惜桜小屋日記

2005年2月25日(金)


 諏訪湖西山の森に続く一帯は、山畑にはさまれところどころブッシュや萱が茂る草原の風景が広がり、白一色の雪原にはキツネ、ノウサギ、ニホンジカなど、森の住人の足跡が、いっぱい残されている。
 早朝、当番数人で地域の産土神の雪かきを終えたあと、ひとり足を伸ばしてこの丘陵地帯を見下ろす場所に立ち、これら森の住人を待った。
 寒気のなか長期戦を覚悟していたけれど、待つ程もなくブッシュからひょっこり姿を見せたのは、森の狩人キツネである。
トコトコと萱やブッシュのまわりを巡っている。
 ノウサギやネズミの気配を追って、五感を研ぎ澄ませているのだろうが、遠目にはのんびり散歩をしている風にも見える。
 夜明け間もない広い雪原に、動くものといえば、粛々と朝食を求めて歩くこのハンターだけ。あたりに音はなく、光さえも凍えて動かない。
 数分後、真正面に向き合う形になった。その距離数十メートル。雪原に障害物はない。こちらの存在に気がついたようだ。じっと目をこらす。
 この辺では食物連鎖の頂点に立つ狩人だけれど猜疑心、警戒心はとても強いだけに、そうなると行動は早い。朝食をあきらめアツというまに身を躍らせて、一度も振り返ることなく、森に逃げ込んでしまった。
 日の出前の静謐(せいひつ)な時の流れを、乱してしまったようである。

 
【この日は、ついでのアニマルトラッキングだったため、カメラを持っておらず、折角のチャンスなのに写真はなし。二枚の写真は他日撮ったもの。雪原をめぐる狩人キツネの足跡と丘陵風景】。