差出人: Takagi
送信日時: 2000年3月22日水曜日 9:44

件名: にんげん交差点

    信号がまた青に変わる。
   ・・・タバコをくわえて早足の若者。
   ・・・かかとを鳴らして、娘。
   ちょっとぶつかりそうになって、はっとお互い顔を見る。
   ・・・「あれ?」「ひさしぶりじゃーん」。
   ここはにんげん交差点。

   星に見守られて、横断歩道がぼんやり白を放っている。
   かなりご機嫌のにいちゃんがキーホルダーを指で回しながらにこにこ駆けて行く。
   後からジャージ姿が追いかけてくる。
   「待ってくださいよー」。困ったような、でも嬉しそうな。
   一瞬の騒がしさのあと、
   いつしかそこにいた長老がちょっとだけ微笑んだ。
   
   適度に自己主張する娘たち。
   カラカラと笑い声が近づいてくる。
   赤信号につられたように何となく会話が止まる。
   一瞬見せる無防備な顔。
   しばしの後、その一瞬を取り戻そうかとするかのような更なる笑い声。
   姿たちが向こうの路地に消えても、
   声だけは、いつまでも、聞こえているかのような・・・。

   角の2階の喫茶店でその景色を見ていた。
   今日もいろんな顔が過ぎていく。
   ニアミスとひょんな出会いが積み重なっていく。
   そこはにんげん交差点。
   ひとしきり見守ったあとで
   僕たちはすっかり冷めてしまったコーヒーをすすった。
   ウエイトレスがあくびをしていた。
   下では見守りつかれた長老がいつもの睡眠に入った。

   アコードが通り過ぎていった。
   その交差点だけちょっと減速して。
   サングラスしか見えなかったが、あのひとでしょう。
   アコードはまるで安心したかのように、そしてまたそこをしばし忘れようとするかのように、
   回転数を上げて遠くの景色に溶けていった。
   ・・・もうすぐ、朝日がのぼる。

   また今日も誰かがふと通りかかって、
   そして誰かとぶつかるかもしれない。
   それが、出会い。

   そしてそれからお互いの方向に、
   歩き出さねばならぬのだ。
   それが、別れ。

   振り返れば誰かがそこを歩いている。
   こっちを見て微笑んでいる気がする。
   それではちょっとだけ微笑んで、前に進むとしますか。

   それは心の中にあり、
   それは心の中にしかないのかもしれない。

   そこはにんげん交差点。