諏訪湖西山の森の奥深く、山みちを散歩する。
間伐が行き届いた林を通り、時折り右に左に分岐して、さらに奥へと続く。右に行くも、左へ行くも、足のむくまま気のむくまま―。
秋の七草始めワレモコウ、ツリガネニンジン、ヤマユリ、ツリフネソウ、キツリフネ、オトコエシ、ミズヒキ、キンミズヒキ、コウゾリナ、オトギリソウ、ユウガギク等々、深緑の野を彩る秋の花々。
 平らに開けた場所に出た。
背丈ほどに茂った夏草を分けると、強烈な草いきれにムッとする。
穂を出し始めたススキの向こうに、一軒の廃屋が現れた。
 このあたりは入植地として、かつて十数軒の民家があったという。里からおよそ数キロ入った山間に、肩を寄せ合い平和に生きる人々のさんざめきが響いた日々も今は昔。
今は訪れる人もまれだ。
山間の地に夢を追い、厳しい環境に立ち向かった入植者は、まさにつわもの(兵)たちでもあった。
―夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡―
どこか懐かしく、どこか寂しい。
しばらくしてそこを離れ、再び山みちに戻る。
国木田独歩の「武蔵野」を模せば
「山みちを散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。里山の詩趣はただあてもなく歩くことによって得られる」。

惜桜小屋日記

2004年8月20日(金)