第29章「邪心戦争」
BN.「協力」
main character:ユフィ=キサラギ
location:バブイルの塔
「な・・・なに・・・っ!?」
―――いきなり敵が襲いかかってきたと思ったら、次の瞬間には切り刻まれていた。
ミスリルゴーレムがバラバラになって崩れ落ちるのを見届けた後、ユフィは斬撃の飛んで来た方向をすぐに振り返らなかった―――られなかった。それはしばし何が起こったのか理解が追いつかなかったのと、そして。
(・・・ミスリル製の怪物を一瞬でバラバラにするほどヤバイ奴が居るって事!?)
湧き上がる嫌な予感に振り返りたく無かったからだ―――が、いつまでもそうしているわけにも行かない。意を決して振り返る、と。
(・・・予感的中)
振り返った先にいたのは、銀髪の青年。
ユフィにとって馴染みのあるセブンス地方の服装で、手にはこれまた忍者としての彼女に馴染みのある刀―――それも規格外れの長い刀を下げている。ユフィはその青年の事を、一方的にだか知っていた。
否、セブンスの人間ならば知らぬ者はそうは居ないだろう。現在現役で “最強” の称号を得ている三人の内の一人。人間を超えた力を持つ “ソルジャー” の中でも “英雄” と呼び称されるその名は―――「てめえ!」
声を上げたのはユフィではなくパロムだった。
少年もまた彼女のように驚いた様子で目を御聞く見開き、銀髪の青年を見つめてその名を叫ぶ。「確か “セフィランサス” とか言う奴じゃねえか!」
「って、違う! 最初は合ってるけど後半違う!」反射的にツッコミ。
するとルゲイエも、うむうむと頷いて、「それをいうなら “ゼフィランサス” じゃ。 “ゼ” がポイント」
「それも違うッ!」
「な、なにをう! 花の名前も知らんとはそれでも花も恥じらう乙女かーっ!」
「誰が花やら乙女やらの話してるかーっ!」と、叫んでからユフィはギクリと身を強ばらせてぎこちなく銀髪の青年を振り返る。
青年の方は感情を見せない表情でこちらの様子を眺めている。敵意、殺気などは感じられないがしかし―――「・・・あんた、セフィロス、だろ・・・?」
確認するようにユフィがその名を口にする。
彼女自身は初対面だがその姿は知っている。セブンスに行けばあちこちで “英雄” セフィロスのブロマイドは売っているし、例えそういった物を見ていなくても、 “長い銀髪” に “長い刀” などと言った特徴を持つのはセフィロスくらいなものだ。それもゴーレムを一瞬で破壊出来る戦闘力を持つならば、本物以外はあり得ない。「な、なんであたしらを助けた?」
相手の返答を得ぬままに、ユフィは続けて問いかけた。
下手に相手を刺激しないように、しかし油断無く、いつでも動けるように身も心も身構えながら。―――セフィロスがこのフォールスに来ていた事は聞いていた。
クラウド達がバブイルの塔でそれを倒したことも。
もっともそれは偽物であり―――(偽物が来てるって事は、本物が来ていてもおかしくないと言うこと・・・!)
セフィロスの目的が解らない。
だから敵か味方かも解らない。セフィロスの偽物はバブイルの塔でクラウド達と戦った。
しかしそれはクラウド達が仕掛けたからで、向こうは眼中に無かったらしいとも聞く。
それに―――「おいこら! オイラを無視するんじゃねーよ! “試練の山” で会っただろ!」
ぎゃんぎゃんと喚くのはもちろんパロムだった。言葉通り、自分に何の反応を見せなかったのが面白くなかったのか、ふくれっ面でセフィロスを睨付けている。
そんなパロムにユフィは声も出せなかった。
(し、知らないって恐すぎる・・・)
戦慄を感じながらユフィは思う。
目の前にいるその男は、一瞬でパロムを―――いや、この場の全員を斬り捨てることが出来るんだぞ、と口にすることも出来ない。
息を呑み、セフィロスの反応を見てみれば、彼は怪訝そうにパロムを見つめてからしばらくして。「―――あの時の子供か」
思い出したらしい。
その言葉に、パロムは一転して機嫌を直してニカッと笑った。「なんだよ、覚えてるじゃんかよ!」
とことこと近づいて、セフィロスの腰の辺りをバシバシと叩く。
あまりにも相手を知らない気安い行為に、ユフィは更に顔を青ざめさせるが、彼女こそ知らなかった。ユフィが言うまでもなく、パロムは “試練の山” で一度セフィロスに斬り飛ばされている(もっともその時は、セフィロスも本気ではなく、テラの魔法で事なきを得ていたが)。
一度、その凶刃を振るわれたにもかかわらず、まるで気にせず接してくるパロムに、セフィロスのほうも呆れて毒気を抜かれたのか、それともたまたま機嫌が良かったのかどうでも良かったのか―――ともかく。
「お前を覚えていたわけではない」
特に殺気を放つこともなく、刀を振るうこともなく、興味なさそうに呟く。
「セシル=ハーヴィ。その名を覚えていただけだ」
そう言い捨てると、まとわりつくパロムを腕で振り払い先へ進んでいく。
「いってー!? なにすん・・・」
セフィロスに突き飛ばされて尻餅をついたパロムが悪態をつこうとして、その言葉が尻すぼみになる。
ミスリルゴーレムの残骸を乗り越えて、進んでいくセフィロスの背中から凄まじい威圧感を感じたからだ。それは子供のパロムでさえもはっきりと感じ取れ、言葉を失ってしまうほどの濃密な “殺気” 。(・・・そうか)
それを感じ取ったユフィははっきりと理解する。
(さっきのはあたしたちを助けたわけじゃない・・・単に “邪魔” だったからだ)
デカいゴーレムが行く手で暴れている。だから斬った。
セフィロスにしてみればその程度で、別段ユフィ達を助けたつもりもないのだろう。助けたように見えたのは、 “たまたま” セフィロスの斬撃がユフィ達に当たらなかったからに過ぎない。こいつはヤバイ―――そう、思う一方でユフィは安堵もしていた。
どうやらセフィロスの目的はユフィ達とは関係なく、このまま見送れば殺される心配もない―――
「うおーい、ちょっとまったらんかーーーい!」
いきなり後ろから聞こえてきた叫びにユフィはぎょっとして振り返る。
叫んだのはパロムではない。少年は未だに尻餅をついたままだ。パロムでなければ後は一人しか居ない。
「ちょっとこらイカレジジイ!」
ユフィは怒鳴るが、イカレジジイことルゲイエはそんな彼女を無視してさらに喚く。
「おいこらシカトするとはなにごとじゃー! このホ○野郎!」
「アンタもあたしを無視してるだろー!? アンタこそ何言ってるんだよ!?」
「ん? 女子のくせに知らんのか? 世の中のイケメンの10割はホ○じゃぞ?」
「なにその最悪な世の中!? って、ハッ!」反射的に振り返ってみると、セフィロスはすでに歩みを止め、こちらを振り返っていた。
別にホ○呼ばわりされて激怒したわけではないだろうが、それでも目障り程度には感じたのだろう。ユフィが振り向くのと同時、長刀を素早く振り上げて―――
「 “月” じゃな?」
不意の言葉にセフィロスの動きが止まる。
「って、こらああっ! ワシの台詞とんなーーーーー!」
「やかましいゾイ」シドはルゲイエを蹴り飛ばすと、改めてセフィロスへと告げる。
「お前さんの目的は月じゃろう? ・・・おっと、警戒する必要はないゾイ。この塔は “月へと至る道” 。そんなところに来る用事と言えば、月に行く以外にありえんゾイ―――ゴルベーザがそうであったようにな」
「・・・・・・」警戒するなとシドは言ったが、対してセフィロスは殺気を緩めることも、刀を降ろす気配も見せない。
ユフィやパロムが怯えて竦み、蹴られたルゲイエが痛みにのたうち回っている中、シドはまるで殺気も感じず刀も見えていないかのように淡々と続ける。
「こちらとしてもお前さんの行く手を邪魔をする理由はない―――こっちの “敵” とは無関係のようだしのう」
「・・・何が言いたい?」
「協力せんか?」
「貴様らに協力して貰うことなどはない」
「いいや、あるゾイ」そう言ってシドは床に倒れているルゲイエを指さし、言う。
「この馬鹿は以前、この塔を研究しておった。この塔についてもある程度解析しておる―――お前さんが月に行く手助けくらいはできると思うがのう」
「・・・・・・・・・・・・」シドの言葉にセフィロスはしばらく黙り込んでから―――
「使えないと判断したらその場で斬り殺す」
「それでよいゾイ」よくねーよッ! と、心の中でシンクロするユフィとパロムの目の前で。
ゆっくりと、セフィロスは刀を鞘へと収めた。