「なんじゃいそのジャリは?」
「せやからついてきてしもうた言うてるやろ」
「せやから何や訊いとるんや!」
「せやから迷子やって何度も言うとるやないけ!」
「ほう。迷子か。そりゃ面倒見て感心なこっちゃな……って、なにぃ !?迷子ぉ!?」
朱雀を呼び出し、凱旋から戻った翼宿ことここでは幻狼の名で通っている彼は、
倶東国との戦争時に助太刀に来てもらって以来の親友に会った。
そこがどこだろうと、会えば欠かさずやっていた再開の儀式ラッタッタは、
この日行われることはなく、こんな会話で久々の至t山での一日が幕を開けたのだった。
「お前いつから保父さんなったん?」
攻児が的外れな質問をする。
「誰が保父さんやねん!!」
「せやかて」
「しゃーないやろ!ここに戻ってきたと思ったらこいつが山道でべそかいて歩いとったんや。
なんやシカトすんのも後味悪いやろ」
「せやからって、お前ここに連れてくることないやろ」
「ほかにどこ行けっちゅうんじゃ!」
「ん〜。やっぱ交番連れてくのが妥当ちゃうやろか」
「アホか!ここに交番あってたまっかい!」
「せやな〜。ここにあったら俺ら困るもんな」
「そういう問題とちゃうやろ」
ここ至t山の山賊の頭である幻狼と、頭代理いうなれば副頭の攻児の会話はいつもこんな調子で展開する。
しかし、本来笑いを誘うようなこんな会話も子供相手ではあまり効力をなさないのだろう。
「なぁ、黙っとらんと、なんか言うてくれや。俺らなんもせんよって、な?」
「えぐえぐ……」
「あかんな。幻狼ここは俺にまかしとき」
「なんやお前、まさか俺の顔が怖いからとか思ってるんとちゃうやろな」
「ちゃうもなんも、怖いんやから仕方ないやろ。幸い俺はやさしい美男子やさかい、子供はすぐ心開いてくれると思うで」
「び、美男子ぃ!?言いおってからにお前それでダメやったらどないする気なんや」
ぶつくさ言う幻狼を尻目に攻児は、泣きじゃくっている少年を覗き込んだ。
「なぁ、お兄ちゃんに話してくれへんか?」
怖がらないように下から笑顔で接すると、
「……あのね僕」
ころっと涙が引っ込んだ。
後ろで幻狼ががたがたっと崩れる音がした。
そんな中、攻児の顔は「ほれみぃ」と、勝ち誇ったようになる。
「けっ!」
幻狼はふてくされたように外を眺めた。
「迷子じゃないの」
だが、子供のこの言葉で攻児ともども目が点になった。
「……は?」
「……おい。幻狼、説明してくれ。今この子供なに言うた?」
「迷子やないて」
「んで、お前はなんて言うてた?」
「迷子や言うた」
「はぁ。嘘つかんとちゃんと話してくれれば、俺は相談のったったのに」
「はぁ??」
「この子お前の隠し子やったんやな」
「アホかぁ !!!」
必殺ハリセン投げ。
「いったぁ。そんじゃ何や!?迷子でもない子連れてきたんかい」
「そりゃこっちが訊きたいわ!俺はてっきり迷子かと」
「せやかてお前ほんまにこの子が迷子やないとしたら、人攫いやぞ?」
「ひとさらいやて!?人聞き悪いことぬかすなや。俺は親切でつれてきたったんやで!?」
「まぁ、わからんでもないけど。なぁ、せやったら坊主お前なんで山道でべそかいとったんや?」
「だ、だって……」
少年はやや口ごもってぼそぼそと、しかし、ちゃんと質問には答えた。
「僕、大事な物なくしちゃったの」
『大事なもん?』
幻狼と攻児の声が重なる。
「……うん」
「んじゃ、なにかい。お前さんはその大事な物探してあんなことおったっちゅうんか?」
「親御さん心配しとるんとちゃうの?お前さん見たところ七つそこらって感じやし」
と、二人同時に訊かれた少年はまたべそをかく。
「ほれ、泣いとってもわからんやろ。その大事なもんて一体……」
少年はややあって、ようやく決心がついたように攻児の質問に答えた。
「玉」
「ぎょく?玉ってあの玉のことか」
「なんや知っとるんか?」
「いや、そうやのうて。こんなジャリがなんで玉なんぞ持って、
山賊がいるて噂のある至t山に入り込んだんか不思議に思うて」
「そういや、そうやな」
窺うような二人の視線に気付いたのだろう。
少年はまた短く続けた。
「お姉ちゃんの」
それを聞くと、何故か幻狼のほうが「あぁ」と感嘆の声を漏らした。
「なんや?幻狼」
「いや、なんや俺わかった気ぃするわ」
「は?」
「つまりこういうことやろ?お前は姉貴が大事にしとった玉を、勝手に持ち出して失くしたんや。
せやけど、どこでなくしたかさっぱりわからん。そやから、思い当たるところ徹底的に探しとったんや。
もし見つからなんだら姉貴にどやされるて思って必死でな」
すると、少年は一瞬驚いた様子だったが、こくこくと何度も頷いた。
「はぁ〜。ようわかったなぁ」
「思い当たる経験は山ほどあんねん……」
「あぁ。なるほど」
そういえばこいつも姉貴だらけで、末っ子長男やったな。
と、攻児は感心する反面、哀れみたっぷりに親友を見た。
「しかし、手がかりが少なすぎや。おい、坊主ほかになんかわからんか?
ほれ、その玉の色とか装飾とか……」
「えっと……」
「おい。幻狼、まさか探してやるつもりなん?」
「悪いか?」
「いや、悪いわけやないけど、お前せっかく帰ってきたのにええんか?」
「別に。もうどこへも行くことないんやし、ちょっとくらいええやろ。
も少しお前に頭代理やらしといたる言うてんねん。感謝しいや」
「嬉しくないわ。んなもん」
「攻児?」
「ったく。しゃーないな。俺も一緒に探したる」
すると、まるで攻児がこういうことがわかっていたかのように、幻狼はにっと笑んだ。
攻児も同じく笑む。
「ま、最近通りかかる連中もおらんで暇やったからな。暇つぶしや」
「まぁ、そういうことにしといたるわ」
しかし、行けばすぐに見つかるだろうと思っていた彼らだが、その考えが甘かったことに気付いたのは、
探し始めて半日、もうすぐ夕暮れ時という頃になってからだった。
色は緑色。
飾りは紐の結びが複雑だった。
所詮、子供の目で見た装飾品の類など、珍しい石でしかなく説明が貧困だったのも、
いつまでたってもみつけられない原因のひとつだったのだが。
「あかん。もうどんだけ探しとるんや俺ら」
「そうやな。半日は軽く地べた這いずり回って探したと思うけど」
「はぁ……」
力尽きたようにその場に崩れ落ちた幻狼の上に、少年が乗ってきゃはきゃは喜んだ。
「こいつ。はじめと違ってえらく元気やんけ」
「そりゃお前、懐かれたんとちゃうか?」
「えぇ!?俺にか」
「何驚いてんねん」
「せやかて俺、子供に懐かれるなんてこと……」
自分で言ってて悲しくなったのだろう。
彼がこの先を続けることはしなかったが、かわりに攻児が会話を続けた。
「せやな。顔怖いし」
「顔怖い言うな言うとるやろ!!」
「でも、お前根はいい奴なんやから、子供やっていつか懐いてくれるんとちゃう?」
「そんなん言うたら、攻児やって女子供相手に俺よか上手いもんやろ」
「あぁ!!そりゃお前、経験の差や」
「俺が末っ子で悪かったな」
「ちゃうちゃう。俺はいっつもお前の面倒見とるさかいな、
いざ子供相手でも自然に上手くなっとったんや。きっと」
「なんやと!?お前いつから俺の保護者やねん!!」
「……初めて会うたときから?」
「……はぁ」
幻狼は疲れきったように、地面顔を伏せた。
さらに、上で馬乗りになっていた子供にとどめを刺されたのである。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんいるんだよね!僕と同じだぁ!!」
「……はぁ」
「ははは!!つまりなにか?幻狼お前こいつに仲間意識もたれたっちゅうことやな!」
攻児はことのほかうけたようで、既に腹を抱えて笑っていた。
「笑うな!!どうせ俺は末っ子長男や」
「ぷくくっ……!まぁ、幻狼。落ち着けや……くくくっ!!」
「落ち着くんはお前や!!ったく」
だが正直このままではいつまでたっても目当ての物は出てきそうにない。
しかし、一緒に探してやっている手前、見つかりませんでしたというわけにもいかないだろう。
「……はぁ。ほんまにどこで失くしたんや。いい加減、早う見つけんとお前姉貴に殺されるんとちゃう?」
「うん……」
少年は夕暮れを見ていよいよ時が押し迫ってきたのを感じたのだろう。
どうしようという顔でうなだれた。
「ほれ、うなだれとる暇あったら探せ!絶対どっかに落ちとるはずや」
「ほなら幻狼。俺、もう少し先のほう探してみるわ」
「おう。頼んだで」
と、攻児がその場を離れようとした矢先である。
「……?」
攻児は視線を上に向けたままその場でとまった。
「攻児?なにしとるんや。はよう……」
「なぁ、幻狼」
「あ?」
「あれ、なんやと思う?」
「ん?あれて?」
幻狼は攻児が何を言いたいのかさっぱりわからず、
同じようにして立ち上がり真横に立つと彼と全く同じ方向を見た。
そして、
「なっ……」
攻児と同じように一瞬放心してしまった。
彼らが見ていたのは一本の木の枝だった。
そのうち少年がそれに気付き、上を向いた。
「あ !!あったぁ!!」
木の枝に紐が引っかかり、緑の玉は風に揺れていたのである。
「お前さ、ちょっと訊いてええか?」
上を見て放心したまま幻狼が呟く。
「うん。何?」
「なんであんなとこに玉がぶらさがってんねん?」
「あ、あぁ。多分、僕ここらへんで木登りしてたんだよ。だからその時に引っかかって……」
「それを早う言うとけ!アホぉ!!」
ガツンとまではいかなかったが、幻狼は思わず少年の頭を小突く。
「いってぇ!いいじゃん。見つかったんだからさ」
「なんやと!?元はと言えばお前のために……!!」
「幻狼、どうどう……。相手は子供やぞ」
「放せ攻児!なんのために俺らがここまで疲労したと思っとるんじゃ!」
「まぁまぁ。大事なもん戻ってきたんやし、よかったな坊主」
「うん!!」
「ったく。とんだ一日やったで。ほれ、早うコレ持って帰ったり。姉ちゃんの雷が落ちんうちにな」
しかし、幻狼の言葉に従う様子はなく、少年はまだその場で立っていた。
「ん?どないしたんや?」
と、攻児が訊くと、少年は木にぶら下がった玉を指差して、
「あれ、とって」
と言った。
幻狼と攻児が顔を見合わせた。
「お前行け」
「はぁ?俺が?なんで」
「元はと言えばお前がこいつをここへ連れてきたのが原因やろが」
これを言われると何も言い返せず、幻狼はしぶしぶ木を登った。
木登り自体はたいして苦でもなかったのだが、いかんせんずっと地面を凝視していたため腰が痛い。
「ったく」
とかなんとか言いながらも、枝に絡まった紐を解き、玉を少年のほうへ放ってやる。
「ありがとう」
万遍の笑顔で礼を言われて悪い気はしなかった。
「ったく。しょーもないやっちゃな。どこまでも世話かけおって……」
「必死に探しとったもんが見つかって安心したんやな」
夕焼けにそまった山道を、幻狼と攻児は何故かふもとを目差して歩いていた。
幻狼の背中では少年が幸せそうな寝息を立てている。
不安だと言ったので仕方なく彼らは、少年をふもとの町まで送ってやるつもりだったのだが、
その道中彼は疲れきって寝入ってしまったのだった。
「なんやこうして見とると、兄弟みたいやな」
攻児が半ばちゃかす意味で言ったのだが、思っていた返事は返ってこなかった。
「弟か……ええかもな」
「なんや?お前弟が欲しかったんか」
「別に。ないものねだりしてもしゃーないやろ」
「まぁ、年齢でいってもお前が俺らの中じゃ最年少やもんな」
「アホ。俺は頭やぞ。それで言うたらお前らが俺の弟分みたいなもんやないか」
「まぁ一応な。そういうことにしといたる」
「へんっ」
幻狼が居場所が悪そうにそっぽを向いた時である。
彼らの耳にすすり泣くような、泣き声が届いた。
「なんや?」
「あ。幻狼あれ」
「ん?」
先のほうの道の真ん中で、女の子が泣いていたのである。
それを見て疲れた顔になったのは言うまでもない。
「おいおい。よしてくれぇよ」
「また泣いた子供かい」
とは言うものの、ほっとくわけにもいかないだろう。
道すがら必ず通る道筋に彼女がいたことも理由のひとつだ。
仕方がない。と、彼らは歩んだ。
「君どないしたんや?お兄ちゃんに話してみぃ」
攻児が尋ねると、泣きじゃくっていた女の子ははっと彼を見た。
幻狼が負ぶっている少年よりかは多少年齢が上のようで、言う言葉ははっきりとしていた。
「弟が!弟が戻ってこないの!!お願い探して」
「え?」
また、探し物かい。と攻児が面食らった時である。
少女ははっと今度は幻狼のほうを見た。
「奎俊!!」
否。彼女が見ていたのは彼の背中で寝息を立てていた少年だった。
「ほえ?……ね、ねえちゃん??」
少年が目を開けると、
「よ、よかった……」
少女は安心したのかその場に崩れ落ちた。
「ねえちゃん!!」
幻狼が下ろしてやると少年は彼女に駆け寄った。
「ねえちゃん、ごめんなさい。これ、ねえちゃんの玉……」
「え?なに?なんであんたが私の玉持ってるの?」
「こいつな、姉貴の玉なくしたって必死に探しておったんや。せやから許したってくれへんか?」
幻狼の言葉に少女は一言、
「……いや」
と言った。
一瞬、え?っといった表情になる二人の青年を尻目に、少女は続けた。
「許さないよ。こんなもののためにあんたがいなくなるなんて!!」
「ねえちゃん……」
少女は少年よりかはるかに多くの涙を流して大泣きした。
「み、見つかってよかったよぉ……」
玉ではなく弟が。といいたいのだとわかった。
しばらくして落ち着くと、二人は幻狼たちにお礼を言うと、町のほうへ帰って行った。
夕焼けに仲良く繋いだ手を浮かび上がらせて。
「どないしたんや幻狼。なんや泣きそうやぞ?」
と言いつつ、攻児はにやにやと笑って帰路の道中尋ねた。
「じゃかましぃ。ほっとけや」
「にしてもよかったやないか。姉貴が探しに来てくれて」
すると幻狼は感慨深く呟いた。
「俺……俺も迷子んなったときあるんやけど、姉貴たちもああやって俺探してくれてたんやろか」
「そうやろな。たった一人の弟やし」
幻狼はそれに小さく「ふ〜ん」と言った。
だがその顔がわずかながら嬉しそうだったのを攻児は見逃さなかった。
「なんやちょっとは今回ので保護者側の気持ちもわかったんとちゃうか?」
「そうやな……って、ちょう待て!その保護者って誰や!?」
「そらもちろん!俺のことやろ。お前の保護者」
「せ・や・か・ら!!いつからお前が俺の保護者やねん!!」
少年時代。完。
しばらく停滞していたリク小説のUPです♪
って、君たち書きやすすぎ!(笑)
考えてみれば今までありそうでなかった珠珠の幻&攻小説(「きっかけ〜」は一応翼美だし)になるわけですが、
こんなに彼らが動いてくれるとは思いませんでした。
セリフがとにかく雨のように次から次へと頭に降って沸いてくることといったらv
お待たせしました。5555HIT半蔵さまに捧げます。
幻狼と攻児でギャグin至t山。
にしても、ふし遊BGMかけてこれ書いてたんですが、翼宿の曲が続いて全部流れたのには正直驚いた;
ギャグリク多謝申し上げます!!(日本語!?)