●身代わり猫のお地蔵さん (北大塩宝勝寺)
本堂左手奥、歴代の住職達が眠る住職墓地の並びに、ひとつのお地蔵さまが祀られている。高さ約五十五p石造り浮き出しのお地蔵さまである。横には『明治三十四年十一月十九日造立 発願主上野淨名院比丘妙運 為焼死猫得脱 施主清阿弥陀仏』と刻まれている。
明治三十四年(1901)と言えば十九世童法和尚の亡くなる前年である(現在は二十二世住職)。いまより百年以上も前の事にて詳しい事情を知るものはいない、ただ寺に伝わっている伝承があるのみである。
真冬、上野の行商人が大門峠を越えて諏訪に入ろうとしたとき、運悪く天候が悪化し吹雪の峠で身動きがとれなくなってしまった。薄れゆく意識の中で行商人は夢を見た、夢の中で一匹の猫が自分にすり寄ってくる、思わず拾い上げて抱きすくめると猫は彼の腕の中で丸くなった。猫のぬくもりに芯まで冷え切った彼の体は染み渡るような暖かさを感じ、いつまでも彼はその猫をなでていた。やがて彼は意識を失う、朝の光の中で気がついたときには彼の体は半分雪に埋まりながらもかろうじて動くことが出来た。
峠を下り一晩の宿を寺に求めた、その晩住職から聞かされた話は、その寺の猫が昨日囲炉裏に飛び込み、住職の目の前で亡くなったと。
やがて行商人は国元に帰りその後お地蔵さまが納められた。行商人であったのか発願主に比丘(僧侶)とあるから、旅の僧であったのか、もしくはこれをきっかけに出家して行商人が僧になったのか、詳しいことはわからない。
ただ寺と猫の縁は深く、先代二十一世正人和尚が亡くなった際にも、いくらおっても住職の遺体のそばに来て寄り添う猫の姿があった。それを見た現住職は本堂改修の折、決意して本堂内にあった身代わり猫地蔵を住職達が眠る墓地の並びに移転し現在に至る。
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