肝臓は同じような病態に見えても、その病歴や病変分布によって経過が変わってくる。経過を予測するためのいくつかのポイントを挙げてみる。 ・慢性肝炎・肝硬変から生じた肝細胞癌の場合、全身状態を整えると結構長く生きられることが多い(肝臓が筋張っていて病気が拡がりにくい?) ↓↑ ・肝硬変のない柔らかい肝臓にがんが拡がった場合、進展が早い。転移性肝腫瘍で、肝不全の症状が出てきたときには、これからの経過が早いであろうことを話しておくようにしている。場合によっては、肝不全兆候が現れてから1週間で看取りになることもある。 ・トランスアミナーゼ(GOTやGPT)やビリルビンが正常範囲でも、増加傾向にある時は肝不全の入口に来ていることが多い。(上の話をする心構えをする目安) ・安静にしていれば、肝臓は200グラムぐらいあれば体を養える。肝不全の兆候が出てきたということは、働ける肝細胞がそれ以下になったことを表す。働ける肝細胞が減少する理由はがん細胞に置き換わってしまった場合と門脈による栄養補給が断たれてしまった場合があるが、どちらにしても不可逆性変化であることと、働ける細胞が100グラムになり0グラムになるのも時間の問題ということは変わらない。 ・肝臓の表面に腫瘍がある場合、それが崩れて腹腔内に出血し、死因となることがある(肝破裂)。止めるのはほとんどの場合不可能である。肝破裂が起きる危険が大きい場合には、少なくとも家族には話しておく。 ・一般的な肝不全の進行経過としては、 会話がのろくなったり、ちぐはぐな返答になる(肝性脳症のはじまり) →おかしな行動が出る。暴れたり不潔行為をしたり。指示に従えない。 →起きている時間が減少する。 →眼を見開いて、大きな呼吸をする(肝性昏睡に入った。意思疎通できない) →肝性昏睡は、肝硬変のある人の方が長く(3日ぐらいかな)転移性肝腫瘍の人の方が短い(数時間から1日ぐらい。体力も弱っていれば大呼吸にならないこともある) →次第に呼吸が弱って亡くなるが、下顎呼吸にならないこともある。 ・黄疸があるから予後が短いとは限らない。単純な閉塞性黄疸の場合にはビリルビンが30ぐらいあっても結構元気な人もいて、予後にはあまり影響しない。肝実質性黄疸の場合は肝不全と同時並行で急速に進行することが多い。どちらであるかの見極めは重要。直接ビリルビンが優位でトランスアミナーゼがそんなに動いていなければ単純な閉塞性黄疸の可能性が高い。一方、トランスアミナーゼの一貫した増加傾向がある、コリンエステラーゼの減少が急激、などは肝実質性黄疸の可能性が高いが、混合型もある。単純な閉塞性黄疸で予後が見込める場合には、ドレナージをした方が痒みなどの症状で困らなくて済む。 |