第28章「バブイルの巨人」
R.「戦闘激化」
main character:バッツ=クラウザー
location:バロン

 

 

 バルバリシアの金色の髪がテラ達へと襲いかかる。
 テラとクノッサスは、魔法を唱えようと身構えるが、詠唱する余裕はない。かといって、詠唱無しではまともな魔法は使えない。

(万事休すか・・・!)

 為す術もなく、テラは観念して迫る髪の毛を睨付ける。
 と、不意に横手から何かが唸りをあげて飛んで来て、髪の毛を切り落とした。

「「なに・・・っ!?」」

 期せずしてテラとバルバリシアの驚愕の声が重なる。
 髪の毛を切り落としたのはなんと “ムチ” だった。しかしただのムチでは “切る” などということは出来ない。それは先端に槍を仕込んだ特殊なムチだった。

 ひゅっ、とムチがしなり、飛んで来た方へと戻っていく。
 その動きを目で追ったその先には―――

「貴女は・・・!」

 クノッサスが声を上げる。
 それは昨日初めて会ったばかりであり、言葉を交したこともない女性。バロンに “巨人” の情報を伝えてくれた女性だ。

「確か名は―――」
「シュウ・・・!」

 忌々しげにバルバリシアがその名を呼ぶ。
 SeeDの制服に身を包んでムチを手にした彼女は、バルバリシアとは対照的に穏やかに微笑んで見せた。

「久しぶりね、バルバリシア―――できれば違う形で再開したかったが」
「そうか・・・どうも後手後手に回ると思っていたら・・・お前か! お前が――― “私” がお前を通じて・・・!」

 憎悪に顔を歪ませるバルバリシアの様子に、シュウは嘆息する。

「・・・その様子だと、単純に操られているというわけでは無さそうだな。惑わされている・・・というのも違うか」
「ごちゃごちゃと五月蠅い! 死んでしまえ!」

 バルバリシアは今度はシュウに向かって髪の毛を飛ばす。
 それに対し、シュウは動こうとはしなかった―――が、髪の毛がシュウに巻き付き、縛り上げようする寸前、三つの刃が閃いて髪の毛を切り落とす。

 いつのまにか、シュウの周囲には大中小の三つの人影―――女性が出現していた。彼女達の手には、今し方髪の毛を切り払った刃―――それぞれ槍、大鎌、短剣が握られている。

「お怪我はありませんか、シュウ様?」

 現れた三人の女性―――メーガス三姉妹のうち、大鎌を手にした長女マグが問いかける。

「メーガス三姉妹・・・貴女達も私を裏切るのか!」

 バルバリシアの叫びに、マグ達は沈痛な表情でかつての主を見返す。

「これも、貴女の意志です。バルバリシア様・・・!」
「貴女から受けた最後の使命! 必ず果たして見せます!

 姉の言葉に続き、槍を持った長身の次女ドグも言い放った。
 そして最後に―――

「頑張るぴょん☆!」
「シュウ様、ご指示を!」

 マグの言葉に、シュウは神妙に頷いて言う。

「解った・・・アイツを―――そしてゴルベーザを止めるために、力を貸して貰う!」
「「ハッ!」」

 長女と次女は頷きながら、いじけたようにしゃがみ込み「・・・無視されると逆に辛いぴょん・・・」などと短剣で地面を引っ掻いている三女を思いきり蹴飛ばした―――

 

 

******

 

 

(これほどまでとは・・・!)

 炎の魔人を相手に、カーライルは着実に追い込まれていた。
 いくら竜気で熱を操れると言っても、それには限度がある。ルビカンテの炎によって体中を焼かれ、軽いとはいえ全身に火傷を負っている。

(カイン隊長なら、こんなヤツなんて・・・)

 カーライルも若くして竜騎士団の副官が務まる程度には有能な竜騎士ではあるが、彼が敬愛する隊長には遠く及ばない。

 カイン=ハイウィンドの一撃には “最強” を冠するに相応しい攻撃力を持っている。
 直撃させれば、再生させる余裕も無いほどのダメージを与えられるだろう。

「やはり “その程度” だったな」

 

 火燕流

 

 ルビカンテがカーライルを蔑むと同時、カーライルを中心にして炎の柱が噴き上がる。
 全身を焼かんとする炎の熱を、竜気で防ぎつつ跳躍して離脱―――するが、それが限界だった。ずざざっ、砂浜に滑り込むように着地すると、そのまま膝を突く。

(・・・駄目だ、朦朧としてきた・・・)

 いくら軽いとはいえ火傷は火傷。皮膚呼吸もままならない状態で動き回れば、すぐに酸欠状態になってしまう。これまでは必死に気力で保たせてきたが、もうカーライルには戦うどころか身動きする力すら残されていなかった。

「中々にしぶとかったが、そろそろ終わりか」
「・・・・・・」

 カーライルは応えない。応えることすらできない。
 ルビカンテはとどめを刺そうと手を振り上げ―――たところで、ふとあるものに気がついた。

「あれは・・・船か?」

 ルビカンテはカーライルの相手をしているうちに、いつの間にか沿岸近くまで移動していた。
 というよりも、どうやらカーライルは海の方へと誘導していたふしもある。もしかするとルビカンテを海の中に叩き込もうとでも考えていたのかも知れない。その前に力尽きてしまえば無意味だが。

 その海に目を向ければ、そう遠くない沖合に帆船が見えた。
 しかもどういうわけか、その舳先はこちらへ向けられている。バロンの援軍かも知れないかと一瞬考えたが、だからどうだと言うこともないと思い直す。敵だというのなら燃やし尽くせば良いだけだ。

 まずはカーライルへとどめを刺そうと、改めて “炎” を放とうとし―――

「させるかよ!」

 不意に響いた声と共に、砂浜の三カ所から、それぞれ人が飛び出した。

「貴様は・・・!」
「バブイルの塔以来だな―――今度こそ引導を渡してやるぜ、ルビカンテ!」

 隠れていたのはエッジ、ユフィにキャシーといった三人の忍者(そのうち1人は “元” がつくが)だ。どうやらずっと砂の中に隠れていたらしく、ユフィは渋い顔をして口の中に入った砂をぺっぺっ、と吐き出していた。

 飛び出すと同時、キャシーは砂浜に両手をつく。続いてエッジも同じようにして、やや遅れてユフィが地面に手を置いて呟く。

「―――四宝四竜が一竜・・・」

 それは以前、エブラーナの忍者達がルビカンテに仕掛けた術と同じもの―――

 

 水竜陣

 

 キャシーの術で、彼女らの背後に打ち寄せる波が変化する。
 それは津波のように持ちあがり、集束し、一つの水の竜となってルビカンテに襲いかかった―――

 

 

******

 

 

 髑髏の剣

 

 名の通り、骸骨の意匠を施された剣から闇の力が放たれる。
 ウィーダスの振るう闇の一撃は、迫り来る魔物の群れを弾き倒していく―――が。

「・・・む!」

 魔物の何割かはすぐに体勢を立て直し、再び迫ってくる。
 それは骨の竜―――スカルドラゴン、サウルスゾンビーといったアンデッド達だ。
 元々がダークフォースで動いている存在である。全く無効というわけではなく、押し返すことくらいはできるが、致命傷は与えることなど出来ない。

 ウィーダスが周囲を見まわせば、彼の配下の暗黒騎士達もそれらのアンデッド相手に苦戦を強いられていた。

「相手が悪い―――が」

 しかし彼は動ぜずに、髑髏の剣を握りしめて骸骨の竜へと突進する。ぶるんと力任せに振るわれる骨の一撃をかいくぐりながら肉薄し、渾身の力を込めて剣を骨に叩き付けた。

「――――――」

 悲鳴もあげずに―――そもそも上げることが出来ないのかもしれない―――スカルドラゴンは身体を構成する骨を砕かれ、崩れ落ちる。

「この程度の芸当はできるということだ!」

 本来、闇の属性を持つ暗黒剣でアンデッドに攻撃しても、大したダメージは与えられない。
 だがウィーダスは攻撃の瞬間に、ダークフォースを強制的に抑えて “無属性” にした上で骨を叩き砕いたのだ。

 それはセシルですら不可能な―――長年、暗黒騎士として生きてきたウィーダスだからこそできる “裏技” だった。

 眼前の敵を文字通りに打ち砕いたウィーダスは、アンデッドに苦戦している部下達の救援に行こうと身を翻し―――

「ぬっ・・・!?」

 強い闇の力を感じ、再び前を向く。
 見ればスカルドラゴンは崩れ落ちたままだ。しかし強いダークフォースははっきりと感じられる―――と、ウィーダスが訝しく眉をひそめたその時。

 崩れた骨の竜の頭上。何もない虚空に黒いシミのような闇が出現し、それはうねり、広がって巨大な蛇を思わせる竜の形を作る。
 闇によって形成された漆黒の竜。
 それにウィーダスは心当たりがあった。

「ゴルベーザめが操る竜か!」

 

 髑髏の剣

 

 出現した “黒竜” に対し、ウィーダスは剣の切っ先を向け、間髪入れずにダークフォースを放つ。
 相手は闇の力を持つ黒竜だ。ダークフォースが有効とは勿論考えてはいないが、それでも牽制にはなるはずだ―――という、ウィーダスの目論見はあっさりと外れた。

「な・・・っ!?」

 バロン暗黒騎士団最強の剣である “髑髏の剣” 。
 シャドーブレイドを手にしたセシルには跳ね返されたが、それでも強力な闇の力を持つ暗黒剣には相違ない。

 だが、そのダークフォースは、まるで黒い絵の具に黒を混ぜようとしたかのように、黒竜と同化、吸収されていく。

(まさか、これはあの時の陛下と同じ―――)

 嫌な予感に身を震わせた瞬間。
 黒き竜は金色の目を見開くと、大きく口を開けた。
 そして彼の予想通りに、髑髏の剣を凌駕するダークフォースを吐き出した―――

 

 

******

 

 

 カインの槍が一閃―――し、ゾンビ達が数体まとめて砕かれながら吹き飛ぶ。
 だが、すぐに別のゾンビ達がカインに向かって殺到してくる。

「・・・チッ!」

 舌打ちしながら、再び槍を薙ぐ。それだけで迫ってきたゾンビはあっさりと砕け散るが―――すぐに先程と同じように新たなゾンビ達が、カイン目掛けて襲いかかってくる。

 先程からこれの繰り返しだった。

 倒しても倒しても、新しいゾンビが出現する。

「おのれ・・・」

 カインにしては珍しく、どこか焦ったように苛立ち、周囲のゾンビ達を睨付ける。
 いつもの彼ならば、どれだけの数を相手にしようとも容易く打ち砕けたはずだ―――が、何故か今のカインには余裕がない。荒く息を吐き、ひどく消耗しきっている。

 それは以前、バロンの城でバッツと刃を交えた時の様子と酷似していた。

「フシュルルル・・・・・・随分とお疲れのようだな・・・・・・」
「スカルミリョーネ!」

 ゾンビの群れの向こう側で見えない男の声が聞こえ、カインはゾンビ達を薙ぎ払いながら激昂する。

 スカルミリョーネ。
 単に戦闘力を比べてみれば、ゴルベーザ四天王の中では最弱の存在でもある。
 能力と言えば魔法を使うこと(ただし威力はそれほど高くはない)と、ゾンビを操る程度の能力しかない―――が、 “最強の槍” たるカイン=ハイウィンドにとっては相性最悪の相手でもあった。

 カインの強みの一つに竜騎士の基本能力でもある “竜剣” がある。
 それは “熱” を操る能力で、敵の “熱” を吸収することによって、それを己のエネルギーと変換することができる。だからカインに限らずに竜騎士は、いつまでも戦い続けることが出来る。

 だが、相手がゾンビとなれば話は別だった。

 死した存在であるアンデッドには “熱” を持たない。つまり、竜剣で熱を奪って体力を回復することもできないというわけだ。
 いくらカインでも、無制限に湧き出てくるゾンビ達を無補給で相手にすれば、流石に消耗してしまう。

(くそ・・・こうなることは解っていたが・・・)

 カインは忌々しげに胸中で呟く。
 そう。スカルミリョーネが現れた時からこうなることは予測出来ていた。
 だから、カインが最初に取った行動は、ゾンビ達を無視して飛び越え、それらを操るスカルミリョーネを直接狙うというものだった―――しかし。

「くっ・・・!」

 間断なく襲いかかってくるゾンビたちに耐えきれず、カインはこの場を離脱するために跳躍しようとする。
 敵に背を向けるのは恥以外の何者でもないが、このまま続けていてもジリ貧だ。カインの跳躍力ならば、ゾンビ達を飛び越えて容易く離脱出来るはず―――だった。

 しかしそこへ、スカルミリョーネの魔法が飛ぶ。

「・・・『グラビガ』」
「ぐあっ!?」

 地面を蹴った瞬間、重力倍加の魔法がカインに加重をかける。
 通常の4倍ものの重力に、さしものカインも跳躍出来ずに、逆に地面に叩き付けられた。

 初撃、スカルミリョーネを直接狙った時も同じように重力魔法で潰された。どうやらスカルミリョーネは、直接の相手はゾンビに任せ、重力魔法を即座に放てるように集中し、跳躍を封じることに専念しているようだった。
 竜剣は無効、跳躍も潰されたカインにはもはや打つ手はない。

「ぐうううああああああっ!」

 超重力の中、カインは槍を支えに立ち上がる。
 ランスオブアベルに仕込まれた浮遊石の力が僅かに重力を緩和してくれるが、跳躍が可能なほどでもない。

 さらに。

「フシュルルル・・・・・・そろそろ大人しくなって貰おうか・・・・・・」

 スカルミリョーネの言葉と同時、カインの周囲のゾンビ達が一斉に殺到する。
 今だ重力魔法の効果は続いている。当然のように、ゾンビ達は次々に重力に潰されていくが―――

「なっ・・・!」

 カインの周囲に、土塁のようにゾンビ達が潰れては重なっていく。
 それがカインの頭を越えたその時、雪崩のようにカイン目掛けて崩れ落ちていった―――

 

 

******

 

 

「へっ・・・随分と器用に逃げ回るじゃんかよ!」

 三面六臂の姿となり、槍だけを手にしたギルガメッシュが、挑発するようにバッツに向かって叫ぶ。
 その言葉通り、先程からバッツは防戦一方―――攻撃を避けることに専念していた。

「やめろ、ギルガメッシュ! 俺はお前と戦いたくねえ!」
「はあ?」

 何言ってるんだコイツ、と小馬鹿にしたようにギルガメッシュはバッツを見やる。
 それとは対照的に、バッツは苦しげな表情で真剣に相手を見返した。

「お前は・・・お前はバブイルの塔でリディアを助けてくれた・・・」

 セフィロスと戦った時のことだ。
 バッツが倒れ、激昂したリディアはセフィロスに強烈な魔法を放った。しかし、それで倒しきることはできずに、逆に反撃されてしまう。もしもあの時にギルガメッシュが助けなければ、リディアは斬られていただろう。

「それに、ロイドの代わりに命を張ってくれたのもお前だろ!」

 ゴルベーザの操る “赤い翼” に負われ、地底を脱出する時、ロイドが命がけでマグマの石を割ろうとしたのを止め、代わりに請け負ってくれた。ギルガメッシュが代わらなければ、確実にロイドは死んでいただろう。

「ロックを殺したことは許せねえが、それでもお前は俺達の命の恩人だ! だから―――」
「だから戦えねーってか」

 ギルガメッシュは三つの顔で呵々と笑う。

「だったらさっさと俺に殺されて、エクスカリバーを寄越しやがれ!」
「エクスカリバー?」
「おう、そうだ。お前の持っている―――・・・あれ?」

 と、そこでようやくギルガメッシュは気がついた。
 バッツはエクスカリバーを持っていない。手にしているのは見慣れない刀だった。

「おいおい! エクスカリバーはどうしたんだよ!」
「アレなら返した」
「返しただあ!? 誰にだよ!?」

 ギルガメッシュの問いに、バッツは短く答える。

「そんなの1人しかいないだろ―――」

 

 


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