差出人: Takagi Shigehira 件名 : 5月18日 〜♪俺達いつも 走り続けた 青い影を抱き〜 日時 : 1999年6月2日 17:40  今日はまた天気がいい。でもめざましテレビの吉田恵ちゃんが傘を持っていたの で、今日のうちには崩れてくるのかもしれない。 今日もまた6時代に、しかも採血があったため、シャッキリと目が覚めた。「今日も 晴れか」と思う。少しだけ開いた窓から吹き込んでくる風を感じながら、そういえば 日も長くなってるなあと思った。それもそうだ。夏至までもう一ヶ月(位)なのだ。  目覚めたとき、太陽光で部屋が明るいのは何とも気持ちがいい。朝日の中ならば光 合成もできそうな気もしてしまう。清々しい朝は大歓迎だけれど、それとセットでた だでさえ暑い夜がグレードアップするのかと思ったら、ちょっとだけ憂鬱にもなっ た。  昨日は夜主治医の先生と話をしている中で、自分の勘違いに気付いた。それは水分 制限についてである。 僕は今、塩分(一日7g)、水分(同800cc)、蛋白(同60g)、と制限が多い。 これでも大分緩められたのだけれど、水分の一日800ccに関して、僕は毎日昼食に 出る200ccの牛乳も入れて考えていた。なので飲むのは丸一日で500ccのペット ボトル一本。と定めてきた。  でも昨日の先生のお話だと、食事で出されるものは別計算で考えてもいい、とのこ と。思いがけず、ペットボトルに加えて、缶一本分の権利もGETしてしまった。最近 は薬の副作用もあってか、のどが渇きっぽかったのでラッキーとか思っていたが、そ こでまたふと思った。  これまで(結果的に)制限量以下で毎日やってきたので、かえってそれで順調なの かもしれない。別にガマンできないこともない(今のところ)。もしも毎日制限いっ ぱい飲んでいたら顔もまたむくんでいるかもしれない。水分取らな過ぎて脱水症にな るのはマズいが、自分の最低限でいくのが、結局は早い退院につながるのではない か。だからこのままのペースでいいかな。と考えつつ寝たが、なんと今朝の回診で水 分制限が解除となった。これもまた急展開。でも先生によればこれだけの期間、制限 が付いていたのだから急にガバガバは飲めないよ、とのことだった。それには僕の体 内も賛意を示す。そして昨日の夜考えたこともあり、やはりペット一本ペースで行こ うじゃないか、と誓ったのである。それでもやっと一つ制限が解けたのは嬉しい。い つでも水分に関しては余裕が持てる。急激にノドが乾いても、OK。その時点のペット の残量を気にしてガマンするということは考えずに済みそうだ。しかし、得てして無 制限はエスカレートを招くもの。調子に乗りやすい僕の一番の留意点であるので、基 本的にはペット一本。これはやはり厳しくいきたい。でも余裕があるから、やっぱり シアワセ。   <タバコとメダカとレディーボーデンD>  さあ、このテーマでもう5回目になってしまったよ(苦笑)。でも今回で最終の予 定。なぜならさくらももこのエッセイを読んでから五日も経ってしまい、その時の 「レディーボーデン」のエピソードに触れたときの新鮮な感じが少々遠くなってし まったからだ。メダカ(の回)のようにダークなパワーが涌いてくれば、いくらでも 書けそうな気がするが、今回はどちらかといえばピュアに綴りたいと思う。しかし、 五日前に予定していた文章とは内容が違ってしまいそうだ。  そんなわけで、レディーボーデン。これは僕の中では「お中元もしくはお歳暮でい ただく高級アイスクリーム」という定義づけがなされている。しかも必ず引換券(← これも高級チック)でもらうため、母親について近くのスーパーに行き、あの高級ア イスをGETするというプロセスが存在していた。しかし、どうしてここまで高級に感 じるのだろう?しかし、改めて考えてみると、その要素は多々存在している。 まずその名。ずしーんと重々として響く。高い山のようであり、それでいてスケール の広さも感じる。更にそこに「レディー」だ。気品もあり、優雅さまで加わる。誰が 命名したのか知らないが、小学生の僕でさえその名前にはスゴいと思わされた。「バ ンホーテン」も似ているには似ているけれど、残念ながら僕の中では、名実ともに格 が違う。  そしてその大きさ。僕の知っていた一般のアイスとは大きさが違った。小学生のシ ゲヒラにとって、アイスというものはカップにしろ、棒付きにしろ、一人用のもので あった。しかしレディーボーデン様はなんとお一方で我々7人家族をひとまとめにお 相手してくださるのである。また我が家にはアイスの取り分け用の大きな専用スプー ンがあったが、このスプーンもレディーボーデン専用であったように記憶している。 専用スプーンまで台所に配備されているなんて、やはり王者は違う。  更に何よりも「滅多には食べられない」というプレミアム感も重要であった。今考 えると、お中元とお歳暮のシーズンにはそれでも一度ずつくらいは王様と(←もちろ んL・B様)巡り逢っていたので、誰か親戚の定番ギフトだったのかもしれない。それ でも年間2度の計算になる。その時期にしか食べられない、レア物。学校から帰って きて、氷をつまみ食いしようと思って冷凍庫を開けて、そこにレディーボーデン様が 鎮座していらっしゃるようなことがあれば、その日のおやつのために氷を我慢したり したものである。ただし得てしてそんな時には焦らされて、その日は他のおやつで、 レディーボーデンがテーブル上にお出ましになるのは皆が揃う週末まで持ち越された りするのだ。  なんか書いてるうちにレディーボーデンへの思いが止められなくなってきた。そう いえば最近食べてない。しかし自分で買おうとは思わない。「いただきもの」で「ギ フト期」に食べるという定義が完成されているせいなのか、決して自分のカネで買い たいとは思わない。仮にもし自腹を切って、定義を崩してしまったら、別にどうでも 良い存在になってしまうかもしれない。  子供心に刷り込まれた、プレミアム要素の数々。昼下がりに家族全員で味わった、 あの超うまいバニラ味。色あせるはずはない。良い思い出はいつもきれいなのだ。む しろ色鮮やかになっていく。  高校→大学→社会人と進んでいく中で、他の高級アイス類とも出会った。大学の近 くのカラオケBOXに自販のあった「彩」の抹茶味は条件反射的にいつも買っていた し、CMのせいもあって官能的イメージの強い「ハーゲンダッツ」は差し入れの定番で あった。これらも充分うまい。でもぼくのアイスランキングで王者レディーボーデン の王位が揺らぐことはない。  思い出が違う、思い入れが違う、いまだに王者は30馬身ほど引き離して、トップ を独走している。単勝オッズ1.1倍といったところだ。これからも僕の思い入れと ともに、レディーボーデンはトップを走り続けていくだろう。  ・・ふと魔が差して、自分で購入することがない限りは・・・。 ***************************         『「バンホーテン」て、平仮名で書くとなんかマヌケ』      S311号室より         たかぎ しげひら ***************************      おまけ    <<PLACE>>    行きたい場所がある  どうしてもそこに行きたくて  自分にきっかけを与えたりする  近づけるときもある   遠くなるときもある  おぼろげに見える そこには  一体何があるのだろう  そこに行きたいと  心の隅で ずうっと思って  そしたらいつしか  思いがけず そこに居たりする  どうしても行けなくて  結果として着いたところが  実は自分にとって必要な場所だったりする  もしかしたら 本当に行くべき場所は  もっとおぼろげな遠くなのかもしれない  そこで振り返ってみよう   自分が記してきた 人生という線を  あなたの足元に積み重なる   輝き、くすんだ 過去という足場を  誰も その上にしか立てないのだ  その上で場所を探すしかないのだ  過去は確実にあり   未来はおぼろげにある     PLACE