件名: げひら的観戦記(10.24 アジアカップ決勝トーナメント1回戦 日本vsイラク)

<Result>4−1 得点者:名波(中村)、高原(森島)、名波(西澤)、明神(西澤)
<メンバー>

    西澤   高原

         森島
 中村      (→奥)  
  (→小野)        明神
      名波
          稲本
           (→望月)

  服部    森岡   中澤

         川口

<げひら的MIP>モリシでしょう。
<文章方針>喜びをしみじみと

 2試合目にして早々とグループ1位通過を決め、3試合目のカタール戦を完全にレギュラー温存で戦ってそれでも引き分けての余裕の予選突破で主力級(名波、森岡を除く)も休養をとってのイラク戦。やっぱりイラクと聞くとドーハの悲劇を思い出す。しかもクウェートに足をすくわれた前回のアジアカップにしても、記憶に新しいシドニー五輪でも敗退した準々決勝。あるサッカー解説者は「日本は準々決勝症候群だ」なんてちょっと感じの悪い言い方もしていた。まあ「乗り越えて欲しい」と言っていたけれど。それゆえこのイラク戦は是が非でも勝って欲しかったというのが試合前の素直な気持ち。でも不安材料といったら”温存”したことによるレギュラー陣の試合勘ぐらいだったけど、たった数日で、そこまでの不安はないだろうとも思っていた。たとえば名波なんか半年も試合から遠ざかっていたのだから。

 そしていよいよ決勝トーナメントの始まり。両国の国歌が流れる。このセレモニー中は中澤がカッコイイ。何かの雑誌で「歌う男」という呼び名がついていたけれど、まさにその通り。右手を左胸に置き、君が代を歌う。日本のメンバーも皆口ずさんでいるが、手を胸に置いているのは中澤だけ。いいとか悪いとかではないけれど、なんかいかにも彼らしい魂を感じる。ブラジルに留学していた匂い、みたいなものが漂う。
 スタメンはアジアカップのメンバーではおそらく現在ベストのメンバー。敢えて言えば(風邪でなければ)松田が入るという選択肢もあったと思うが、僕は森岡と松田の併用はあまり賛成しない。二人とも技術の高いリベロ的センターバックということで共通していると思うのだが、使うのはどちらかでいいと思う。森岡にも言えるが特に松田のオーバーラップは効果的ではあるけれど、リスクも高い。こういう一発勝負の時にはふたりを並べるよりもどちらかと、右左のセンターバックを置けばいいと思う。ひとりのオーバーラップなら中盤の誰かでカバーはできると思うから。左右に関しては服部、中澤の力は予選でも立証済みだからこのふたり。あとは読みの森岡かフィジカルの松田か、という話。以前の日本で言えば柱谷か井原かという選択になるかな?
 中盤から前はもう殆ど固定されてきた。両サイドにしても左にオフェンシブ、右にディフェンシブな選手というトルシエの基本理念はここでも明確に現れていて、左は名波と俊輔がフレキシブルに、そして右は若くして職人の薫り漂う明神。ワンボランチに不動のイナ。ここまでは今までの延長線とも言える。でもやっぱりトップ下のモリシ。ずっとファンやサッカー解説者の中にあった「トップ下はスルーパスの出せるパサー」という考えをあのハッサン杯のフランス戦でぶち破って以来、「2(1.5?)列目のアタッカー」としてもう完全に定着した。ゴール前でのあの一瞬見せる鋭い輝きは今の日本では右に出るものはいないだろう。もちろん周囲のメンバーあってのモリシだが、モリシあっての周囲のメンバーでもある。ちょっと哲学的に言えば(笑)。

 そしてキックオフ、おおかたの予想としてイラクはガチガチ守って長いボールでのカウンター狙いの中東サッカーで来るだろうと思っていたはず。試合前はそういう意見が多かった。でもその予想はとりあえずは全くのハズレ。キックオフからガンガン攻めてくる。それも作戦だったか分からないがしきりに服部のサイドを突いてきた。これには日本のイレブンも戸惑ったか、いくつか危ない形を作られる。なんとか落ち着こう、落ち着こうとしている矢先になんとも悪い事に先制弾を食らってしまった。今回はGKを攻められないナイスゴール。クリアボールが相手の目の前に転がってしまった不運もあったけどサイドを完全に崩されてしまったので仕方がない。それはスリーバックの事故だから。ディフェンスを3枚にして攻撃的な陣形を敷いてるんだからこれは仕方ない。
 しかし、今の日本代表の強さはここからだった。ともすればイラクに一気にペースを握られても仕方ないようなところだったが、予選で牙をむいた攻撃陣が圧倒する。ここで目立ったのが高原。ボールを受けるとガンガン前を向いて勝負する。それもキープ力も伴っているためにディフェンダーはファールでしか止められない。そうなると必然的に日本の得意なセットプレーの場面が生まれてくる。先制されてからわずか4分後の名波の同点シュートは高原の受けたファールでのセットプレーから生まれた。

 それにしても見事な同点弾だった。完全にフリーになっていた名波に正確なボールを蹴った俊輔と、それを見事なボレーシュートで叩き込んだ名波。二人に10番を半分ずつ付けてもらいたいくらいのハイレベルな連係プレーだった。まあ名波がノーマークだったのはイラクのミスとしても、奇麗な形だった。最近の代表では何度もトライしていた形だったけど、決まったのは久しぶりだったからねえ。でも最近は名波にしろ俊輔にしろ小野にしろ、そしてもちろん中田ヒデにしろ、パサーがアタッカーとしての能力も発揮するようになってきた。そうなると出す側と受ける側がもっとフレックスに入れ替われる。ポジションはもうかなりフレックスに出来ていると思うけどね。最近の代表はいい意味で頭がやわらかくなって来たと思う。
 そしてあっという間の同点で勢いに乗った日本の猛攻が始まる。最初の数分はなりを潜めていた西澤もポストプレーで存在感を見せ始めた。どちらかというとターゲットとして柱役をつとめる”静”の西澤と”動”の高原というコンビネーションはかなりのものだと思う。高原も西澤ももう代表の中で、経験が伴って一歩抜きん出た感さえあるのでかなり自信を持ってプレーしているのが伝わってくる。
 そしてその周りを自在に動き回る森島。西澤とのコンビネーションはもちろんチームでも培われているので文句ナシ。とにかく相手にすれば嫌なプレーヤーだと思う。時としてポスト役にもなるし。2点目はモリシのシュートがディフェンダーに跳ね返されたのを自らもう一度拾って折り返し、それを高原が押し込んで勝ち越した。リバウンドを自ら拾える反応のよさもモリシの武器。ハッサン杯のフランス戦でバルデズからゴールを奪われたときも一度は止められた自らのシュートのリバウンドをもう一度拾って決めたものだった。あの感覚は輝きとして僕の目には映るね。
 もうここからは完全に日本ペースだった。ただ審判がこの辺からあからさまに”アウェーの笛”を吹きはじめる。モリシの切れ込みで2回ほどペナルティーエリア内で倒されたけれどノーファールの判定だったからね。オリンピックの酒井の時はあんなに簡単に笛が鳴ったのに(苦笑)。
 とはいえ、その程度の逆境に左右されるほど今の日本代表は弱くない。いや、もろくない。時々ふと気が抜けたようなミスがあってピンチを迎えるが、それも時々の事。あまりいいことではないが、ワンタッチでつなごうとするレベルの高い発想の中でのミスだから今は目をつぶっていいと思う。完璧にやったら負けなくなっちゃうしね(笑)。冗談はさておき、今の日本代表のワンタッチでつなげる技術は間違いなくアジアではトップクラスだろう。それに加えてしっかりした組織力がもう応用できる段階に入ってるからやっぱり強い。メンバーが固定されてきた事も大きいね。

 そんな中の名波のゴールで2点差をつける。これも西澤がきちんとポスト役で配給したボールをキーパーの位置を見てループで狙い、まあディフェンダーに当たる幸運もあったけどキーパーをあざ笑うようにゴールイン。これは名波の発想の勝利だった。これで2点差。安心のリードだ。思い出したくはないが一点差だとロスタイムに追いつかれるという事故も起きることだってあるから。
 それにしてもこのレベルでは試合を支配できる強さが今の代表にはある。もちろんスリーバックの安定もあるけれど、どちらかといえばディフェンシブな中盤のイナ、明神、名波の貢献が光る。イナはやっぱりワンボランチということもあって(もしかしたら上がりたい気持ちを必死で抑えつつ)あまり前がかりにはならず、攻撃の芽を摘み取る役に徹している。やっぱりこの役はフィジカルの強いイナにはうってつけ。当たりで負けないし、一度抜かれてもしつこく食らいつく強さがある。また万一(?)抜かれてもすぐ後ろにフォローがいるのでまた人数をかけてつぶせる。つぶせなくても時間をかけさせて守備を整えられる。テレビで見てても「やっばーい!」と思ってしまう、「抜かれたら後ろは広大なスペースが!状態」もこの試合ではほとんど見られなかった。コンパクトな守備が出来ているからだと思う。
 そして守備に関して、もう1つ誉めたいのは日本の選手のパスコースを消すフリーランだ。テレビで見る限りだったけど、「俺がイラクの選手だったらそこに出すね」というコースによく日本の選手が走りこんで消していた。やっぱりイナはもちろん名波も明神もボランチができる選手。こういう動きがあると相手の動きをディレイドさせられる。中東勢相手にはかなり有効な動きだった。

 そうして前半終了。この出来では入れ替えて修正するメンバーもいるわけがなく、交代ナシで後半戦へ。もちろん負けたらもう後がないイラクは人数をかなりかけて前がかりになっては来たけれども、前半に引き続いての安定した守備力でやっぱり日本ペースだった。必ず守備も2、3人がかりでやるし、いいプレスが効いていた。破られたシーンもあったけどそれは川口用の見せ場だったということで。
 それにしても点差の後押しもあったのだろうけど足が良く動く。やっぱりカタール戦で主力を休ませた効果もあったのだろう。強いチームにはこういうカップ戦ではそうした”特典”がつくからね。足が動けばオフサイドトラップもかけられる。相手が前がかりになってくればなおさら効果が出る。
 それでいて、まだ攻めつづける。余裕からかイナも攻撃に加わってくるようになった。「そろそろイナのとどめのミドルシュートが見たいなあ」といったメールを友達の携帯に送っていた矢先にミドルが炸裂。しかし明神だった(笑)。でもナイスシュート。明神のゴールは久々だなあ。オリンピックの予選以来じゃないか?
 これで完全に勝利が見えた。まあ3点差も追いつかれたりする事もあるけど、そんな危なげな感じはなかったね。ベンチもモリシを奥に代え、イエローを1枚もらってるイナも望月に代えて明神をボランチに入れた。こういう温存策がとれるのも日本の強さがあってこそ。これも特典だ。
 もう完全にモチベーションの下がったイラクはちょっと嫌な感じのラフプレーさえ見せ始める。高原がかなり削られていたので心配だったけど大きなケガがなくてよかった。西澤がうっかりファールしてしまい、イエローをもらったのは痛かったけど。中国戦ではイナ、西澤、俊輔の3人はイエローには気をつけねばならないね。
 あとちょっと苦言を呈するとすれば、後半入ったメンバーがイマイチまわりと合ってなかったことだ。奥にしろ、望月にしろ、小野にしろ。同じ練習をこなしてるはずだし、ずっとトルシエファミリーに入っていた3人だ。なんだろう。試合勘という問題でもなさそうだし。彼らの出番も絶対にあと2試合のうちではあるはずなので、もうちょっとリズムを合わせられないだろうか?と思った。まあ贅沢と言えば贅沢なんだけど。技術は高いはずの選手たちだけに。
 後もう1つ、最近ずっと言われてることなんだけど、リードで迎えた終了間際のボール回しがイマイチうまくない。もっとゆっくりキープしながら攻めてもいいと思うんだけど。まあこれに関してはリードした試合でしかできないから贅沢ではあるんだけど。「逃げ切り」という課題はクリアしなきゃならないと思うので、中国戦ではよろしく。

 でもともかく90分での3点差の圧勝。内容も支配してたし、目の前で見ていた中国イレブンにもプレッシャーにはなったろう。でも中国とは確かこの前引き分けてるんだよね。今度はガツンと勝ってもらいたい。できれば圧勝で。
 アジアカップ後にはFIFAのランキングで日本がアジアで一番上になっていてもらいたいからね。