差出人: Takagi Shigehira 件名 : 5月15日 さて、週末だ。 日時 : 1999年5月31日 19:57  さて、週末だ。予期せぬ訪問者にあらぬ期待などをしてしまう、土曜日。 まあ、現に土曜は特に入れ替わりの日のようで、入退院が多い。これは家族や病院の 都合もあるのだろうが、結構土曜日に関しては、あわただしいという印象がある。今 日もまた例外ではなく、この6人部屋から二人が退院していく。一人は先輩(?)。 2月から入院していたおじさんだ。もう部屋の主のような存在で、いつもふがいない 巨人を嘆いている愉快な人であった。退院はおめでたいが、一ヶ月半にわたって寝食 を共に(?)したので、淋しくもある。 そして隣のベッドのおじさんも今日退院。割と神経質な方で、不眠に悩む人であった ので、夜は僕も最大限気を遣ったつもりだ。10時か10時半(ナイターの延長が あった日)には照明を落としてG・Bをしていたので、ここ2週間ほど11時以降のテ レビには縁のない生活をしていた。 このおじさんに昨日の朝、不意に言われた「高木君は本当に静かに寝るなあ」の一 言。これが果たして嫌味なのか、もしかして万一、本当なのかは分からない。その取 るに足らない疑惑を抱いたまま、僕と彼との関係は終わるのである。  さらにこの部屋の一番の長老(といっても多分30代の人だけど・・・)も昨日か ら外泊。斜め向かいのおじさんも今日は外泊。今日、入院がもし誰もいなければ、今 夜は向かいのおじいさんと二人きりの夜になる。久々に夜更かしが満喫できそうな気 配で、ワクワクしている。今夜はチャーンス。(いろんな意味で)  明日は彼女が来てくれる予定だったが、風邪が治らず、今回は見送ることになっ た。淋しいけれど、万一風邪をもらって肺炎にでもなって、入院が長引いたりした ら、それはもっと辛い。長い目で見たら間違いない選択であるので、次の機会を心待 ちにすることにしよう。  ところで、これまでのエッセイの「引き金」であったさくらももこのエッセイはも う読み切ってしまった。今日は一応昨日所長が持ってきた、新型トヨエースとDVDナ ビの小冊子を読んでみたが・・・。   <タバコとメダカとレデ゛ィーボーデンB>  今日はメダカについて、である。といっても最近急に絶滅などと騒がれ、悲劇の ヒーローに成り上がったメダカ君ではない。僕は別に生き物に対してそれほどのこだ わりも興味もないので、おさかなのメダカには特別な思い入れも取り立てての思い出 も、残念ながら、ない。メダカはメダカでも吉本新喜劇のチマチマした奴「池乃めだ か」。しかも本人ではなく、それに似ているウチの営業所の所長の話から始めようと 思うのだ。つまり人間話。  僕も突然入院と言うことになって、下っ端なりに営業所の皆さんには迷惑をかけ た。もともと人数の多くないウチの営業所で、休日出勤はローテーションであるた め、一人抜けてもかなりの負担となる。 そしてなお、所長には僕の担当客約400人をお願いしてきたし(まあ、もともと担 当していたのは所長だが・・・)有給・代休・病欠を最大限有効に使わせてもらっ た。また会社の上の方にも色々と話してもらったようで、今の状況では全く頭が上が らない。本当に感謝はしている。  しかしながら、といっては何だが、僕は彼が嫌いだ。上司として、嫌われやすい立 場なのも分かる。しかしそれを差し引いても、もうちょっと何とかなる気がする。も し彼が上司ではなくて先輩であったとしたら許せるレベルであるのかもしれない。  所長は、所長になって一年半ちょっとである。所長職としてみればまだ新人の部類 であろう。ただ彼は間違いなくこの仕事に適しているのは確かだ。サービス(技術 者)として入社。工場のフロントや工場長も務め、その後営業に転向し、14年間で 千台以上販売した実績を引っさげて、所長となった。クルマに精通し、心憎い営業の ツボを心得た彼を慕うお客さんは多い。しかし残念ながら彼を慕う同僚はゼロなの だ。僕も入社して半年もせずにゼロの仲間入りをした。 その伏線は初対面の時の一言。「所長のIです。僕が、きちんと売れるように” してあげる”から。」というものであった。つまり俺の言うとおりにしていれば間違 いないから大人しく従え、というわけである。 勿論その時は入社前の挨拶時で僕も緊張していたので、そこまでの深読みはしなかっ たが、今改めて考えてみると、それ以上の意味でもないし、それ以下の意味でもな い。彼の本質はただ全てを自分中心で回し、思い通りに自分で動かしたいだけなの だ。(勿論お客様は例外。)  入社して、先輩たちからいかに所長が(所長になる以前の)営業時代に好き勝手に やっていたか、を聞いた。勿論彼の成績は良かったそうだが。しかし、所長の立場に なった彼は自分のしなかったことを強制し、やらないと怒る。「何でできないんだ」 と怒鳴る。いくら立場上とはいえ、説得力はないし、彼の営業時代を知る先輩たちに 文句を言われやすいのもなおさらのことに思える。知らない僕でさえそうなのだか ら。  確かに、的を射たアドバイスもいくつももらった。手伝ってもらった商談も多々あ る。彼は車を買わせることに関しては達人であり、本当にプロであると思う。しか し、彼はその商談を、全て彼自身の力で「決めてやった」ような言い方をするし、自 分のやり方で決まって満足なのだと思う。しかし、その時僕は彼の中では腹話術の人 形でしかない。彼の膝で、彼の言葉を僕の声帯を使って話しているだけ。僕なりにし ている努力は彼の視界には入らない。  しかし、もっとも僕が許せないのは、「管理」へのこだわりが尋常でないこと。こ れは決して言いすぎでなく。 研修期間、僕は管理通りに動いていた。これを使ってこれをしなさい。この本のここ からここまでまとめなさい。今日はこの地図の、僕の書いたこの順番で訪問しなさ い。と、全て所長の言いなりであった。当時は過保護なのかと思ったが、ちょっと違 う。やはり彼はただ管理したかったのだと思う。  その程度のことならまだ良い。研修も終わり、普通の営業になると、商談時に彼の 指示を仰ぐ機会が増えた。彼は具体的に色々指示を出す。そういうとき、指示通りに できないと前述のようにブリブリ怒り出す。彼の指示の中にも、経験による感心させ られるものもあれば、会社から押しつけられた理屈やシステムもある。逆に「受け 手」の僕たちも十人十色のお客様を前にしている。さらに言えば営業のスタッフにし ても十人十色であるのだから、(もちろん外ヅラはいいが、)客観的に見てもどうし ても不可能なものもあるし、少し恥ずかしいが、できるものもある。  しかし彼は、その全てが自分の思い通りの、いや思い描いたとおりのプロセスを辿 らないと、また怒り狂うのである。下手したら、決まりかけた商談をもぶっ壊す。ウ チの会社は、値引きは所長権限なのでそんな暴挙も可能なのだ。 そこまで自分の考えにこだわりたいのか。威張りたいのか、と思う。客に対しては恐 ろしいほど聞く融通が、部下には全く利かない。その人に一番合ったやり方なんて考 えることもないのだろう。極端に言えば、「オマエラはバカなんだから、偉大なオレ 様の言うとおりにしていればいいんだ」という匂いがプンプンしている。これじゃ、 ガキ大将と何ら変わらない。  権力にこだわる権力者は権力者には向かない、というのが僕の持論だ。カリスマが あって独裁できるなら別だが、権力者たるものは、象徴でもよし、また能力よりもむ しろ人間であって欲しい気がする。  ・・・何か血圧が上がりそうだ。明日はもう少し冷静に、でももう少し、メダカの 予定。 ***************************             S311号室より         たかぎ しげひら ***************************