惜桜小屋から雑木の斜面を直線距離にして100mほど上った稜線に、道幅が2mほどの山道【写真下左】が、頂上のリゾート施設に通じている。小屋からその稜線に登る道はなく傾斜もきつい。
いい運動になるし、キノコでもあればめっけもの―と、林に踏み込んだ時にはすでに正午を過ぎていた。裾にとりついてすぐ、ひと一人ゆっくり歩ける獣道(鹿道)【写真上右】に出くわした。先々で幾重にも交差するこの獣道を、右に左に何度か乗り換えながら、峰を目指した。
前夜までの秋雨に育ったジコボウが艶やかな顔をのぞかせている。イガからこぼれた栗の実は、この森に住むリスやネズミの貴重な越冬食になることだろう。サラシナショウマの蜜を吸うアサギマダラがいた。
頂上にたどりついて天井が開けた。碧空にちぎれて流れる行雲が目にまぶしい、まぎれもない秋の空である【写真上左】。
結局ヤブをこぐこともなく、いく筋にもはしる獣道をたどって歩くだけで、あっさり稜線にたどりつくことができた。この森を行き来するニホンジカの賑わいを感じ少しうれしくなった。