差出人: Takagi Shigehira 件名 : 5月23日 〜♪僕の大好きな 君が決めたことだから 多分サヨナラも好きになれるかもしれない〜 日時 : 1999年6月4日 18:11  ・・・あらあら。昨日思わずセットされた”体内目覚まし”が、午前5時から6時 にセットし直すのを忘れて寝てしまったようだ。なんか今日も何となく5時に目が開 いてしまった。 外はもう、充分明るい。誰かが電気剃刀で髭を剃っている。  昨日みたいに何かイベントがあればいいが、今日みたいに特に取り立てて何もない 日は、体内目覚ましは6時で充分だ。今朝もそのつもりだったし、昨日の夜は、 「久々に結構運動したから、今日はゆっくり休まなきゃダメだよ」と看護婦さんに忠 告され、それもそうだとアド街ック天国が終わると布団をかぶって目をしばらく閉じ ていたが、久々の外界と茶色くなった髪の興奮を引きずっているのか、それとも例に よって暑苦しい夜のせいなのか、どうしても眠れず、G・Bで時間をつぶし(スクウェ アの名作「サガ」で徹底的にレベル上げをする)、深夜12時近くになって、やっと 睡眠の世界に引き込まれる段取りとなった。  そしたらその短期集中型睡眠の中にエンクミが出てきた。二人で買い物をしている 夢を見た。芸能人が夢に出てきたのは久しぶりのような気がするが、個人的にエンク ミは好きなので、嬉しかった。 いつも登場するのは、友人、知人が圧倒的に多いのだ。  それにしてもこの夢は僕の未練が呼び水になったのは間違いなさそうだ。未練と いっても残念ながら(?)エンクミじゃない。そう、買い物だ。昨日の外出で帰りが けにコンビニに寄るつもりだったのを、すっかり忘れて戻ってきてしまった事への、 未練。  コンビニで何をしたかったかといえば、500ミリリットルのお茶類のペットボト ルを幾つかあさってきたかっただけなのだが、それをド忘れしたのが、病室に戻って みると、悔しかった。  どうして500ミリのお茶かというと、病院の売店にある種類が限られているか ら。(金の烏龍茶→ジャスミン茶(伊藤園)→香り薫る麦茶→おーいお茶、という ローテーション。燕龍茶はローテ入りできず)。これももう習慣として確立している ので、いいはいいんだけれど、まあ色々と出ているのだから、(最近のローテ外の一 番のおすすめは「優」)ちょっと自分であさってみたかったのだ。  それが、図らずも予想外のパートナーを伴って、叶った。それはそれで良しとしよ う。 体内目覚ましのせいで、5時にエンクミとは突然バイバイだったけれど・・・。  それにしても、文章書きだして、この前半部は日記風の、いわば「課題曲」そして 後半は何かその時思ったテーマに沿っての「自由曲」という位置づけとしていたのだ が、なんかごっちゃになったりしている。 どっちがエッセイで、どっちが日記だか分からないときもある。でも吐き出し続けて るのは事実。よしとしましょう。   <今日こそは、オヤジ記>  書こう書こうと思っていた隣の(ベッドに入院中の)オヤジのネタ。焦らしている うちにどんどんと貯まってきた。もちろん僕とこのオヤジは(普通に)仲良し。この Sさん、ホントに典型的なオヤジ。もう端々までオヤジでツッコミ所多し。余りにも 味わい深いので、勝手にネタにさせてもらう。ネタがないので寝た。などとは言って いられない。  Sさんは肝臓が悪いようで、血糖値が上がって体調を壊したとかで、先週入院して きた。それはまあ、割と良くある。とりあえず、インシュリンを打って、血糖が落ち 着いたら退院という段取りになるので、血糖がらみであまり長期(入院)の人はいな い。Sさんも最初は2,3日で帰るつもりだったようだ。しかし、そうは問屋が卸さ ない。しかもこの問屋にはSさんも一枚かんでいる!  Sさんの入院初日から、僕も結構話しかけて、夜もある程度TVを見ることができる 権利を勝ち取った。まあ、お互いに11時くらいには遅くとも消してはいるが・・ ・。  それでも昼間なんかはずっと隣にいて、それとなく飛び込んでくる一言一言(主に 誰へということもない独り言)を聞いているうちに、その典型的な「JAPANESEオヤ ジ」っぷりに、すっかり惚れてしまった。(といったら過言だけど。)  一般に、血糖の高い人には食事制限がなされるのが常である。しかしSさんは入院 初日からかっぱえびせんをボリボリ食っていた。そして当然のように晩の血糖値は上 がり、看護婦さんに怒られ、「もう間食はしない」と誓っていた。  しかし、それから夜、僕はカーテン越しに何度もボリボリ音を耳にする。そして当 然翌朝のSさんの血糖値は高く、またその度に彼は間食についてはトボけるのだが、 彼の引き出しの中に漬け物の入ったタッパーが常備されているのは既にチェック済み だ。そして看護婦さんが引き上げていくと、彼は必ず「いやー参ったなあ。このまま 血糖が下がらなきゃ、退院できないじゃねえか!」とつぶやくのだ。  またSさんは食事制限だけでなく、風呂も禁じられていた。しかし彼は「お風呂は もうちょっと我慢して下さいねー」という看護婦さんの言葉を聞くと、ひょいっと家 に帰り、(一応許可を取って。彼は家が近いため、なんとMY自転車を病院に置いてい るらしい。)戻ってくると、「あー、体流してきたわ」。。むろん血糖値は上昇。  それにしてもSさん。典型的な”壮年に片足突っ込んでいる中年オヤジ”であるの だ。 何につけても一言文句をつけないと気が済まない。もちろん本気で怒っているわけで も、神経質にネチネチ言うわけでもない。通り過ぎていく目の前のものに、一応否定 的な見解で、とりあえず一言、という感じで発しているのだろう。でも聞いている側 としては、かなり面白い。  Sさんは午前中、一時間ほど点滴を受けるのだが、当然そこにも難癖。点滴が落ち るペースが遅いと「こんなに長くじっとしていられない。もう昼食になるじゃない か」。  逆にペースを早くしてもらっても「こんなに早いと体が調子悪くなっちまう」と言 い、時には自分で点滴のペースを変えてしまう。(結構ダイヤル1つの操作で簡単に 変えられるのだ。)そして点滴終了後にも、今日の看護婦は手際が悪かっただの、呼 んでも来てくれなかっただのと、また難癖。  そして昼食が済むと、彼は(許しの下で)MYチャリで夕方まで一時帰宅するのであ る。「いつも帰る不真面目な患者でいけねえなあ」という自嘲気味の一言を、いつも 残して・・・。そして4時か5時には、また新しいタッパーを持って戻ってくるので ある。  でも彼の家族は大変だろうな、と思ってしまう。例外に漏れず巨人ファンであるS さん、巨人が勝ってても、負けてても、何かしら文句を一言。間違いなく家でもこの 調子であろう。いや、もしかしたらもっとすごいかも。  入院したての頃は、奥さんや娘さんもきていたが、あまり長居をせずに帰ってしま う。  やっぱり、あの調子がずっと何年も、それがしかも自分に向けられるとしたら、た まらない。まあ、これも推測の域を出ないが・・。Sさんはオヤジ臭大爆発なだけ で、悪い人では決してないのだ。  それにしても、今朝は今朝でSさん全開。5時過ぎに仕切りのカーテン開けたら、 部屋の真ん中で体操をしてらっしゃった。目が合うと、「今日も眠れなかった わ。」。ちなみにSさん、いつも夕方や夜にTV見ながら居眠りをしてて、ハッと目が 覚め、「いけね、寝ちゃったよ。これじゃ夜寝れねえじゃん。」とのたまう。  今朝はそれに加えて、本来食後に飲まねばならぬ薬を食事の前に「うっかり」飲ん でしまい、血糖がすごいことになって、先生に「本当に間食はしていないでしょうね ?」と聞かれていた。ケロリととぼけていたが。本当に飽きない。  でも、でもこんな人達に、僕はやはり疑問を抱いてしまう。文句言うのはいい。そ れは自由だよ。でもさあ、あなた本当に治したいの?と思ってしまうのだ。彼らのよ うな人(従順な患者、とはちょっと言いかねる患者)と話すと、十人が十人「早く出 たい」と言う。(Sさんほど強烈な人はあまりいないが)  早く出たい、と言うわりには、主治医の先生による制限を全然守らず、当然治りは 遅くなる。どうせなら、数日なんだから、きちんと言われた事守って、早く退院すれ ばいいのに、とどうしても思ってしまう。それは僕の人生が足りないのだろうか、彼 らが僕の何倍もかけて作り上げてきた習慣がそうさせるのか、そのどちらかなのかさ え、わからない。  結構彼らは入院生活を楽しみたかったりして。そういえばSさんはいつも看護婦さ んに何かシャレた一言をかけようとしている。(例えば「今日は脈が速いですね」と 言われると、「あなたが若くてキレイだから」と返すような)、でも幸か不幸か、S さんのセリフの途中でもう看護婦さんはいなくなる。「あれ、もういないや」と、そ れでもSさんはケロリとしているのだ。  Sさん、万歳。 ***************************           レスカ頼んだらレモネード味が出てきた      S311号室より         たかぎ しげひら ***************************