星見祭りの夜、鬼宿は美朱に言った。
「必ずお前を世界で一番幸せな花嫁にしてやる」
「……うん」
美朱はそのとき、彼のその言葉が嬉しくて思わず一縷の涙を流した。
朱雀を呼び出したらきっと……。
ふたりはそう信じて……。
「……」
「……」
そしてそのとき、ふたりはその一部始終を人ごみの中から窺っていた計四つの目の存在を知らなかった。
「……なんや、タイミングはずしたな」
「そうね」
「急にいなくなったかと思ったら、こんなところでふたりきりで逢引かいな。せっかく人が誘ってやったっちゅうのに」
「あのまま、ふたりにしといたほうがいいわね」
「せやな」
翼宿が相槌を打つと、柳宿の目がぱっと点になった。
「……な、なんや?どうかしたんか」
「いや、あんた、デリカシーなんて持ち合わせてないかと思ってたわ」
「アホ。俺かてちゃんとそんくらい……って、おい!」
柳宿は翼宿の弁解は聞かずに、すたすた祭り会場へ戻ろうとする。
「さぁて、行くわよぉ!力自慢でも腕相撲でも、なんでもかかってらっしゃい!
ほらっ、翼宿。あんたは荷物(賞品)持ち」
ひょいっ
「へっ……!?」
先程の力自慢大会で優勝した際に贈られた賞品を、柳宿は彼のほうは見ずに投げてよこした。
「どわあぁっ!!」
当然ながら、翼宿は予想もしていなかった賞品の雨あられに押し潰される。
しかし、柳宿は別に悪びれる様子もなく、
「……だらしないわね。こんくらい全部受け取んなさいよ。もう。男でしょ?」
と、逆に怒りだした。
「無茶苦茶言うな。どないしたん?いきなりテンション高くなりおってからに」
「……あんた、やっぱデリカシーないわ」
「……はぁ??」
諦めたように言う柳宿の言葉の意図が理解できず、翼宿の賞品にうもれた頭の上に「?」マークがいくつか浮かんだ。
当然といえば当然だ。
何故ならこのとき、そう言った柳宿本人でさえ、どうして今自分がそんなことを言ったのかわからなかったのだから。
後になって考えてみれば、このとき既に柳宿の中では美朱という子をひとりの男として、
じっと見つめている自分がいたのかもしれない。
でも、嫉妬と言うには程遠いだろう。彼女が鬼宿と一緒にいることで幸せそうに微笑むのなら、
それは同時に柳宿の幸せでもあったはず。
最も、このこと自体に気付くのにも時間を要し、まだ先といえば先の話なのだが。
しかし、なぜかこのとき彼は無性に身体を動かしたくて仕方がなかった。
とにかく何でもいいから、力を思いっきりぶつけられるものが欲しかったのだ。
「ストレス発散よ。……それともあんた、あたしと腕相撲でもしてみる?」
「遠慮しときます」
翼宿は脈絡のない返事を即座に返した。
しかし、いかに広いとはいえ、この栄陽で星見祭りの聖夜に派手に道場破り(笑)をして回る二人組みの噂は、
その物珍しさからか、間もなく町中に知れわたった。
「眼光の鋭いにいちゃんと、べっぴんのねえちゃんの二人組みが、あっちの力自慢から腕相撲まで何から何まで制覇して、
今、なんと十連覇らしいぞ!?」
「ふへぇ〜……!全部優勝かよ。賞品泥棒か、そいつら」
「しかも、どうやら出場してんのはべっぴんのねえちゃんのほうだっちゅうじゃねぇか!」
「マジかよ!?男のほうじゃねぇの?十連覇だろ?どんな女だよ……」
「いや、それがマジで綺麗らしいんだ。一番初めに餌食になったとこの準優勝のおっちゃんなんて、
樽ごとその女に持ち上げられたって話だぜ」
「あぁ!それ知ってるよ。そのおっちゃん、泣いてたらしいぞ」
「まぁ、女に担がれちゃな……」
美朱は、どこからともなく聞こえてきたその会話を聞いて、ほおばっていた特大飴を思わず落としそうになった。
そこで、落としてしまわなかったのが流石美朱と言えよう。
横を歩いていた鬼宿と目が合う。
「……ねぇ、これって」
「……あぁ、間違いないな」
“柳宿と翼宿”
彼らのことに違いない。というより、この噂に当てはまる人物が彼ら以外であってたまるか!
っと、鬼宿は自分で自分につっこんだ。
「あ、柳宿ぉ〜!」
美朱と鬼宿は野次馬の大海を泳ぎきり、ようやく彼らしき影にを発見した。
「あら!美朱じゃない。どこ行ってたのよ。探したのよ〜?」
と、そこで初めて鬼宿の存在に気付いたかのように、わざと
「あら、たまちゃんってば、やっぱり来てたのね。すねてたんじゃなかったのぉ?」
と、からかった。
そのとき、
「おいこら!試合の最中に仲良くおしゃべりたぁ、余裕かましてくれるじゃんか。なめとんのか!アマ」
どすのきいた太い声が間に割り込んできた。
美朱と鬼宿がそちらを見ると、声の通りにいかにもな体格の良い男がこちらに向かって吠えていた。
どうやら、今は試合(しかも優勝決定戦)の真っ最中だったらしい。
賞品のかかったこの最終勝負で、相手がいきなり現れた知り合いらしき若いカップルといちゃいちゃ会話しだしたのだ。
彼が怒るのも無理はない。
だが、柳宿はさも嫌そうに、
「うるさいわねぇ」
と言っただけだった。
それがまた、余計に相手を怒らせると知っていながら。
そして、周りの野次も最高潮に達した。片や連年優勝経験豊富ないかにも筋肉質のごっつい男に、
片や今年急に現れて流星のごとく今回の祭りの主だった力自慢大会を十連覇、現在記録更新中の絶世の美女。
誰もがこの勝負の行方を想像すら出来ずに、只むやみやたらにあおぎまくる。
「ま、軽く片付けてやりますか。あんたたち、ちょっと危ないからさがってなさいな」
「お、おい……」
鬼宿が腕をまくってやる気満々といった柳宿に何か言いかけたとき、
「心配無用や。今のあいつの前に敵なんぞおらん!」
「たっ、翼宿?」
野次馬の中で、一際目立って幅を取っていた翼宿のそのまわりには、おそらく今までに獲得した十勝分の賞品が、
所狭しと見事なまでに積みあがっていた。
「なにそれ?もしかして、コレ全部賞品なの!?」
「おう。たま、丁度ええとこに来たな。そろそろ俺ひとりじゃ辛くなってきとったところや。ほれ、半分お前にやるわ!」
ひょいっ
「……へ!?」
鬼宿は翼宿の二の足を踏んだ。
翼宿の両手いっぱいの賞品を鬼宿は身体全体で受け止めた。
「どわあぁぁっ!?」
「たっ、鬼宿ぇ!?」
「おー、埋まりおった埋まりおった。どや。どえらい数やろ。まだいるか?」
「いるか!!」
「これでわかったやろ。なぜか知らんが柳宿のやつ、今夜はいつになく燃えてんねん。
これで、今年の星見祭りの伝説は決まりやな」(笑)
「いや……、俺は」
「ん?」
「『ほどほどにしとけよ』って、言おうと思ってたんだよ」
そのとき、わあっっ!と歓声が沸いた。
なんだなんだ!?と、三人も野次馬サイドから試合の状況を眺める。
「わぁ〜〜〜〜〜ん!!おっ、下ろしてぇ!下ろしてくれぇ」
右手に縦に積まれた樽が四つ。左手にはそれプラス泣き叫ぶ相手選手が絶妙のバランス感覚で乗っかっていた。
下の柳宿は「軽い軽い♪」と余裕顔。
あの細い腕のどこにあんな力があるというのか。
観客が絶句する中、柳宿は左手の上の物をひょいひょいっともてあそんだ。
男が泣くのも無理はない。これだけのがたいの男である。おそらく女に、……しかも片手で持ち上げられたことなど、
最初で最後の経験となったであろう。
「また無駄に賞品が増えよるわ……」
「あ〜ぁ、可哀想に」
「……あれってきっと、一人当たり樽四つの計算だったんだろうな」
しかし、柳宿にとってそれは赤ん坊よりも軽いのだということを、この町の連中はまだわかってない。
「あー、すっきりした!やるもやったり、十五連勝♪」
「しっかし、えらい量になってしもたな。無造作に積み上げても俺の身長より高いで、コレ」
「どうするの?こんなにいっぱい」
「そうねぇ。たまちゃん、いる?」
「んなっ!?」
四人はあれからいくつか柳宿について回り、祭りのその手の催し物を片っ端から渡り歩き、
今は人ごみを避けて、裏路地に入り、大量の荷物(賞品)を下ろしていた。改めて、その数の凄さを実感する。
その荷物のほぼ半分を持って……否、持たされていた鬼宿が死にそうな顔で叫ぶ。
「なんで、俺なんだよ!?」
「あら、だってコレ、全部換金すればきっと結構な額になると思うわよ?」
「せや。家計に入れたり。ほれ、心優しい翼宿様がこっちのも全部お前ら家族に恵んだるよって」
もう半分の賞品を背負っていた翼宿が、気前良く自分の持っていた分を差し出した。
「たすきぃ〜!おめぇ、ぜってぇ今俺にそれ全部押し付けようとしてるだろ!」
「人聞き悪いこと言うやっちゃな。俺はな、只お前ら家族があまりに不憫に思ってやな……」
「あーあー。ありがとうよ!嬉しくって涙出てくるってか」
「あぁ?なんやその言い草!人がせっかく親切にしとるっつうのに」
「……うるさいわね。人がせっかく収集した賞品の数々、押し付け合わないで欲しいわ」
「……あの量だもん。無理ないよ」
わぁぎゃあと、賞品のことで揉めまくっているふたりの男からやや距離をおいた、壁際のところで女二人(!?)は彼らを見、
呆れ顔でそんな脈絡のない会話をした。
「そ、ね。あたしもあれ、いらないわ。少しならいいけど、あんだけあると……流石にねぇ」
「柳宿ってば、自分で集めといて……。でも、なんでまたこんなに?……何かあったの?」
「内緒」
「……あ、そう」
「ま、正直自分でもなんでかよくわかんないのよね。只無性に力を使いたかったっていうか……って、美朱?
なぁに?元気ないわね。……もしかして、お腹空いてるとか」
「……」
ぐうぅ……。
彼女のお腹は正直だった。
「……お腹空いた。だって、まだ来てから飴くらいしか食べてないんだもん」
柳宿は一瞬呆れ顔で、しかし、もう慣れたようにくすりと笑った。
「そうね。あの子達、このまま口論続きそうだし。ヒマだから、これからふたりでどっか食べに行きましょっか、美朱」
「ホント!?」
美朱の顔がパッと明るくなる。
「いくいく!早く行こう。もう、お腹と背中がくっつく寸前だよぉ」
夕飯を食べたことすらもう、彼女の身体は忘れてしまっているようだった。
柳宿はそれがおかしくてまた笑う。
「ちょっと、待ちなさいったら。まったく、食い意地だけははってんだから」
現金なもので、何か食べれるとわかった途端、美朱は飛び跳ねてひょこひょこ表通りのほうへ歩いて行こうとする。
「えへへ。早くぅ!」
だが、このとき美朱は柳宿のほうを振り向き、後ろ向きで歩いており、背後(つまり表通りのほう)から近付いてくる、
怪しい影に気付いてはいなかった。
「……おっと、そうはいかねぇな」
「!!美朱!!」
柳宿の表情が一瞬で驚愕に満ちた。
「きゃあっ!?」
『美朱!?』
翼宿と鬼宿もその異常に気付き、口喧嘩をやめてそちらを振り向いた。
「あんた……、さっきの」
柳宿と対峙していたのは、先程の力自慢大会で準優勝。柳宿の力の前に情けなくも泣き叫んだ、例の大男だった。
美朱がそいつにきつく腕をつかまれ、痛そうに顔をしかめる。
男は美朱に「悪いが付き合ってもらうぜ、嬢ちゃん」と一応前置きした後、空いていたほうの手をすっと上げた。
すると、彼の後ろから無数の影がザッと現れ、あっという間に柳宿たちをその数にして十二、三の人間が取り囲んだ。
「……リベンジっちゅうわけかい。律儀やなぁ」
言われるまでもなく、翼宿と鬼宿は戦闘態勢をとる。
「美朱を放せ!」
鬼宿が血の昇った声で吠えるが、男は聞こえてない様子で柳宿だけをぎんっと見下していた。彼の目的は柳宿なのだ。
「美朱を放しなさい。その子は関係ないでしょう。それともなに?人質でも捕ってなきゃ、あたしに勝てないのかしら?」
「なんとでも言え」
「……あら」
半ば開き直ったような男の反応に、流石にこの展開は予想してなかった柳宿は言葉が継げなくなってしまった。
「てめぇのせいで、俺ぁな!この三年で築き上げた地位をあの一瞬で全部パァにされちまったんだぞ。
この礼はきっちりつけさせてもらうから、覚悟しやがれ。お前のボコボコにのされた姿、公衆の面前にさらしたるわ!
そうすりゃ、きっと一気に名誉回復んなるからな」
物騒なことを口走る。と、柳宿は思った。
そんなことしたって、(見かけは)女の子の柳宿を縛り上げたりしたら、むしろ逆に顰蹙(ひんしゅく)を買うのでは……。
と、頭の中で冷静につっこんだのは美朱だった。
「いかにバカ力のお前でも、人質捕られた上、この人数じゃ手も足も出まい!……おい」
男は手下らしき数名の男に目で合図をした。
その瞬間、彼らはばっと柳宿に飛び掛り、その両腕を二人がかりで羽交締めにして封じてしまった。
その間、柳宿は抵抗するそぶりひとつ見せなかった。
「ばっ、……柳宿!?なにやって……!」
「アホか。そんくらい振り払えるやろ!なにやっとんじゃ!!」
そう。この戦い、どう考えても百パーセント七星士側に分があった。大きすぎる力量差の前に、こざかしい人質作戦など無意味。
三人……いや、柳宿ひとりでも十分捕らわれた美朱をその男の手から奪還し、尚且つ、その場にいた十数人の男全部を、
瞬時にしてノックアウトさせることも可能だったはずだ。
なのに、彼は今あっさりとふたりの男に先手を許してしまっているではないか。
さらにそのまま、されるがままに腕の自由は奪われた状態で、地に膝をつかされてしまう。
「ぬ、……柳宿?」
美朱も流石に心配になって、眉をひそめる。
……しかし、このとき実は柳宿にはある策があったことを、美朱たちは少し後になってから知るのである。
しかも、それはなんとも彼らしい演出の仕方だったと、後にみなは納得しあう。
柳宿の口の端がわずかに、しかし、極めて不敵につり上がった。
そして、
「きゃあぁぁ !!およしになってぇ!か弱い女性相手に殿方が十人がかりなんてそんな御無体な」
「うそこけ !!誰がか弱いじゃあ!」
一同があっけにとられる中、翼宿だけが絶妙のタイミングでつっこんだ。
十数名の男たちが一瞬戸惑う。確かに彼らにしてみれば、先程の大会のことなど間接的に知っていただけで、
本当にこの雅な女性にそんな力があるのか実際怪しいものだった。だとしたら、今我々がやろうとしていることは、
婦女暴行以外のなにものでもないのでは……。
これが非道極まりない行為であることを、統率格の男もこのときになってようやく気付き始める。(遅いって)
根は真正直で実は田舎出の彼の理性が働いてか、わずかに美朱をつかんでいたほうの手が一瞬だけ緩む。
柳宿はそれを見逃さなかった。
今だ!
「わっ!?」「なっ!?」
下っ端男ふたりを軽く振り払い、捕らわれた美朱をその男の手から半ば強引に引き剥がした。
「んなっ !!?」
彼がそれに驚く間もなく、次の瞬間!
ガスッ!!
「!?」
何か固いものがその後頭部を強打。美朱があぜんと見ている目の前で、男は白目をむいてどおっと倒れてしまったではないか。
「……え?」
美朱は柳宿の胸の中で、その向こう側にあった影を見て息を呑んだ。
「……まったく。気晴らしに祭り見物に出て、何をしているかと思えば……」
気絶した男がさっきまで立っていた場所で、さやに納まったままの剣(おそれくこれで奴を殴ったのだろう)を片手に、
たたずんでいたのは、彼女たちのよく見知っている人物だった。
「一体、何の騒ぎだ。これは」
「ほっ……、星宿ぃ!!?」
「星宿!」
「美朱!無事だったか」
「星宿様ぁん。怖かったですわぁ」
「ぬ……、柳宿」
数分後、そこには十数体の屍が(死んじゃいないが)、折り重なって奇麗に積み上がっていた。
星宿の登場を機に、一気に翼宿と鬼宿が畳み掛けたのだ。
「なんで星宿様がココにおんねん」
息も切らせずに、翼宿が問う。
「いや。井宿に身代わりになってもらったのだ。これからまた、政務やらでいろいろと忙しくなるだろうから、
たまには市井に混じって息抜きをしてみては、と気を利かせてくれてな。
しかし、お前たちが揃って祭りに出かけたと聞いて、いやな予感がしたのだが、案の定……。
来てみて正解だったな」
「でも、随分と遅かったですよね。俺たち宮殿出てきたの、結構前ですよ」
「あぁ。井宿の変身があまりに未完成だったものでな。いろいろと指導していたらこんな時間になってしまった」
「そ……、そうですか」
「嬉しいですわぁ。まさか、星宿様とこの旅立ち前の最後の夜をロマンティックに過ごせるなんて」
「……おい、柳宿。俺らもおるんやで。そこんとこ忘れんなや。今まで散々人を振り回しおって」
「そういえば、この連中はともかくなんなのだ?この物品の山は」
「あぁ。これは全部柳宿が……」
「あ ら!!やぁね、たまちゃん。コレは全部この人達の持ち物でしょう?
この人達、祭りの力自慢渡り歩いて景品泥棒まがいのことしてるんだもの。みんなの迷惑になるからって、
あたしがせっかく忠告してあげたのに、逆にからんでくるんですもの。……美しいって罪よね」
「うっ!」
翼宿がそれを聞いて、また「うそこけぇ!!」と叫びそうになって、やめた。
「なんか言ったかしら。翼宿ちゃん」
絶対零度の笑み。
「いいえ」
翼宿はそれに負けた。
この瞬間、柳宿はまんまとこの賞品の山をこの不逞の輩に押し付けることに成功したのだった。
まぁ。不憫といえばそうである。勝てずして逆恨みしたあげく返り討ちに遭い、
あまつさえ得てもいない賞品を気絶している間にその相手に与えられたとなれば、プライドはずたぼろ。
この後、屈辱的な夜を過ごすであろう男の姿が目に浮かぶようである。
星宿は何がなんだかわからないといった表情で、彼らのそんなやりとりを見ていた。
「……まぁ。美朱が無事で何よりだった。美朱、怪我はないな?」
美朱に視線をおとす。
美朱は元気いっぱいに答えようとして、
「うん!大丈……」
ぎゅるるるうぅぅ……。
お腹を抱えて前かがみになった。
『……』
一同がなんとなく覚えのあるその音に、しばし絶句。
どうやら今、美朱の腹の中の演奏会は最高潮らしい。
「……えへ。さっきので緊張したら、余計にお腹空いちゃった……」
『美朱……』
四人の声が自然と息の合った重唱になる。
そして彼らがこの後、再び町にくりだし、ややタガをはずして騒ぎまくったのは言うまでもない。
かくして、新たなシナリオが動き出す前のつかの間の安息の時間は、聖夜の流星のごとく過ぎ去っていった。
その日にぎわう町の上空で流れた一筋の光は、新たな試練に立ち向かう彼らに向けられた激励の流れ星であったか。
はたまた、この先に待ち受ける幾多の困難、そして悲劇をその儚さをもって暗示させるものであったのか。
このときはまだ、誰も知らない。
おわり
444ヒットキリリク☆星夜さまに献上いたします。翼宿、柳宿、鬼宿+αでギャグでした!
この三人をキーワードに原作を読み返していると、第七巻の星見祭りのメンツがまさに彼らでした。(+αは美朱?)
これは使わなにゃ!と思って冒頭一部抜粋させて頂き、後はそれに繋げて製作していきました。
しかも、七巻の表紙に注目。この彼らをとりあげるならこの巻しかない!!
なんだか、柳宿の心情ばっか冒頭からその後もえらく主に伝えられていますが。
彼はこの先一番の見せ場ですからね(次巻参照)
これを機に男としての自分の気持ちに正直になっていくんですね。きっと。
そして!彼!星宿!!
星夜さまがお好きということで、無理矢理にならないよう極めて自然に(?)登場させて頂いちゃいました。
しかも、最後の最後に。(結構凄い登場の仕方だったとは思う…)
そして結構いいとこ取り?(笑)
書いていくうちに最後どうやって締めくくろうかと迷いながらの創作だったので、少々長めです。
ちゃんと、締めくくれているか不安が残りますが。とりあえず、書けたのでUP!