昨シーズンのことである。
「半径2メートルほどのシロに、80本もの松茸がひしめくように発生しているのを見つけた」と驚喜する人もいた。
全国有数の松茸産地となった当地方は、久々の豊作に湧いた。
半面、こんな嘆き節も多かった。
「1日に20〜30本もシカに食べられる被害にあった」
「それも商品価値の高いものから食べてしまので被害は甚大」
「シーズン最盛期には水様状のシカのフンがあった。松茸を食べ過ぎ下痢をおこしたにちがいない」
しまいには、笑えない冗談も飛び出したが、豊作でひと息ついたこともあって、まだ余裕があった。
しかしプロの認識は予想以上にシビアだったのである。
会議の後の懇親会では県、市、山林所有者、茸栽培家、森林組合、それぞれの立場から、シカ問題の議論が沸騰した。
「なんでこんなに増えたんだろう」
「温暖化で雪が少なく、少々弱いシカも淘汰されずに冬を越せるようになった」「繁殖力が強いのに天敵がいないのも大きい」
「抜本策はあるのだろうか」
「生息数を適正に保ち、自然環境とバランスをとることだが」
「そのためにどういう手立てを講じるかが問題」
「冗談を言わせて貰えば、毒餌を使えば効果的だろうが、これは世論の合意を得るのが難しく、現実的でない」
「捕獲したシカの肉を、有効に活用するメニューや、流通するしくみを確立すれば、駆除が進むのではないか」
「それにしても、まず生息数や被害状況の実態把握に取り組むところからはじめるしかない」
結局、話しの落ち着く場所は常識的なところ―というのが、かえって問題の難しさと奥の深さをつきつけている。
野生動物との共生は、言うは易く行うは難し―。
と言って、待つだけでは「海路の日和」はやって来ない。
それどころか事態は日々悪化するだけ。
もどかしさが募る