やや寒気も緩んだ正午すぎ、紅葉(もみじ)に染まる小屋の森をを訪れた。峰に向うけものみち「しし街道」を散策していて、2頭のカモシカと出くわした。道筋をややはずれ、10mほどの距離がある。
遠くにいた1頭はすぐ姿を消したが、灰色の毛並みに風格漂う別の1頭は、厚く積もった落葉に足元を隠し、ジッとこちらを見ている。
バサッ、バサッ、音を立て散るホオの葉を、心驚かす騒音と感じたか、30秒ほどしてパッと身を躍らせると、斜面を一気に横に走って木陰に消えた。ニホンジカと変わらぬ素早い動きだった。
かつて幻の珍獣も今や里山に欠かせない添景である。