差出人: Takagi Shigehira 件名 : 5月20日 〜♪夢にまで見た 夢の続きがホラ〜 日時 : 1999年6月3日 16:32  あー昨日は良く寝たー。と6時にスパッと目が覚めた。どうやら僕の体内の目覚ま しはもうすっかり6時にセットされてしまったようだ。  昨日は良いことが色々と重なって、とても水瓶座が占いCOUNT DOWNで11位だった とは思えない一日であった。最低でも上位6つのうちには入っていてもよかった。  午前中には「いのちゃん」(仮称)が来訪。「いのちゃん」は中学以来の友人だ。 駆け出しの郵便局員の彼は、中学の時から本当に何も変わらない。純粋・不器用・惚 れっぽい・融通利かない・プラトニック・照れ屋・・。簡単に言えばそんな人で、中 学の時のクラスメートにいまだに淡ーい恋心(肉体的欲望、もちろん含まず)を抱い ている。名古屋で4年間一人で暮らしても、外も中も変わらないのがスゴイ。彼はこ の病室に時々ぶらっと現れる。そして必ず中学時代の話をする。「いのちゃん」は本 当に中学時代のことをよく覚えている。よほど楽しかったのか、と思うくらい。  僕は「いのちゃん」とつるんでいたので、色々弱みを握られている。(たとえば、 修学旅行の夜の男とのキス未遂とか、可愛いことが多いが・・・。)そしてもちろん 握ってもいる。 今日もお互いに弱みを突き合った。幼すぎたそれぞれの中学時代に照れながら。  確かに中学時代には嫌な思い出も多いけれど、そこもためらうことなく突いてくる 「いのちゃん」のおかげで、少しずつ開き直れる。そこは感謝しないといけない。こ の来訪が一点。  そして昨日からホルモン剤が減った。これがトップニュース級の扱い。これまで一 日10錠(50g)という、医者によれば、相当な量を約一ヶ月にわたって飲み続け ていたのだが、それが今日から一日9錠のペースになった。諸々の事情があるよう で、10錠飲む日と8錠飲む日を繰り返すようなので、平均すると、一日9錠ペー ス。最終的にはこれをゼロにするのが目標なので、一歩前進といえると思う。しかも これから2週間で1錠減らす予定だったのだが、もう少し減らすペースを早めること も検討していると主治医の先生に言われるおまけ付き。 もしかしたら、退院が早くなるかもしれない。嬉しいね。これも一点、一点。  そして、念願のノートパソコンを入手した。母の勤めるカメラ屋さんのご主人が見 つけて、貸して下さったのだ。しかもお見舞いついでにEメールの送り方の手ほどき までして下さった。感謝のしようがない。  今まで受信オンリーであったメールが、送信も可となった。外来の所の灰色公衆電 話まで行けば・・・。昨日はとりあえず今までメールを送ってくれた皆様にそれぞれ お礼状を作って送った。  その後、ナイターの「巨人-ヤクルト」を見た。実はこのカードが一番困るのだ。 立場的に。  僕は昔からのヤクルトファンで、アンチ巨人なのだが、この6人部屋は誰がどう入 れ替わっても、僕以外の5人は常に巨人ファンなのである。陰謀?とも思ったりする くらいだ。 巨人が他の球団とやっているときは適当な評論家に徹していればいいのだが、ヤクル ト対巨人だと、勝手が違う。ま、ポーカーフェイスで評論家に徹するが・・・。  それを知ってか、最近のヤクルトは後半に頑張ることが多い。消灯後にドラマを見 せてくれる。その時の一人きりのガッツポーズは、また格別の味なのである。   <病室の基準>  本当は今日は別のテーマについて書こうと思ったが、午前中にあったことについて 少し書かせてもらいたいと思う。オバアチャンに逆ナンパされた話は明日にしておき ましょう。  僕の病室は6人部屋。男性6人を収容する。他の部屋は男女混合であるところもあ るようだが、この311号室に関しては、入院してから一度として女性が入院してき たことはないので、男性部屋ということであろう。そしてもちろん入院期間も人に よってまちまちなので、よく顔ぶれは変わるけれど・・・。中には一晩で退院する人 さえいる。まあ普通の入院であれば、大体二週間といったところだろうか。(こんな 事を言えるくらい長くいるのはあまり誇れることではない・・。)僕が入ってからも う、この部屋に入院したり、退院していった方は延べ20人は超えているだろう。  311号室のドアを開けると(最近は暑いので開いていることが多いが・・・)、 中央に通路(・・・というか、空間)があり、左右対称に3つずつベッドが並んでい る。皆壁に頭を向け、足を向かい合わせて寝る格好になる。ちなみに僕のベッドは 入ってすぐ左、廊下側ということになる。  さて、今、僕の対称側、つまり入ってすぐ右、同じく廊下側のベッドにはアオキさ んという70過ぎのおじいちゃんが入院している。今日で確かちょうど一週間になる はずである。先週の金曜に入ってきた記憶があるから。  高齢であるが、丈夫そうだ。少々足取りが危なっかしいが、自分でトイレにも行 く。食事も自分でトレイを下げる。(患者は食事後、廊下の配膳ワゴンにトレイを返 しに行かなければならない、でもそれがキツい人は看護婦さんがやってくれる。)夜 は夜で巨人軍の不甲斐なさを嘆いている。 しかしアオキさんの病状は「心臓に水がたまる」というものであるそうで、そのため にいつもすぐに息があがってしまうのだという。厄介そうな病気であるし、なかなか 大変であると思う。  たまたまアオキさんが下諏訪の方で、いつも来られる奥さんとも「僕も下諏訪なん です」なんて話をすると、娘さんの嫁ぎ先がオヤジの知り合いだったり、お孫さんが あかりと同じスケート部に入っていたりと共通の話題が多く、結構仲良くなった。こ の奥さんが(71才だそうだが)絵に描いたような田舎のオバチャンという感じでよ く喋り、よく笑う。声も大きい。でも気持ちのいい人で、感じがいい。 この奥さんともアオキさんの病状の話になったりもするのだが、どうも心臓の壁の中 に水がたまって、心房だか心室が狭くなり、血液を押し出す圧が下がって、すぐ息が あがってしまう、とのことだ。 このたまった水を抜かなきゃいけないねえ、という話は医者も看護婦も共通してい た。話が耳に入ってきた限りでは、薬で何とかできればいいが、そうでなければ直接 水を抜かなきゃねー、という感じで薬で抜ければいいね、とアオキさん本人とも話し た。  しかし2,3日前の看護婦さんからアオキさんへのセリフ。 「直接抜かなきゃダメみたいだねー。でもアオキさん。ここででもできるみたいだか ら。」  それを聞いて驚いた。「ここでできる」???えーーっ。と思った。  考えてみて欲しい。心臓って我々の体を動かしている源でしょう。現に常に血液を 体内に送り続けているわけだし、心臓の壁だって常にバクバク動いているハズでしょ う。その動いている壁の中にたまってしまった水を、針だか管だかを刺して、抜くん でしょう?普通の一般常識で考えたら、思わず大手術に分類してもおかしくないよう な位置づけになりそうなのに、「ここでできる」???  僕の、動かない(であろう)腎臓からボールペンの先程度の細胞を2個取る検査で さえ、ベッドごとガラガラと移動して、遙か遠くの検査室まで行ったのに・・・。  どう考えても、何度考えても、僕の頭の中では、アオキさんの心臓から水を抜くと いう治療がこの6人部屋でできるとは思えなかった。  結局、それは今日行われた。本当にここで、我々ルームメイト(?)が追い出され ることもなく、大きな機械が2つと先生1人と看護婦さん3人の手によって、僕から 2メートルの距離で行われ、30分ほどで終わった。アオキさんは大変だったが、う まくいったようである。良かった良かった。  朝から来るようにと呼ばれていたアオキさんの奥さんはその30分ちょっとの間、 僕が話し相手になっていた。さすがにカーテンで囲まれて治療を受けるご主人が気に なるらしく、何度かのぞき込もうとしていたが、聞こえてくる先生と看護婦さん達の 会話から、順調に進んでいるのを悟ったようで、僕に色々な話を聞かせてくれた。病 院がらみの話が多かったが、出るわ出るわ。とめどなく出てきそうであり、色々聞け て楽しかった。  奥さんも1人でいたらもっとご主人が気になって気が気じゃなかったと思うので、 お互いにとって充実した時間であっただろう。  アオキさんの治療が終わると、またもとの6人部屋に戻った。そうなって改めて考 えてみたが、やっぱり信じられないことが多い。あのカーテンの向こうで、今し方ア オキさんの心臓から水が抜かれたのだ。麻酔もしたはずだし、針か管も入ったはず だ。それも動き続ける心臓に。超音波(通称「エコー」)の装置が来ていたので、場 所は調べながらやっていたようだけど・・・。出血はなかったということはないだろ うし、それにしても一体どうやったのだろう?そんなに簡単なものだったのか?  多分事実として、医学の中ではこの治療はそれほど難しくないものであるのだろう し、だからこそ病室でできたのだろう。それは事実であろうが、なかなか頭は納得し てくれない。 何分、自分の1ミリにも満たないような腎細胞2つを取るのに、結構大ゲサな検査を やったのだ。 でもそれよりも大変そうなことが、この病室で、しかもものの30分で、行われてし まった。  今日学んだことは、「病院の基準ってボクラの常識では計り知れない」(ことがあ る)というふうにでもまとめられようか。  とにかく、アオキさん、早くよくなればいいね。 ***************************           東京ドームって実は小さいんじゃない?      S311号室より         たかぎ しげひら ***************************