台風七号の接近で家に閉じ込められ、BS2放映の『東京物語』(小津安二郎監督、野田高梧脚本)を観ました。
先日蓼科で小津安二郎記念館に立ち寄って、小津映画に関心が向いていたこともあって、チャンネルをあわせたのです。
この作品は、ロンドン国際映画祭でサザーランド賞を受賞し「世界のОZU」として知られる、きっかけとなった名作です。
物語は、広島・尾道に住む老夫婦(笠智衆、東山千栄子)が東京に所帯を持った息子(山村聡・開業医)と娘(美容院経営)に会うため上京します。最初は歓迎した子どもたちが、日常の生活に追われ、邪険に扱うようになっても、戦死した二男の嫁(原節子)だけは、東京見物につれてゆくなど、親身に面倒をみてくれます。十日間の旅を終え帰郷した直後、疲れも重なっておばあちゃんが亡くなります。
郷里での葬儀に全員が集まっても、最後までとどまって、気落ちしたおじいちゃんにやさしく語りかけたのは、二男の嫁でした。
「妙なもんじゃ・・・、自分の育てた子どもより、いわば他人のあんたの方が、よほどわしらにようしてくれた・・・妻は東京ではあんたんとこへ泊ったときが一番うれしかったといっておった。いやありがとう」 おばあちゃんが大切にしていた時計を、形見として嫁に贈り、静かに頭を下げるおじいちゃん。嫁は涙をこらえます。
邪険にするといっても、意地の悪い息子、娘ではありません。甘えもあって、少しずけずけ言う程度のこと、ごく普通の親子の遠慮ない会話にすぎません。それなりに情愛を持った中流家庭の家族関係なのです。しかし、静かに余生を生きる老夫婦には、それを普通に受けとめ切り返す強さは、今はありません。二男嫁のやさしい心遣いが、心にしみるのです。
さりげない親子の関係や人生の機微を描いて、しみじみした味わいの小津作品。実は食わず嫌いでしたが『晩春』『麦秋』なども観たくなりました。年ということでしょうか。