差出人: Takagi Shigehira 件名 : 6月2日 〜♪サキソフォンの 響く教会通りの坂下りながら〜 日時 : 1999年6月10日 17:03  ・・・ゴン太君、おはよう。広末さん、ちーっす。ポケベルちゃん、元気?銀象っ ち、調子はどうかね・・・。 改めてベッド周辺を見回すと、実に色々なモノに囲まれている。個性的なお見舞い 品。誰かが僕のためにエネルギーを使ってくれるということは、本当にありがたいこ とだなあ・・と思う。  ありがたいといえば、昨日は中学時代のクラスメートが二人遊びに来てくれた。一 人は千葉に住んでいるので、きちんと会うのは2年振りくらいだろうか。お見舞いは 大体そうなのだが、不意の訪問であって嬉しかった。  この入院で、特に地元の”久しぶりの友人”が何人も訪ねてきてくれて、またその 中には”切れかかっていた”友人もいたりして、何となく、コンティニューさせても らったような気になる。何となく流れてしまった時間を埋めるきっかけとしては、僕 の「重病」という肩書きも、そういった意味では悪くないのかなあ、とちょっとバチ が当たりそうな思いが頭をよぎる。  二人とは食堂”日赤プリンス”でお茶した。レモンスカッシュをおごってもらっ た。この前”水分制限解除記念”に家族と飲んだときは、何か後味がしょっぱく感 じ、ああ僕の味覚はもう俗世間とは違うところにいるのね、と痛感したのだが、今日 のはなかなか美味しくて、ああ俗世間そんなに遠くないじゃーんという感じだった。 レモンスライスがレスカの水面を独占していたが・・・。  レスカとアイスコーヒーとオレンジジュースをそれぞれすすりながら、夏の同級会 の話や、クラスメイトの現況、そして「重遅、退院したら日赤合コン頼むわー」とい う定番の依頼を受けた。(頼む側も頼まれる側もそれほど本気でないのが面白い。) そしてまたお見舞いが来たときの定番としつつある記念写真を撮って、バイバイし た。夏の飲み会は俺は減塩メニューでいくよ、と言って笑った。  また昨日は患者用の共同風呂がタイル工事だとかで使用ができなかった。あと2ヶ 月足らずで新しい病院に引っ越すというのに、別に今更工事なんかしなくてもいい じゃない、というのが正直な感想だったが、ともかく僕は2時代を持て余してしまっ た。毎日の入浴時間を。そんな日に限って暑い。マーフィーの法則ではなく、実際暑 かった。妙に体が汗ばんでいるように感じる。僕は習慣に従って、2時過ぎに濡れタ オルで体を拭いたのだった。  習慣といえば、もうこのエッセイを書くこと、そしてそれをパソコンで文章におこ し直してEメールで送信することがもう完全に毎日の習慣となり、もう一日のほとん どをエッセイ絡みに費やしている。不思議なもので、そうなるとかえって時間が足り ないような気さえしてしまう。何かを作るということは時計の針を早く回すなあ、と 思いながら、ペンを歩かせ、キーボードをたたく毎日。入院時には想像だにしなかっ た、充実した時間。  エッセイを送る前には「早く読ませろ」と言ってきていたある友人が、そういえば まだエッセイの話題には触れてくれないなあ、と頭をよぎったり、よぎらなかったり しながら、とりあえず僕はペンを歩かせる。   <テーマソング>  その時、その時のテーマソングみたいなものはないだろうか?何かついつい口ずさ んでしまう、鼻歌で出てきてしまう歌、僕にはほとんど常にある。例えば今だったら 「フラワー」。風呂で誰もいなかったら、つい「ボクらは愛の花・・・」と鼻歌を響 かせてしまうのだ。まああくまでもその時点でのフェイバリットなので、相川七瀬 だったり、SMAPだったり、イエモンだったり、布袋だったりするが、だいたいがその 近辺で流行っている曲であり、つまりCMや有線やFMで良く流れている曲と言うことに なる。  ヒット曲がなぜ売れるか?という純粋な疑問があるならば、僕は「耳慣れ」と間違 いなく答えよう。耳慣れとは聞き慣れ。曲を頭に刷り込まれること。いまだにそう 言っておきながらこの「耳慣れ」ということには非常に抵抗を感じてしまうのだが、 事実として自分で作った邦楽コレクションのテープを聴き直してみたりすると、その ほとんどが耳慣れで選ばれた曲なのだから、認めざるを得ないのだ。  一流アーティストと呼ばれる人ほど簡単にタイアップを取り、マスコミもリリース 前からガンガン流す。最初は「へえ、これがアイツの新曲かあ」程度に聞いていて も、リリースされる頃にはすっかり鼻歌化しているのだ。 時には、第一印象は「何かイマイチだよね」と感じて友達と話したりしていたのに、 繰り返し耳にし続けるうちに、いつしか自分の作ったテープの中にその曲がちゃっか りと収まっている、なんて事もあった。耳慣れ、恐るべし。  僕のいた(また戻る予定だが・・)長野トヨペットも、ショールームは常に有線の 邦楽ランキング番組が流れていた。店頭当番(営業スタッフが休みの日のいわゆる、 店番)で一日ショールームに座っていると、もう1時間おきに同じ曲順でヒット チャートが繰り返されるため、耳慣れのオンパレードとなるのである。 特に最近はアーティスト乱売傾向もあって、「誰の、なんていう曲だかは知らないけ ど、《まーいあがーれ愛ーしさよー》って曲」という覚え方をしてて、たまたま見た 「CDTV」なんかの中で、「ああ、こいつらがラクリマクリスティーなんだ」と、訳の 分からない感慨にふけったりする。  また、少し話はそれるが、一度勘違いして覚えてしまうと、頭に間違って刷り込ま れたままになったりしてしまい、例えば聞き違いであれば、「アジアの純真」のサビ 「火花のようにー」を「ヒマな土曜日ー」としばらくの間思い込んでいた。(作詞が 井上陽水でなければ、それも歌い出しが「北京ベルリン」でなければ、もうちょっと 疑ってみたかもしれない。)また「散歩道」が出たときは、これを歌っているのは絶 対にNOKKOだとなぜかずっと思い込んでいた。別に大したことじゃないが。  話は戻る。もちろん、プロデューサーや制作サイドは別として、「耳慣れさせよ う」なんて思いながら曲を作ったり、演奏したりするアーティストはいないだろう。 音を楽しむという音楽の理想に向けて、プロとして自分を鍛えたり磨いたりしなが ら、曲を紡いだり、声や音を我々に向けてくれているのだと思う。”匠”を感じるも のもあるし、メッセージを感じ取れることもある。楽しんでいるのがスピーカーのこ ちら側まで伝わってくるCDもある。逆に全てが全く同じ風に聞こえてしまうアーティ ストもいる。スタイル、といってしまえばそれまでだけれど、ついついそれでいいの か、と思ってしまう。それでも売れているし。  僕に関して言えば、曲の中に主張の見えるアーティストを好んで長く愛する傾向が ある。また風景や心の情景を切り取って詩にする技に優れたアーティストも好む。前 者の最たるものは爆風で、後者の最たるものは、マキハラ。  また少々話がそれたが、最近のヒットチャートは大部分が耳慣れで作られているの は間違いないと思う。もちろん話題性、みたいなものでどれだけ注目を集め、耳にし てもらうかという要素はあるだろうが、そうでなければ「だんご」ブームはなかった ろうし、サムシングエルスはとっくにヒットを飛ばしていただろう。企画ユニットが 上位に入ってくるのも(彼ら・彼女らの努力もあると思うが)、TV側の見せ方、戦略 勝ちだと思う。 言ってしまうならば、リリースされる全ての曲を聞いている時間もないし、アーティ ストがいすぎる。一日に何百曲が発売されているのかは知らないが、音符の数だって 無限といえど限られているのだ。耳慣れに振り回されてしまうのも、ある程度仕方な し、といったところか。結局、いい気分で聞ければ、それでいいのだ。あとは自分な りの何かしらのこだわりを持てば。耳慣れに振り回されるばかりじゃ、悔しいじゃ ん。 といってこのままラルクやルナシーまで耳慣れだと断言しちゃうと、追っかけに斬ら れそうだが・・・。  テーマソングに話を戻そう。このままではテーマが「耳慣れ」に変わってしまう。  ところで、今では口ずさむ、レベルのテーマソングだが、高校時代なんかは何か (自分なりの)大きな行動を起こしたり、また何かがあった時に、テーマソングを当 てはめたりしていた。高2の時好きになって、そして木っ端みじんに門前払いを食 らったコジマエリコ(仮名)追っかけストーリーなんて、テーマソングだらけだっ た。 これも当時は相当ショックな失恋だったので、自分なりに落ち込んだり、友達にから かい半分で慰められたりしたのだが、今思えばこの話だけでも面白いので、これはま た別の機会に触れるかもしれない。ほとんど話したこともないクラスメイトに門前食 らった話として・・・。  好きになったきっかけは、迷い込んだシャトル、とでも言っておこうか。その時彼 女が不意に見せた笑顔が可愛くて、思わず僕の頭の中にはチューブの「振り向いた笑 顔が魅力的だった」という一節が流れた。その後、それが幾つかのテーマソングに変 わったあと、いよいよ告白しようという気になった。人生初めての告白であり、僕と しては超大冒険であった。 その時のテーマソングは「決戦は金曜日」。よって告白は金曜日に決まり、その朝の 満員電車の中、僕はウォークマンで「決戦は金曜日」を聞きながら、高校に向かった のだった・・。・・だが次の日から、マキハラの「ズル休み」で自分を慰めることに なる・・・。  その後ももちろん常に色々なことを経験しながらテーマソングも移り変わりつつ来 たが、時として現実が歌そのものの状況にハマってしまったりしてしまうからスゴい と思う。「彼女の恋人」とか・・・。 彼女ができたりすれば「君は僕の宝物」とか甘ったるいSONGを流してみたりするけれ ど、特に大学以降では、主にテンションを上げる用に使われていたことが多い気がす る。忙しいバイトの途中で、ビールケースやら手こぎボートやらを持ち上げる瞬間 や、ふと取り残された(ように感じた)り、夜一人で自転車こいでたりと、そんな時 どきに自らに気合いを入れつつ口ずさんでいたりした。  今でもふとその頃のテーマソングを耳にするとその風景が浮かんできたりする。 「イージューライダー」「愛の才能」は松山のフェリー乗り場へフィードバックさせ てくれるし、「夜空ノムコウ」は卒業前の色々な思い出を運ぶ。  いずれ「フラワー」を聞いたら、入院を思い出すんだろうな、きっと。 ***************************           「朗読ブーム」本当?       S311号室より         たかぎ しげひら ***************************