木の間越しに咲くササユリ。梅雨空の林道を歩く同行者が見つけた。教えられて、思わず「おおっ」と、感嘆の声を上げた。
淡いピンクの花弁は、先の方がわずかに反り返っているだけ。ヤマユリ、コオニユリ、テッポウユリと野生、園芸種含めユリの種類は数々あるが、これほど飾り気のない楚々とした姿は他にない。
それに明るい日向より、木陰を好むつつましさもある。何より深緑の木陰にあって、凛としたたたずまいが、魅力である。
この花には思い入れがある。
子供のころ住んでいた里山に、蛇の洞と呼ぶ沢があって、山菜採りや遊びでよく出入りしていた。その沢を上り詰めたあたり、薄暗い雑木林に何株か咲いていたのが、このササユリだった。光がしぼられた深緑の中にスッキリと咲く姿が、懐かしいふるさと原風景となっている。
今では、立入禁止エリアの松茸山でしか見られない貴重品種が、林道から見られた意外性と、懐かしさが、冒頭の感嘆の声の理由である。