「痴呆が始まったお袋に見せたい」というので、友人親子を西山山中のコアジサイ群生地(6月19日付惜桜小屋日記参照)に案内した。
卆寿を過ぎた老母は、おぼつかない足で山道に立ち、何回も何回も「甘くいい香りがする。本当に素晴らしい」と繰り返し、喜んでくれた。
数年前逝った義母が「岡谷の菖蒲園がきれいだってね」ともらしたのを気にもとめず、それから日に日に弱くなり半年後に亡くなったとき、ハッと「見たかったんだろう。あのときつれていってやれば」と悔やんだ、忸怩たる思い出が胸をかすめた。
足を伸ばした山頂付近で車を降りて、友人が林の中に大きなアカマツを見つけた。巨竜のように空中にうねる枝が、あたりのアカマツより太くみえる老松である。
ここでも老母は「すごいわね」と、すなおに驚いてくれた。
巨樹の生命力とコアジサイのたたずまいが、稚に帰るこの老母の心にいくらかでも力を吹き込んでくれた気がしてすがすがしい気分になった。
惜桜小屋日記
2008年6月24日(火)