「音のする和紙。本美濃紙の力」
内山紙の手漉きの美しさに魅せられた翌年、次に私たちが訪れたのは岐阜県美濃市の長良川上流板取川流域にある、日本有数の手漉き和紙の生産地、蕨生。この地区では後継者不足のため、年々廃業となる生産者も多く大正時代には1200軒あった生産者が、今では150軒程度に減ってしまいました。そのうち純粋な本美濃紙を生産しているのは、重要無形文化財で本美濃紙保存会の会長澤村正さんの家ともう
1軒だけです。その本美濃紙を求めて、私たちは板取川の川岸より山の手側に奥まった澤村さんの工房に向かいました。
工房の手前では、澤村さんに弟子入りしたばかりの若い男性が、黙々と水槽に浸けた措の皮のちりを取り、奥の部屋では、澤村さんの奥さんが、本美濃紙独特の「流し漉き」を行っていました。これは賛を前後左右に揺すって漉く作業で、すべて勘に頼りながら寸分違わず漉き上げられる和紙の厚みは、熟練の年輪そのもの。
ここでは茨城産の那須椿が使われ、障子紙、漉き舟の底にたまった椿の皮を漉きこんだ包装紙や書道用紙などを生産しています。澤村さんの和紙は、国賓として来日する各国の要人のお土産としても使われるそうで、私も書道用紙を譲ってもらい、いろいろと試し書きをしたところ、とても書き心地よく、何かもったいない思いがするほどでした。
「工場で大量に生産されるものは化学紙といって薬品漬けだら、手漉きのような色艶や深みは決して出せないんです」と語る澤村さん。
また、繊維を打解する木鎚など、工房で使う器具もほとんどが手づくりで、「人間がつくるものへのこだわりの手仕事が、本美濃紙には息づいています。
その特徴は、紙をぴんと張った時に聞こえる金属的な音。私の知る限り、こういう「音色」をもつた和紙は思い当たりません。豊かな張りと色艶、しかも使うほどに白さを増してゆくという特性もあって、実際に見た十年は経つという障子も、その白さがつくり立てのものとはとんど変わりませんでした。 |

立岩紙を1人で守る、漉き手の高柳さん。漉き舟に簀桁を浸し、繊維質を均 等になるようにすくう。

重ねた和紙からら簀を離す。 |