惜桜小屋のデッキに置かれた椅子に、茶色の獣毛がビッシリついていたことが、これまで幾度となくあった。
なぞの夜の訪問者は、人気のない夜に時折りやってきて、しばらくこの椅子にねころび、休んでいくらしい。
デッキに壁はないけれど、入口は閉ざしてあるから、木登りのうまい動物なんだなとは思っていた。
ところが、ここ二ヶ月ほど訪れた気配がない。
気にはなってはいたけれど、知るすべも無かった。
正体が分かったのは偶然である。
 建物を補修しようと、床板などの端材を積み上げた材木置き場をのぞいて、ハクビシンの死骸を見つけた。
床下を棲家とするネズミかヘビでも追って、材木の隙間にはまり込んでしまったか、板と板に顔を挟んで、ほとんどミイラ化していた。
 ハクビシンは、かつて天然記念物に指定されたこともある幻の珍獣である。狸に似ているけれど尾が長く、名前の由来となった鼻筋の白線が特徴。それに木登り名人でもある。現在は数も増え、どちらかといえば悪役のイメージが勝っている。
 それに、出自についても日本に古来からいた土着種説と、ペットが逃げて繁殖した帰化動物説の、決着がついていない。
 その生態や状況証拠から、なぞの訪問者の正体はこのハクビシンだったようだ。姿は見せずとも互いを意識してもう数年になる。
 知人を亡くしたような寂しさはある。

惜桜小屋日記

2004年8月12日(木)