オポルツェルの食宝典は2161年までの日食要素しか載せていないが、2161年までに原村の文化園で皆既日食が見られる日はない。だとすると2161年よりも後は食要素から計算しなくてはならない。日食は新月の時に起こるのだから、まず最初に2162年以降で新月になる日を片っ端から算出。続いてその日の黄道と白道の交点付近に太陽と月があるか調べ、両者が18・5度以内であれば食が起こる可能性があるからその日付をメモしておく。それを100年分やったら、メモしておいた日付の具体的な食要素の計算に移って皆既食か金環食か部分食かを判定する。皆既食がなければ次の100年計算を行う。これの繰り返し。
黄道と白道の交点(昇交点と降交点)が固定したものなら計算式は非常に単純になるけれど、実際は太陽摂動のため18・6年の周期で黄道上を移動するし、皆既か金環かを決定づける近地点の座標も8・85年の周期で動く。だから特定の年月日の黄道と白道の交点の位置を知る事からしてとても面倒。また月の公転の速さは年差により冬に減速し、夏には加速する。何世紀たっても百分の1秒の誤差も生じない完全な月の運動方程式は今も発見されていない。だから数百年先の日食を秒単位で算出してもほとんど意味がない。でも日付ぐらいだったらかなりの確度で特定できる。
というわけで・・・誤差が大きくなる事を承知の上で食宝典にも載っていない未来の日食を検証していくと、月の本影が文化園を通過するのは西暦2762年8月12日。この日食は3年前の4月8日に起きた日食の42サロス後の物にあたるが、この日なら原村の文化園で皆既日食を見ることができる。時刻は誤差の関係でおおよその事しか言えないけれど、午前11時45分から正午の間に皆既状態に入る。盆前の夏休み期間中でしかも太陽高度も十分。おまけに皆既継続時間は6分にも達するから、これ以上ない理想のコンディションと言える。
ただ問題なのは・・・・今から754年後まで、我々が生き残っているかだねえ