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 小屋に現れたタヌキの様子がおかしい。
 目はほとんどふさがり変形した顔にあの愛嬌ある面影はない。後ろ足の付け根も毛がごっそり抜け落ち、かさぶたのようになっている。がんか、疥癬病か、病魔に侵されたからだに五感も麻痺してしまったか、近づいても逃げるそぶりさえない。
 立ち止まり青草をくわえるけれど、飲み込む気力はもう残されていないようす。死生は天命なり―、よろよろ林に消える後姿に、達観したような野生の矜持を感じられたのがせめてもの救い。
 春先にビーバーを入れて、密生する笹を刈り取った場所に、ササバギンランが芽を出し楚々とした白い花を咲かせた。光を遮る笹の葉の根元で、命を咲かせるチャンスをじっと待っていたに違いない。

2010年6月8日(火)

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惜桜小屋絵日記