さほど寒いとは感じなかったかったけれど、朝起きると2匹のアシナガバチのうちの一匹が巣の下で死んでいた。【6日付日記参照】
志賀直哉の短編『城の崎にて』にこんなくだりがある。
「或る朝の事、自分は一匹の蜂が玄関の屋根で死んでいるのを見つけた。(中略)淋しかった。然し、それは如何にも静かだった」
淋しいとは思わなかったが、静かな死ではある。
冬まで残った2匹の蜂には、どんな使命があったのか。
小説の蜂は「足を腹の下にぴったりとつけ、触角はだらしなく顔へたれ下がっていた」が、足も触覚も天に向けて踏ん張っている。
鮮やかな橙色した死骸はどこか明るい。
必ずや死ぬ運命を背負いながら、巣にすがる残された1匹のほうが煩悩のなかにある気がしてあわれを誘う。