<「命を終わらせて欲しい」と言われたら>

 点滴をせず、症状コントロールのための薬だけを最小限の水分量で投与した場合、経過はより老衰に近づき、危篤状態になってからものすごく長く頑張る人もいる。
 こういうときに家族から、「十分やってもらったし、今の状態で生きていることは本人も望んでいませんでした。この姿をただ見ているのはつらいので、命が終わるようにして下さい」と言われることがある。ここで、「命に関しては医者に全ての権限と責任がある」と勘違いしたりしていると、世間でいう「安楽死事件」を起こすことになってしまう。これに対して私は、最近は次のように返答している。
 「いま御本人が生きているのは、人工呼吸をしたり命を長引かせたりする薬を使ったりしているわけではないので、御自分の力だけで生きているのです。その状態で命を終わらせるためには、何かをやめれば終わるのではなくて、何か手を下す必要があります。医者だから命を終わらせる方法はいくつか知っているけれども、それを使って欲しいと言われるのは、『あなたには二本の手があるからそれで首を絞めてほしい』と言われるのと同じ。だからこのまま一緒に見守っていくのが、できる最大限のことです」
 このように説明して「それでも命を終わらせろ」と言った人は、今のところいない。


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