2004年1月11日
ぎざ耳坊主を読んでいなかった!?
注連飾りを下ろしに惜桜小屋を訪れた。気温は氷点下3度。風なく快晴。正午を回ったころ小屋を出て、うっすら雪の積もった山みちを400メートルほど登り、リゾート施設のある頂上に出た。稜線に沿って伸びる広い道路の、片一方の歩道に残されたノウサギの足跡はまだ新しく、夕べのもののようだ。林から出て、20メートルほど歩いて、また林に消えている。歩幅も短く、格別急ぐふうでもない。ほんのひと時緊張から逃れ、歩き易い平らな道でのんびり散歩を楽しむ感じの足跡だった。近くのレストランにでも来たのか、やんちゃ盛りの子供を交えた家族連れが、足元に描かれた小さな森のドラマに、なんの関心を示す風もなく、賑やかに去っていった。母子の愛情と、野生にハッピーエンドはないという、哀しくも心温まるシートンの動物記『ぎざ耳坊主-綿毛兎の話』を、たまたまお母さんがまだ読んでなかったのか、会話が弾んで目が行かなかったのか-。いや、そもそも今どきの若いお母さんには、この足跡がなんなのか見当もつかなかったに違いない。ノウサギはもう何年も前から数が減っていて、一部の環境を除いて、足跡さえ実際に見る機会が少ないのである。
2004年1月6日
たれが知ろう勇者の心を-
今日は小寒(しょうかん)、寒の入り。二十一日の大寒をはさんで二月四日立春の前日まで、寒中となる。いよいよ冬も本番だ。青空に誘われ様子を見に小屋へ。暦に合わせたように、大陸から寒気が下りてきたけれど、正午の温度零度は例年に比べたらかなり暖かい。事前に雪を嫌って南アルプス山系を南下したのかイノシシやシカの足跡はひとつも見当たらない。ただ狩人キツネの森の巡視だけは、相変わらずこまめのようだ。
山あいにのぞむ諏訪湖は氷片のひとかけらも見えない穏やかな明けのうみ。これからの寒波にもよるけれど、さて御神渡りはどうなるだろう。七年目ごとの御柱年だけにお諏訪様も逢瀬を自粛する!?なんていうことはないか。
その諏訪湖へ、かつて保護・放鳥したオオワシの五年目の飛来--が確認された。翼を広げれば2メートル余、畳一畳分ほどの日本最大のオオワシが滞在するには、普通だったら諏訪湖はとても狭すぎるという。それが本来の越冬地である広大な北海道ではなくこの地を選んだのは、かつて衰弱して湖上に落ち、死線をさまよった末に、四十九日間にわたって、多い時で一日1.1kgもの魚類やシャモなど与え続け、献身介護した林さんらの善意に対する恩返しだろうか!。上昇気流をとらえて湖上高く悠然と舞う勇者の心をたれが知ろう。[写真=林正敏さん提供]
2004年元旦
おめでとう 初日の出
7時5分 2004年の曙光(しょこう)は、山並みを覆う低く厚い雲の切れ間を突き破って登場。イラクの混迷、テロ、世界経済の回復-。さまざまを織り込んだ新しい年を象徴するかのよう。雲をまとい真っ赤に染まった初日は、上昇するとともにしばらくは雲を払い、ぐんぐん光を増す(そのあとまた雲の陰に)。我が家のイタヤカエデに初の訪問者、あのやかましいヒヨドリも枝にとまってしばし初日を浴び満足そう。共に思いは「平和な年の曙光であってほしい」か。
気早な春をウォッチング
デジカメ持参で腹ごなしの散歩。小屋の森につづく山畑をぶらぶら歩いて、元旦恒例の気早な春のウォッチング。日当たりのよい土手を丹念に探すと、枯れたフキの葉の根元にもう大きなフキノトウが顔を出している。青々した花に触ってみると、寒気のためまだがちがちに凍っている。近くに「山菜、福寿草の採取禁止」の看板。トルのは写真だけとする。別の場所では、寒さをさけて地をはうタンポポが、枯れ草の中に鮮やかな黄色い花を咲かせていた。オオイヌノフグリの花もあちこちで見られたが、まだ日の出まもない時間で青い花が開ききっていないため写真に収めることができなかった。小寒、大寒もまだこれからというのに、年が改まるともう春を探したくなる。
2003年12月21日(日)
新雪の足跡ウォッチング
冬将軍本隊は北陸どまり。前触れ程度で済んだ雪もやみ三日ぶりの冬晴れ。森は積雪約3センチ、足をとられることもない。小屋の温度計は氷点下3度と冷え込んだ。
林道入り口でいきなり出くわしたのが、野鳥の羽毛がおびただしいほど散乱した光景[写真上]。
周囲にキツネの足跡がいっぱいあったけれど、一羽の羽毛量にしては多すぎるしタイヤ痕もあったから、射とめた何羽かの野鳥の毛をここでむしったあととも考えられる。
愛鳥家の写真判定では「羽の形や色がこの写真ではもうひとつ判然としないけれど、水鳥特有の綿のような羽毛が混じっており、おそらくカルガモでは」という。
新雪に残されたキツネの足跡は、森の狩人らしく恐れるものはなにもないといった淡々とした足取り。およそ600メートルの林道をまっすぐ登り、小屋のすぐ横を通って、周囲の林の中をくまなく巡っている。森で狩りをしたあとは山を下り、山畑周辺ですごすのが日課らしいというのは、これまでの足跡ウォッチングで分かっている。
今日期待したのはノウサギの足跡。夜の活動がそのまま新雪に刻印される絶好の条件だったが、見事にからぶりに終わった。数年前「ここの森には三匹いる。おれは昼間隠れている場所もなから見当がつく」と話していた狩猟名人の話が思い出される。隠れ場所を聞く機会がないまま亡くなってしまった。
2003年12月16日(火)晴れ
意外性の魅力!?
氷点下の朝方の寒さも和らいだ昼近く、おだやかな冬日和に誘われ、少しばかり厚着をして、小屋の森の山みちを散策。健康保持のための日課。
頂上の手前あたり、チッチッという声に脇を見ると、岩混じりの斜面をすばやく移動するミソサザイだ。
日本でもっとも小さい部類のこの鳥、明るい表舞台よりやぶを徘徊(はいかい)する方を好み、全身が褐色の地味な姿に似合わず、一夫多妻なのだという。
しかし、オスが全霊を傾けて歌い上げる、早春のあの澄んだサエズリを聞けば、さもあろうと納得する。
天はニ物を与えず、意外性の魅力、ともかくこの鳥のソロ演奏は一回聴いてみる価値はある。
2003年12月15日(月)晴れ
貧相な小屋も華やぐ
定年になって初めて迎える正月だからと、ひょっと思いついて飾ってみたら、貧相な小屋がいくらか華やいだ。
この注連飾りは、知人が稲ワラから吟味し、橙(だいだい)も産地から取り寄せ、コンブやおかめなど縁起物も手抜きせず、手間ひまかけて丹念に仕上げたこだわりの"作品"だ。
飾り終え、改めて前に立つと、不思議と気分も改まってなんとなく嬉しい気分になった。
それにしてもまだ師走も半ば、少々飾り付けには早いかなという気もしたけれど、なにしろ初雪が根雪となってしまう林の中、軽トラで近づけるうちにと急いだ次第-。
注連飾りの横のシャレコウベのついた大きなニホンジカの角は、猟師のKさんの家の前に放ってあったのを貰い受け、数年前から厄除けに飾っている。Kさんはその後早世したため、大切な遺品でもある。
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キツネの足跡はほぼ一直線につづく
惜桜小屋日記
2003年12月15日(月)〜2004年1月11日(日)
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