カッコウの声に目が覚め、二階デッキに出た。日の出の時間はとうに過ぎているのに、厚い雨雲に邪魔され、夜は明けきらないでいる。漂うひんやりした空気がすがすがしい。
デッキを囲むイタヤカエデとサワラは、緑の葉をピクリともさせずまだ眠っている。八ヶ岳の峰々は、朝もやのはるか向こうだ。
カッコウの声は、しじまを破ることなく、澄んだ朝の空気に溶け込むように、そっと運ばれてくる。
コーヒーを飲みながら、じっと耳を澄ました。
気分は森の中、といっていい。
静かに心を開いて聴くカッコウには、時と空間を超え"あの頃"を思い起こさせるような、懐かしさと、癒しがある。
しばらくすると、デッキから見通せるバイパスに、通勤する車の流れが始まった。時空は一気に、今に引き戻された。ポツポツ雨つぶが頬に当り始めたのをしおに、室内に退散した。