星の出番にはまだ間がある、夕暮れの西の空に、上弦の月が冴え冴えと輝いている。
 大陸からの高気圧に覆われ、雲ひとつない空に浮かんだ月は、秋の月とはまたひと味違った趣きがある。外に送り出した友人と、期せずしておおっと声をあげるほどの名月。しばらくは無言で空を眺めた。
 古来より月は神話や伝説、詩歌に登場し、親しまれてきた。
 小さい頃よく聞かされた、月にはウサギが住んでいる―というはなし。シェークスピアの「真夏の夜の夢」では、永遠に薪を切り続ける男が、犬を連れていることになっているとか。
 「そんなおとぎ話の世界も、現実に人類が月に降り立つ今では、どこかへとんでいってしまった」「いや、こうやって眺めていると、まだまだおとぎ話のひとつやふたつ養える、未知の魅力は残っていそうだよ」。
 いささか冷えるけれど、値千金の早春の宵である。

惜桜小屋日記

2005年3月14日(月)