<高カルシウム血症について>

 進行癌の15%、末期癌では3割前後に高カルシウム血症が生じるといわれる。高カルシウム血症の症状は全身倦怠感・食欲不振・口渇などで、重症化するにつれて悪心・嘔吐・混乱・意識障害が見られるようになる。これらの症状は癌末期の症状とほぼ重なっており見過ごされやすい。そのため、癌患者の診療では、採血の機会があれば常にカルシウム値を測定する習慣を身につけたい。
 高カルシウム血症が放置されると、本来の病気の経過より早く死を迎えることになる。高カルシウム血症だけによる症状であれば、アレディア注やゾメタ注などでカルシウムを低下させる治療によって全身状態は改善する。
 ただし、カルシウム値が増加している患者は同時に末期である場合も多いため、「カルシウムが正常になれば元気になりますよ」とうかつに言わないようにする。
 アレディアやゾメタは効果発現まで2〜3日かかるので、緊急を要する場合は従来のエルシトニン、生理食塩水点滴などを併用する。
<アレディアについて>

 アレディアによるカルシウム抑制効果は2〜4週間続く。日本では生理食塩水500mlで5時間以上と書かれているが、米国では1mg1分(30mgなら30分)で投与されている。破骨細胞の活動を抑制することによって、骨からのカルシウムの溶出を減少させる。
 以前は「悪性腫瘍の骨転移による高カルシウム血症」が適応病名であったが、2004年11月に「乳癌の溶骨性骨転移(化学療法、内分泌療法、あるいは放射線療法と併用すること)」が追加となっている。
<ゾメタについて>

 ゾメタはアレディアと同じ骨吸収抑制剤であるが、アレディアより優れた点がいくつかある。両薬剤ともノバルティスファーマから発売されている。
 まず、作用が強力である。実験ではアレディアの1000倍の効果を示し、臨床でもアレディアより強力といわれている。
 次に、効能効果がアレディアより幅広い。当初はアレディア同様「高カルシウム血症」がないと使えなかったが、2006年4月に「多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変」が追加適応になった。つまり、先発品のアレディアよりも幅広い適応が承認されており、今まで原則として使えなかった乳がん以外の高カルシウム血症を伴わない骨転移にも、使用できるようになった。
 さらに、ゾメタは15分で投与とされており、アレディアよりも投与が簡便である。
 これらの多くの利点を備えているため、今後日本ではゾメタの使用が増えるだろうと思われる。
 アレディアやゾメタの副作用としては、発熱が一番多いと報告されている。多くは3日程度でおさまり、以後の発熱はみられない。解熱剤の使用など、一般的な対応で問題ないとされている。
<パミドロネート製剤による顎骨壊死について>

 ゾメタなどのパミドロネート製剤で、下顎や上顎の骨壊死、膿瘍形成などが報告されている。発生機序は正確には解明されていないが、破骨細胞が長期に持続的に抑制されている時に発症が多いようである。また、歯科疾患が存在する時に発症が多いともいわれており、パミドロネート製剤投与時には歯科や歯科口腔外科に必ず受診するようにしている医療機関もある。
 顎骨壊死は一旦生じると、パミドロネート製剤の投与をやめてもほとんど回復しない。発生を減らすため、ゾメタなどでは投与間隔を4週以上空け、破骨細胞の活動がある期間を設けるなどの工夫がされている。内服のパミドロネート製剤でも症例報告があり、注射よりは少ないものの要注意。



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