コスタリカには、教師として学ぶ点と、反面教師として学ぶ点がある

    自由法曹団02年5月権利討論集会での発言に代えて   

文書発言   長野県支部 毛利正道

 

初めに  私は、今年2月のコスタリカ訪問・「軍隊を捨てた国」の上映運動・コスタリカのカルロスヴァルガス教授を当地に招いての5時間近くに渡る交流・昨年5月以来の各種文献調査・これらを踏まえての信頼できる中米研究者との再三の情報意見交換を経て、現時点で私なりに確信をもって言えることに絞って発言します。

 

第1 教師として学ぶ点

1 軍隊を廃止して、かつ容易に軍隊を持てるのに、50年間持たない選択をしつづけた。廃止の直接の動機であった、国民同志が殺しあわないようにしたいという点はこれまで実現してきている。また、99年の警察費は、「GDPの3,5%」(ヴァルガス教授)とすると国民1人当たり108ドル程度。日本は、警察・軍事あわせて、同612ドル、57倍。他国なら軍事費に使う国費を民生費に使った。ラテンアメリカ全体で識字率NO2・乳幼児死亡率は先進国並・医療保険完備で受診時医療費無料など、教育・医療・福祉の水準は、ラテンアメリカで上位クラス(但し、キューバ・ウルグアイ・トリニダードトバコなど他にも優れた国はある)。

2 その一環としての教育の重視。とりわけ、子どもに遊び・愛・自己実現の場を与える>自己肯定感のある子を育てる>他者への思いやりを育てる>他国とその国民への思いやりを育てるという一連の思想が、50年以上重視されてきている。国民が、その結果、軍隊を持たないことを圧倒的に支持している。これは、実際の国民の声であり、また、9.11テロ後の国政選挙でも、10を超える政党のどこも軍隊の創設や警察力の強化を政策に掲げるものはないことによっても分かる。

自己実現の点では、国政選挙にも子どもが自由に参加できており、かつ、学校では、子ども会の役員選挙が毎年2週間にわたって盛大に繰り広げられる。主権者に成長する権利が重視されている。

3 選挙は、その実施機関・選挙最高裁判所が、独立性を有した、国権4権のひとつとして確たる地位を有しており、建物が公共建物の中で最大規模・選挙の登録実施集計システムがラテンアメリカTOPクラス・比例代表プラス選挙運動自由など国民の意志が反映しやすい・選挙が国民にとってフェスティバルになっている(日本の選挙は、差し詰め「お葬式」)など、選挙制度の民主主義度は、世界でも上位にある(ただし、実際に大統領に当選しているのは、左翼的とは到底言えない2大政党のみ。また、選挙資金については、大政党に有利になっている)。

4 全南北アメリカ諸国が加入する、集団安全保障システムとしての機能ももつ米州機構(OAS)―これは、アメリカの地域支配の道具として創設されたが、80年代以降、他の諸国がリードしてアメリカの支配に異議を唱えることも増えてきつつあるーに、軍隊を派遣しない条件で加入していて、1948年と1954年の2回の対ニカラグア紛争では、OASへの申立をなし、「軍隊を持たない国だからこそ持てる、軍事侵攻に抗議する権利」を駆使して、武力紛争の拡大を防いだ。

 

第2 反面教師として学ぶ点

1 コスタリカ政府は、1979年にニカラグア・サンディニスタ政権が生まれてからは、国民の声に押されて1983年の永世非武装中立宣言をなしたものの、ニカラグア政権の打倒を狙うアメリカの圧力に強く抵抗せず(1948年以降も75年まで長期間社会主義政党を非合法としてきたコスタリカ内の反共主義も作用して)、中立を維持できなかった。具体的には、

@       @      反サンディニスタ武装勢力である私兵集団・ARDE(民主革命同盟)がアメリカから毎月40万ドルの支援を受けながら、コスタリカ領土内の基地からニカラグアに攻撃をかけることに対して、アメリカに対して明確に異議を唱えることなく、これを黙認した。

A       A      コスタリカの公安相が,CIAと協力して、コスタリカ領土内に、ニカラグア反政府勢力コントラ支援物資補給飛行場の建設を認め、実際に使用可能となった。

2 一方、1989年12月侵攻を柱とした、アメリカのパナマ民族主義政権

をつぶす攻撃との関係でも、パナマ国内の政情を不安定にして米軍が侵攻しやすくするため、CIAがゲリラグループを組織してコスタリカ領土内で訓練したが、コスタリカ政府はこれを認めていた。

3 このようなことをなぜ許したのか。コスタリカ政府は、1983年に、OASに対して、ニカラグア国境地帯に平和維持部隊の派遣を求めたが、これが実現しなかった(ようやく実現したのは、6年後、1987年中米和平合意後の、1989年11月に、国連中米監視団としてであった。その間、ニカラグア政権は転覆をめざす攻撃に耐えるために国力の大半を注がざるを得ず、その為国民の支持を減らし選挙で敗北した)。これを見ると、地域集団安全保障機構としてのOASが、大国アメリカの意向に対向するほど成長をしていなかったことが分かる。

4 コスタリカ政府は、9,11テロ後の921OAS外相会議において、アメリカがアフガンへの報復攻撃を明言したあと、「アメリカの政策を全面的に支持する」と述べた。また、今年4月、CIAによるベネズエラクーデターの際、コスタリカは、クーデターを擁護する立場で動いた。中国ではなく、台湾と外交関係を結んでもいる。かなり深い親米外交である。

5 ここから日本国民として汲み取るべきことは、日本で軍事力を持たない政策を貫くには、政府がとこれを支える国民が、アメリカとも対等にものが言える存在に成長して日米軍事同盟を廃棄する必要があるとともに、紛争の種を無くすための地域の環境作りも重視して、北東アジア4カ国の安全保障対話の開始から、4国間相互不可侵条約の締結、ASEANと両立若しくは統合する地域集団安全保障機構(仮想敵国を持たず、地域内の紛争を地域内で解決することを目的とするもの)の結成と質的強化(日本が、軍事力を提供しないで加入することに反対する国はあるまい)が必要だということではないか。

6 日本国内でコスタリカを取り上げる際は、このように「何をどのように学ぶか」と

いう視点から複眼的に見ていくべきであり、また、コスタリカを訪問するときは、

コスタリカの左翼的少数政党とも交流して民衆と政府との対決点は何かについても

学ぶことが有意義。