲撃し、地上へ魔物を送り込もうとする可能性もある。それを警戒し、引き続きこの場に留まっていた。
ちなみにゼロとカイ、それからラムウの姿は無い。
「腹は減っては戦は出来ませんです!」とゼロが言いだし、カイとラムウを連れてハミングウェイの洞窟へ食料調達に向かった―――確かにもっともな意見かもしれないが、ゼロの本意としては、単に何もしないのが退屈だっただけだろう。普段ならギルバートが曲の一つでも奏でてくれるところだが、敵の襲撃を警戒している中でのんきに曲を聴いているわけにも行かない。
最初はすぐにでも魔物達が襲撃してくるかもと緊張していたポロムも、次第に退屈を感じはじめ、いっそのことゼロ達についていけば良かったかもと思い始めた頃。
「えっ・・・?」
不意に誰かに呼ばれた気がして、ポロムは顔を上げる。
「パロム・・・?」
「どうした?」すぐ傍に居たクラウドが問いかけてくる。
「ええと・・・パロムの声が聞こえませんでしたか?」
「いや・・・? 俺には何も聞こえなかったが」
「で、ですよね。こんなところにパロムが居るはずが・・・あら?」ふと、ポロムは服の中から温かな熱を感じる。
「まさか・・・」
ふと思い当たることがあって、ポロムは服の中から “それ” を取り出した。
“それ” とは飾り気のない腕輪。ミシディアで長老から渡された “ツインスターズ” という、二つ一組の腕輪だった。「腕輪・・・? 光っているが」
クラウドの言ったとおり、腕輪は淡く光っていた。
明るい場所では、よくよく目を凝らさなければ見えない程度の光だが。「もしかして・・・」
なんとなくポロムは腕輪を腕に装着する。
大人用の腕輪であり、子供のポロムには大きすぎて、腕輪を “はめる” というよりは単に腕を “くぐらせる” といった様子だったが。「あっ・・・!?」
不意に腕輪が震えたかと思うと、急速に縮まってポロムの腕にぴったりの大きさになる。
元々、マジックアイテムだと言うことは解っていたので、サイズが変わる程度の事ではいちいち驚かないが、しかしポロムは表情を青ざめさせ、緊迫した様子でクラウドを見上げる。「ここに来ます! あの・・・っ、試練の山で会ったセフィロスって人・・・!」
「なんだと・・・!?」クラウドがその名前に反応した直後、部屋の中にある転送装置が動き出し、間もなくして二つの人影が出現する。
「―――セフィロスッ!」
その人影を確認すると同時、クラウドはいきなり巨剣を振りかざして飛び出し、セフィロスと戦闘を開始した―――