原生代
    (大酸化イベントと多細胞生物の祖先)

   酸素が満ち、真核生物と多細胞生物が誕生した、生命進化の大転換期
   • 約25億〜5.4億年前の時代
   • 光合成による酸素の大増加(大酸素イベント)が起こった
   • 真核生物の誕生(細胞内共生によるミトコンドリア獲得)
   • 多細胞生物の出現へとつながる進化が進んだ

諏訪大社創建の地,前宮の全景風景 
 目次
 1)原生代直前の約24億年前,ヒューロニアン氷期の開始
 2)太古代から原生代へ
 3)大酸化イベントThe Great Oxidation Event
 
 
 1)原生代直前の約24億年前,ヒューロニアン氷期の開始
 地球が史上初めて全球凍結状態(スノーボールアースSnowball Earth)に陥り、生物の大規模な絶滅をもたらした。原因はシアノバクテリアが発生させた膨大な酸素がメタンと反応して水と二酸化炭素に換え、強力な温室効果を持つメタンが激減したことによると見られる。
 メタンCH4と酸素O2の反応(酸化)の化学式
  CH4 + 2O2 ⇒ CO2 + 2H2O
 この反応が意味することは、メタンCH4は非常に強力な温室効果ガスで、それが酸素と反応して二酸化炭素CO2温室効果は弱い)と水H2Oに変わることで、地球の温室効果が大きく低下した。これが 原生代の全球凍結Snowball Earthの一因と考えられている。
 メタンが大気中で約12年しか生き残れない最大の理由は、主に「ヒドロキシルラジカル(OH)」との反応で急速に酸化されてしまうためである。
 大気中のヒドロキシルラジカル(OH)による酸化反応は、大気中には「OHラジカル」と呼ばれる非常に反応性の高い分子が存在する。 これはしばしば「大気の洗剤」と呼ばれ、さまざまなガスを分解する。
 メタンはこのOHによって連鎖的に酸化される。最終段階まで反応が進み、最終的には CO2 と水 になる。
 実際の大気でも、OHラジカルが反応の起点になり、最終酸化までOHが作用する。
  ① 開始反応:OHによる水素引き抜き
      CH4 + OH ⇒ CH3 + H2O
  ② メチルラジカルの酸素付加
      CH3 + O2 ⇒ CH3O2 (
メチルジオキシラジカル)
  ③ 過酸化メチルラジカルの反応(
NOがある場合      CH3O2 + NO CH3O(メトキシラジカル) + NO2
   ④ メトキシラジカルの酸化
      CH3O + O2 ⇒ HCHO + HO2
 
ここで ホルムアルデヒド(HCHO) が生成される。
   ⑤ ホルムアルデヒドの酸化
      HCHO + OH ⇒ HCO(
ホルミルラジカル) + H2O
  ⑥ ホルミルラジカルの酸化
      HCO + O2 ⇒ CO + HO2   
  ⑦ 一酸化炭素(CO)の最終酸化
      CO + OH ⇒ CO2 + H
      H + O2 ⇒ HO2
上記、段階を経て、最終的に CO2 と H2O になる。

 この反応が非常に効率的なため、メタンは 平均12年ほどで大気から除去 される。
 大気中のメタンの一部は、土壌中のメタン酸化細菌によって吸収・分解される。 ただし、あくまで大気中のOH反応が主役となる。
 メタンは 単純な構造のCH4 で、そのC–H結合は比較的反応しやすい。

 CO2の方は、既に「完全に酸化された形」であり、自然界で壊す手段がほとんどない。そのためCO2は100〜200年以上残るのに対し、メタンはほぼ12年と短命になる。


 メタンはCO2よりも多くの振動・回転モードを持ち、赤外線を吸収しやすいため、 「熱を閉じ込める能力」が極めて高いとされている。つまり、メタンは「1分子あたりの熱の吸収能力」が非常に高い。 メタンは、100年スケールでCO2の約28〜36倍、ただし、メタンは約12年で分解されるのに対し、CO2は100〜200年以上も大気に残る。メタンは「短期的に強い」が、CO2は「長期的に積み上がる」。
 メタンが CO2より強力となる科学的メカニズムは、分子構造が複雑で、吸収できる赤外線の種類が多いこともあり、また、メタンCH4は 5つの原子で構成されることで、ねじれ・伸縮・曲げなど、複数の振動モードを持つ。これらの振動が、地球が放出する赤外線の波長とよく一致する。そのため、赤外線を効率よく吸収して熱に変換して閉じ込める。
 
 一方、CO2は直線形で振動モードが限られているため、吸収できる赤外線の種類が少ない。地球が宇宙に放出する赤外線のピークは 10 µm 前後 、メタンの吸収帯はこの領域に近く、効率的に熱に変換するが、CO2の吸収帯は既に飽和気味で、追加のCO2の吸収能力は著しく逓減しやすい。
 また、メタンの大気中の濃度が低いため、追加分の効果が大きい。つまり、 CO2は 420 ppm 程度 、メタンは 2 ppm 程度であれば、極めて低濃度であるため、1分子あたりの温室効果の増加量は各段に大きくなる。つまり、濃度が低い赤外線吸収帯が飽和に達していなければ、1分子追加するごとの温室効果の増加量はより大きくなる。これらの要因が合わさり、100年スケールでメタンは CO2の約25倍の温室効果を持つと評価される。
 (parts per million【パーツ・パー・ミリオンppm】、つまり、その濃度単位は100万分の1の意となる)
 温室効果ガスは、特定の赤外線の波長を吸収する。 しかし、その吸収は、濃度が高くなるほど飽和していく という性質がある。CO2が現在 420 ppmの場合、主吸収帯の15 μm付近では既にかなり吸収されている。追加の CO2 を入れても、吸収が増えるのは『翼(Wing)の部分』だけ となり、1分子あたりの追加効果は小さい。CO2の主吸収帯15 μm付近は、中心(Core)に当たるため吸収が非常に強いが、中心から離れた弱い部分Wingでの吸収能力は、限定的になる。1 ppm 追加しても効果はどんどん小さくなる。そのため 1 分子あたりの追加効果は小さくなる。
 メタンは 2 ppm 程度しかないため、中心も翼も飽和に容易に達しない。 逆に追加すると吸収帯全体が強くなる。低濃度ガスは 1 分子あたりの温室効果が大きい 。しかも主吸収帯(7.6 μm付近)は未だ飽和に達していない。追加すると吸収量が丸ごと増える。1 分子あたりの追加効果が大きい。
 短期的な気候安定には、メタン削減が非常に効果的だが、.長期的な地球温暖化対策では、CO2削減が不可欠となる。両方とも対策上重要であるが、目的の時間スケールで優先順位が変わる。

 太古代末期の約23.3億年前の大酸化イベントでは、好気的環境で安定しない閃ウラン鉱uraniniteによる堆積性ウラン鉱床がこれ以降の岩石から発見されないこと、赤色岩層がこれ以降一般的な堆積岩になること、縞状鉄鉱層が稀になるなど、様々な変化が生じた。しかも、海洋表層水の溶存酸素が深層にも拡大し、嫌気性生物の生息域が大幅に縮小した。
 好気的環境とは「酸素が存在し、酸素を利用する生物が活動できる環境」のことであるが、その好気的環境で安定しない閃ウラン鉱uraninite(UO)とは、「酸素がある場所では化学的に不安定になり、酸化されて別のウラン鉱物へ変質してしまう」という意味である。 つまり、閃ウラン鉱(UO)は酸素が少ない『還元的環境』でこそ長期間安定して存在できる鉱物だ、ということを示す。
  なぜ閃ウラン鉱は好気的環境で不安定なのか?
  閃ウラン鉱の主成分は U(IV)四価ウランUO) である。 しかし、酸素がある環境(好気的環境)では次のように酸化される。
   U(IV) → U(VI)
  U(VI) は 水に溶けやすい可溶性のウラニルイオン (UO22+) になる。
 結果として、閃ウラン鉱は水に溶け出し、二次ウラン鉱物(ウラン酸塩uranateなど)へ変質する。つまり、ウランの溶解性が酸化還元条件に強く依存することが示されている。
 ウラン酸塩は、主な種類は、一ウラン酸塩M12UO4、二ウラン酸塩(重ウラン酸塩)M12U2O 、三ウラン酸塩M12U3O、重ウラン酸ナトリウムNa2U2Oなどがあげられる。
 ウラン酸塩は、閃ウラン鉱(UO2)が酸化されて U(VI) へ移行した結果として形成されるため、 酸化的環境の指標鉱物として古環境解析に使われる。
  酸化帯 → ウラン酸塩(可溶性 U(VI) → 二次鉱物)
  還元帯 → 閃ウラン鉱U(IV)が安定

 堆積性ウラン鉱床は、ウランが地下水などに溶けて運ばれ、堆積物中の有機物や還元環境によって沈殿・濃集した鉱床を指す。堆積性ウラン鉱床は、花崗岩などに含まれていたウランが地下水や低温熱水に溶け出し、上部の堆積層(礫岩・砂岩・泥岩)に沈殿してできた鉱床である。堆積性は、地表環境の化学条件(酸化・還元)と堆積物の性質が主役という点が特徴で、ウランは酸化状態によって溶けやすさが劇的に変わる元素で、酸化的環境では、6価ウラン(UO22+)として水に溶けやすい。
 還元的環境では、 4価ウラン(UO2)として沈殿しやすい。つまり、「酸化帯で溶ける → 還元帯で沈殿する」という化学的スイッチが、堆積性ウラン鉱床の形成そのものを決めている。
 花崗岩がウランの供給源で、地下水が花崗岩を通ると、ウランが溶け出す。この際、堆積層の有機物(植物遺体など)が還元剤として働くと、溶けていたウランが沈殿し、ウラン鉱物として固定される。
 酸化・還元の境界が鉱床形成の鍵となり、還元的な層では4価ウラン(UO2)鉱物(例:人形石)、やや酸化的な層では6価ウラン(UO22+)鉱物(例:リン灰ウラン石)ができる。代表的な産地は、日本では 岡山県・鳥取県の人形峠が典型例、世界では アメリカ・コロラド州 などに大規模鉱床がある。
 地下水が花崗岩をゆっくりと溶かし、ウランを抽出する。この時の地下水は酸化的であることが多い。酸化帯が、ウランが「溶ける」世界で、ウランは酸化状態によって性質が劇的に変わる。酸化帯では、地下水中の酸素がウランをU(IV) → U(VI) に酸化し、ウラニルイオン(UO22+)として水に溶けて運ばれる。酸化帯は「ウランを溶かして運ぶコンベアベルト」のような役割を果たす。
 酸化帯で溶けたウランは、地下水の流れに乗って堆積層の中を移動する。礫岩・砂岩など透水性の高い層は流れやすい。地下水の流路は、古い河川堆積物の中をくねりながら進む。その先にウランが「沈殿する」世界「還元帯」が待っている。
 還元帯とは、酸素が乏しく、電子を与える物質(有機物や硫化物など)が豊富な環境である。植物遺体などの有機物や黄鉄鉱(Fe2+を含む硫化鉄)、泥質堆積物が地下水中のウランU(VI)をU(IV) に還元する。すると、これがウラン鉱物(人形石、閃ウラン鉱など)として堆積する。
 (閃ウラン鉱は、二酸化ウラン UO2から成る立方晶系鉱物。黒色の亜金属光沢がある。少量のトリウム・鉛などを伴い、強い放射能をもつ。熱水鉱床やペグマタイトpegmatiteなどに産するウランの主要な鉱石鉱物である..。
 ペグマタイトは、数 cm〜数 mの大きな結晶が、ぎっしり詰まった火成岩、主に花崗岩のマグマの『最後のしずく』からできる岩石。マグマは、冷えるにつれて普通の成分から先に固まる。花崗岩マグマを例にすると、斜長石・カリ長石・石英といったメインの成分が、温度が下がるにつれて次々に結晶化する。
 普通の成分が結晶として抜けていくと、液体部分には、水・フッ素・リチウム・ベリリウム・ベリリウム・ウラン・トリウムなど、揮発性成分や希元素がどんどん濃縮されていく。これが、マグマの『最後のしずく』と呼ばれる。
 花崗岩質のものが多いため巨晶花崗岩【きょしょうかこうがん】あるいは鬼御影【おにみかげ】と呼ばれることもあるが、閃緑岩質や斑糲岩質のものもある。岩脈などに小岩体として産出する。)


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 2)太古代から原生代へ
 原生代早期の約22.29億年前、地球上に現存する最古の隕石痕であるヤラババ・インパクトの衝突構造は、西オーストラリアの イラガーン・クラトンYilgarn Cratonに位置し、地球最古級の「太古代クラトンArchean craton」として世界的に認められている。西オーストラリアの大部分を占める巨大な安定地塊であり、ジャックヒルズJack Hillsで発見されたジルコンzirconは、約44億年前〜42.7億年前の地球最古級を示す。ジルコンは、化学式 ZrSiO4をもつ「ジルコニウムZrのケイ酸塩鉱物」で、極めて安定し壊れにくいことから、地球最古の鉱物として知られている。宝石としても利用され、地質学では年代測定のタイムカプセルとして重要な役割を果たす。これにより、地球の最初期(冥王代〜始生代初期)の地殻が残っていることを示した。その上で起きた隕石の衝突であった。
 (ジルコンには微量のウランUやトリウムThを取り込む。それが放射壊変して鉛(Pb)に変わる性質を利用して年代を測る【U-Pb年代測定】)

 クレーターは風化・浸食を受けているが、元の直径は約30〜70kmと推定されている。厚さ2〜5kmの氷床を伴う花崗岩質の地殻に落下した場合、最大 5000億tの氷が瞬時に昇華したと推計されている。
 衝突年代が、地球が全球凍結状態Snowball Earthから脱し始めた時期と一致するため、 衝突が氷床を融解させ、気候変動を引き起こした可能性 が指摘されているが、「ヤラババ衝突が氷期を終わらせた」と断定できる段階ではない。
 クレーターの正確な形状・規模は、侵食が極めて進んでいるため、地表にはほとんど痕跡が残っていない。地下構造の詳細は、今後の地球物理探査に期待されている。また、具体的な隕石の組成も、まだ特定されていない。

 ヒューロニアン氷期約24~22億年前)は、シアノバクテリアが光合成で酸素を放出したことにより、大気中の温室効果ガス(特にメタン)が酸化されて激減し、地球が急激に寒冷化したと考えられている。メタンの酸化は温室効果を大幅に弱め、氷期の引き金になったと最新研究でも説明されている。
 ヒューロニアン氷期は、大酸化イベントGreat Oxidation Event(GOE) とほぼ同時期に起きた。 その中心的な駆動力が シアノバクテリアの酸素発生型光合成 であった。
 シアノバクテリアは光合成により、大量の CO2を有機物として固定する。そのため、大気中の CO2濃度が低下し温室効果が弱まり、寒冷化が進む。
 光合成による CO2の直接消費は、シアノバクテリアは次の反応で CO2を固定する。
  CO2 + H2O ⇒ CH2O(ホルムアルデヒド)+O2
 大量の CO2が有機物として固定されれ、大気中の CO2濃度が低下し、温室効果が弱まり、寒冷化が進む。
 (シアノバクテリアが光合成の途中で一瞬だけ生み出すホルムアルデヒドCH2Oは、毒性のある中間体であり、細胞はすぐに別の代謝物へ変換して利用または無害化する。 つまり、ホルムアルデヒドは「最終産物」ではなく、「炭素固定の通過点として瞬間的に現れるだけの物質」である。その「高速解毒」は、光合成生物に共通する安全装置として働く。
 ホルムアルデヒドは、化学分野の基本的な構成要素であり、様々な産業および家庭用用途で重要な役割を果たしている。この無色で刺激臭のあるガスは、多くの製品の製造に不可欠であるだけでなく、環境中にも自然に発生する。ホルムアルデヒドは広く使用され存在しているにもかかわらず、潜在的な健康への影響、特に発癌性のために大きな懸念事項となっている。)

 
 上記に伴い放出された O2がメタンCHを急速に酸化し、二酸化炭素と水に変える。そのため酸素の増加がメタンの酸化を通して温室効果を弱めた。
 メタンの酸化反応  CH4 + 2O2 ⇒  CO2 + 2H2O
 
 シアノバクテリアが放出した O2は、海洋表層に蓄積し、嫌気性のメタン生成菌を殺す。これにより メタンの生産量そのものが激減した。 つまり、 「メタンの供給が減り、残ったメタンも酸化される」 という二重の効果で、メタンがほぼ消滅したと考えられる。

 この反応の重要性は、メタンが CO2の 20〜30倍以上 の温室効果を持つ 。そのメタンが酸素によって急速に減少し、結果として地球の温室効果が劇的に弱まった。氷床が拡大し、氷期が暴走(ice–albedo feedback) したと考えられる。

  シアノバクテリアは、光エネルギーを、光化学系II(PSII)→光化学系I(PSI)の二段階で受け取り、電子を水から引き抜いて酸素を発生させ、その電子エネルギーをCO2 の固定に使うATP と NADPH に変換する。これは植物と同じ酸素発生型光合成の仕組みでもある。
 シアノバクテリアは フィコビリソームphycobilisome という色素タンパク複合体で光を効率よく吸収する。吸収した光エネルギーを 光化学系II(PSII) と 光化学系I(PSI) に渡す。そのため光環境(光量・波長の変化)に適応する光獲得戦略が重要となる。
 光エネルギーを受け取った PSII は、次の反応を起こす。水を分解して 酸素O2を放出し電子(e⁻)を取り出し、電子伝達系へ送る。これが 酸素発生型光合成の核心で、シアノバクテリアが植物と同じ酸素発生型光合成を行うことが強調さる。
 
 光化学系II(PSII)は、水を分解し、電子を取り出すことで光エネルギーを受け取った PSII は、次の反応を起こす。
  2H2O ⇒ O2 + 4H+ + 4e-
 水を分解して 酸素O2 を放出し 電子e⁻を取り出し、電子伝達系へ送る。これが 酸素発生型光合成の核心になる。シアノバクテリアが植物と同じ酸素発生型光合成を行うことが知られる。
 電子伝達系では、光エネルギーを ATP に変換する。PSII から取り出した電子は、膜内の電子伝達鎖を流れる。 電子が流れるとき、膜を隔てて プロトン濃度差(H+勾配) が生じる 。その勾配を利用して ATP 合成酵素が ATP を作る。これは光リン酸化と呼ぶ。

 PSI は光を受けて電子を再び高エネルギー状態に引き上げる。 その電子を使って、NADPH還元力)を生成する。
   NADP+ + 2e- + H+ ⇒ NADPH
 光反応で作られたNADPHATP が、後に CO2固定に使われる。
 
 暗反応(カルビン回路)では、CO2を糖に変換する。
 光反応で作られた ATP と NADPH を使い、CO2を固定する。
  CO2 ⇒ CH2O
 光反応と暗反応の両方がシアノバクテリアの基本代謝となる。

 約22億年前、ヒューロニアン氷期の終了までの生物
 氷期の間に大気中へ放出された二酸化炭素が消費されず、温室効果を引き起こしてアイス・アルベド・フィードバックIce-albedo feedbackを突破して解氷を始める。ヒューロニアン氷期に CO2を大量に排出した最大の要因は、火山活動による。氷期中でもプレート運動と火山活動は止まらず、 数千万〜数億年スケールで CO2が大気に蓄積した。一方、氷に覆われた地球では、 風化作用がほぼ停止し CO2を吸収するプロセスが止まった。 火山だけが CO2を供給し続ける。その結果、CO2がゆっくりと増加した。温室効果が回復して氷期が終わるも、氷期中のCO2を吸収する風化が止まったまま、火山性 CO2が大気に蓄積し続け、最終的に氷期を終わらせたと考えられている。
 アイス・アルベド・フィードバックは、地球上の雪氷面積が小さくなると、太陽光に対する反射率albedoが低下するために、より多くの熱を吸収することで陸や海が暖められ、雪氷面積がさらに小さくなる、という正のフィードバックのことで、地球の気候変動を支配する重要なメカニズムの一つとして考えられている。また、河川熱流入によって北極海の海氷縁が後退することで、海面への太陽光吸収量が増加し、さらなる海氷融解や海水温上昇が促進される。
 原生代初期のヒューロニアン氷期(約24〜21億年前)は、地球史上初の「ほぼ全球凍結」に近い深刻な氷期だったと考えられている。この時期、嫌気性生物や初期のシアノバクテリアの多くが絶滅したと推定されている。それでも生命は完全には絶えなかったのは、「避難所refugia」の存在が考えられている【ラテン語の「fugere」(逃げる)と「re-」(再び)から構成されている】。

 氷が完全に地球を覆うわけではなく、海氷の割れ目や風で開いた海面・開水域polynyaなどが局所的に存在し、光も届き、光合成生物が生き残れた可能性が存在した。深海の熱水噴出孔は、高温や化学エネルギーを提供し、嫌気性微生物が生き残るための「温水域」になりえた。氷期の前から存在していた生命の多くは化学合成生物だったため、光がなくても生存が可能であった。また、生物は火山の付近のような熱水活動のある場や低緯度海域で生存していたと見られる。
 氷床下の海は、氷が厚くても、海水は完全には凍らない。氷床下に液体の海が維持される。現代の南極でも同じ仕組みの湖や海が存在しており、そこに微生物が生き続けている。岩石の割れ目など地下の微生物圏に住む微生物は、放射線分解や化学反応などからエネルギーを得て生きることができる。氷期の影響をほとんど受けないため、「地下の微生物圏」になっていたと考えられている。
 放射線が水や鉱物を分解し、化学エネルギー源を生み出す。放射線(主にウラン・トリウム・カリウムの自然放射線)が岩石中の水に当たると、水素H2や酸化剤(硝酸塩、硫酸塩、過酸化物など)が生成される。これらが、微生物にとって『食料』になる。特に放射線分解で生まれた水素は、地下微生物にとって最も重要なエネルギー源となる。多くの地下生物は、電子供与体としてH2や、電子受容体として硫酸塩・硝酸塩・二酸化炭素を使って代謝を行う。これは、地表の光合成に相当する「地下の化学合成」で、放射線分解が微生物代謝を支える可能性が指摘されている。
 放射線は岩石中の鉱物にも作用し、鉄・硫黄・炭素などの化学状態を変化させる。これにより、鉄酸化細菌・硫黄酸化細菌・メタン生成菌などが利用できる化学エネルギーが供給される。つまり、『岩石+放射線+水 → 生命の燃料』という仕組みが地下で成立している。しかも、放射線に強い微生物は、DNA修復能力が極めて高い。放射線はDNAを傷つけるが、放射線耐性微生物は驚異的な修復能力を持っている。また、真核生物の一部が極めて高い放射線耐性を持つことが示されている。そのDNAを高速で修復する酵素群や酸化ストレスを抑える抗酸化物質、乾燥耐性などが生命維持を支えている。
 鍾乳洞に暮らす生物は、光のない・栄養の乏しい・温度変化が少ないという極端な環境に適応し、独特の進化troglomorphicを遂げている。特に湿度の安定性が生存の鍵で、洞窟の深部ほど特殊化した生物が見られる。鍾乳洞という極限環境は、 完全な暗闇で光合成が不可能、視覚の退化が進む、栄養が極端に乏しい、それでも外部から運ばれる有機物や微生物が主なエネルギー源となる。
 洞窟の生態系の根幹には微生物がいる。光のない洞窟で一次生産者として重要な化学合成細菌は、硫黄・鉄・マンガンなどを酸化してエネルギーを得る。化学合成細菌などが、壁面に微生物マット(バイオフィルムbiofilm)を形成し、他の生物の餌となる。洞窟魚やヨコエビなどの洞窟生物は、この微生物マットを直接・間接に利用して生きている。バイオフィルム内には、細菌・真菌・藻類・原生生物などが混在し、三次元的に分布する。この『自前の家』を作る微生物が分泌する粘着性の菌体外多糖(EPS)やタンパク質、そしてDNA が膜を形成し、内部を包む。EPS が外界の刺激から内部の微生物を守る防壁になる。
 バイオフィルム内部は酸素濃度が低いが、偏性嫌気性菌が多く生息し、外部とは異なる代謝活性や特性を示す。微生物が有機物を分解し、栄養塩を再循環する。この岩石表面のバイオフィルムが、洞窟魚やヨコエビ、貝類などの洞窟生物の餌になる。
 白く透明な体、水中の微生物や有機物を食べるヨコエビや、長い脚や触角で空間を把握し、捕食者として洞窟生態系の上位に位置する洞窟クモ・ムカデ などの糞は洞窟の重要な栄養源となり、昆虫や微生物群集を支える。
 硫黄洞窟や火山洞窟は特に多様であるが、温度・湿度が安定し、特に湿度は洞窟生物の生存に決定的な要因となり、その隔離環境に適応して、独自の進化を遂げている。

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 3)大酸化イベントThe Great Oxidation Event
 ヒューロニアン氷期は、大量絶滅を引き起こしたが、その後、地球は大きく変わる。ヒューロニアン氷期は「大酸化イベントThe Great Oxidation Event(GOE)」と重なる。大気中の酸素が急増し、酸素を利用できる生物(好気性生物)が台頭した。酸素呼吸はエネルギー効率が高いため、生命の活動範囲が大きく広がった。
 氷期の原因をつくった張本人でもあるシアノバクテリアは、氷期後に再び繁栄した。彼らは酸素を生み出し、海洋の生態系の基盤となり続けた。
 真核生物の台頭(約21〜18億年前)は、ヒューロニアン氷期の後、後の多細胞生物の祖先・真核生物(核を持つ細胞)が出現し増加した。酸素の増加が、ミトコンドリアの進化と複雑な細胞構造を可能にした。これが後の多細胞生物の進化の前提条件となった。
 氷期前の嫌気性生物中心の世界から、氷期後は 酸素世界に適応した生物が主役となり、地球の生態系は根本的に変わった。ヒューロニアン氷期は、生命を一度ふるいにかけ、酸素世界に適応した生命が台頭する転換期であった。
 これは、真核生物の起源と酸素濃度の上昇が同期していることを示している。大酸化イベント(GOE)で大気中の酸素が上昇したが、海洋はしばらく鉄や硫黄により還元的なままであったため、海の中には酸素をすぐに消してしまうほど巨大な『還元物質の貯蔵庫』であった。つまり海は鉄と硫黄の『酸素吸収分子』で満ちていた。GOE 以前の海は、溶存 Fe²⁺(還元鉄)や溶存硫化物(HS⁻)が大量に溶け込んだ強還元的な海であった。これらは酸素と出会うとすぐに還元して沈殿した。
   Fe²⁺ + O₂ → 三価鉄の酸化物Fe₂O₃
 (赤鉄鉱・ヘマタイトの化学式としてFe₂O₃ が示されている。これにより形成されたのが縞状鉄鉱層であり、現在工業的に使われる鉄鉱石の大半がこの縞状鉄鉱層から採掘されている。)
 HS⁻ + O₂ → 硫酸塩SO₄²⁻
 (微生物による硫酸還元は、無酸素海底での有機物分解の主要な経路である。硫酸還元細菌による“呼吸”の電子受容体として利用された。酸素がない海底では、微生物は酸素の代わりに 硫酸塩(SO₄²⁻) を使って呼吸した。
  有機物 + SO₄²⁻ → CO₂ + H₂S(硫化水素)
 これは 嫌気呼吸の中で最もエネルギー効率が高い 反応のひとつで、海底の有機物分解の主役であった。
 生成された硫化水素(H₂S)がさらに酸化され、硫黄循環を回した
 硫酸塩 → 硫化物 → 中間硫黄種 → 再び硫酸塩
 という複雑な循環が海底で起きていた。
 ( 有機物 + SO₄²⁻ → CO₂ + H₂S(硫化水素)
 この反応式そのものはとてもシンプルに見えるが、微生物の内部ではかなり精密な電子の受け渡しが起きている。エネルギーはまさにその電子の流れの中で生まれる。
 どこでエネルギーが生まれるのかは、SO₄²⁻(硫酸塩)が「電子を受け取る」 というところにある。有機物は分解されるときに電子を放出する。SO₄²⁻ はその電子を受け取って還元され、最終的にH₂S になる。
 この電子が高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へ落ちる ときに、
 微生物はその落差を利用して ATP(エネルギー通貨)を作る。
 これは酸素呼吸と同じ仕組みで、酸素の代わりに硫酸塩が「電子の最終受容体」になっている。
 その活用過程は
 電子が流れるとき、微生物の細胞膜にあるタンパク質がプロトンH⁺を膜の外へ汲み出す仕組みを動かす。
 • 電子の流れ → プロトンを外へ押し出す
 • 膜の内外で 濃度差(電気化学ポテンシャル) ができる
 • その濃度差を使って ATP 合成酵素が ATP を作る
 つまり、電子の落差 → プロトン濃度差 → ATP
という流れでエネルギーを獲得している。
 反応式の中でエネルギーが生まれるのは、有機物 → SO₄²⁻ へ電子が渡る電子伝達の過程であり、そのエネルギーは 膜を介した
 プロトンポンプ → ATP合成  に使われる。
 この循環は、化学合成細菌のエネルギー源や海底の鉱物形成(黄鉄鉱など)となって、海洋の酸化還元構造の維持に深く関わっている。硫酸塩は大気の酸素と地殻の風化の記録媒体にもなった。
 つまり、海の硫酸塩は
 大気酸素の増加 → 大陸での硫化鉱物の酸化 → 河川を通じて海へ
という地球規模の変化を反映していた。
 海洋大気相互作用でエアロゾル(硫酸塩粒子)を形成し、気候に影響した
 海洋生物が作る DMS(ジメチルスルフィド)が酸化されて
 • メタンスルホン酸(MSA)
 • 硫酸(H₂SO₄)
を生み、硫酸塩エアロゾルとして雲形成に寄与することが示されている。
 これは気候調節の重要なメカニズムであり、海中の硫酸塩は、単なる溶けたイオンではなく、海洋と地球全体の代謝を支える存在であった。
 • 微生物の呼吸(硫酸還元)に使われた
 • 硫黄循環を回し、鉱物形成に関与した
 • 大気酸素・大陸風化の記録媒体となった
 • 大気中の硫酸塩エアロゾルを通じて気候に影響した
 硫酸塩は、海の中で“生命・地球・大気”をつなぐハブのような役割を果たしていた。つまり、海は巨大なスポンジのように酸素を吸い取っていた。)

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