まだ今シーズンはヒグラシを耳にしていない。ぼつぼつ鳴き始めるころだ。
夕暮れに近い5時すぎ、この辺りではいつも一番早く聞くことのできる山麓を訪れた。惜桜小屋の森のひとつ向こうの山ふところにひろがる山畑である。
見上げる里山中腹に隣り村の産土神 ・ 浅間神社がある。参道入口の土手に、クサフジにからまれたホタルブクロが身をかがめ困惑気に咲いている。
セミはまだだ。
参道に入る。片側は杉並木の鬱蒼とした細い道がゆるやかに上っている。3百mほど歩いたころ、お目当てのヒグラシが鳴き始めた。麓のほうからだ。
カナカナカナカナカナ。涼やかに鳴き続ける。ただ一匹だけのようだ。
ヒグラシは真夏のセミである。いよいよ夏本番は近い。
このヒグラシの初鳴きは、早春の野に聞くウグイスの初音に次いで、鮮烈に移ろう季節を感じさせてくれる。
惜桜小屋日記
2008年7月11日(金)