「がんになっても、あわてない」の中の1項目です。 <代替療法の抱える問題点> 前の項(本ではこの前の項目が「代替療法・補完療法」になっています)を読んで「おや」と思われた方は多いのではないでしょうか。新聞や雑誌では毎日のように「この代替療法が効いた」「この機能性食品でがんに勝つ」というような広告を見かけます。普段はあまり気にしていなくても、「がんになって西洋医学では治らないといわれたら、こういうものに頼ればいい」と、多くの人が思っていることでしょう。 薬の広告は薬事法で非常に厳密に規制されており、効能や効果が実証されているものでなければ広告はできませんし、内容には厳しい規制があります。そのため新聞や雑誌にこのように書いてあれば、信用していいだろうと普通は思います。しかしよく見てみると、これらの広告は「本の広告」なのです。 そのような本をいくつか買って読んでみました。読んでみた印象を正直にいってしまうと、多くの本は機能性食品の広告そのものです。一つの例を挙げると、前半には一般論が書いてありますが、後半はその機能性食品を飲んで治った、あるいはこんな効果があったという人の体験談が次から次へと並べてあります。自分や身内にがん患者さんがいた場合、そのうちの一つぐらいは「これはうちの場合とそっくりだ」と思ってしまうに違いありません。 もちろん、機能性食品を飲んでがんが治る体験をした人がいることは事実なのでしょう。しかしそういう体験談は、説得力はありますが、誰にでも効くという証明にはなりません。「奇跡が続々」などと書いてありますが、続々出てくれば奇跡ではなくなるはずで、現状は奇跡にとどまっていると考えた方がいいでしょう。私は機能性食品を飲んでいる人を何百人か診てきましたが、広告にあるような「末期がんから奇跡の生還」をした人には、まだ会ったことがありません。 がんと診断されたときや、がんに対して治療法がないといわれたときには心は動揺し、わらにもすがりたい気持ちになります。そのようなときに目の前に「わら」があればすがって当然ですが、このような本は評価が定まっていないものでも「大木」に見えるような書き方がされています。そうなると、本の前半の一般論の部分も、後半の説得力を増すためだけにあるように思えてしまいます。 二〇〇三年八月の健康増進法改正で、特定のものを買わせることを目的としたり、適切な治療のチャンスを逃すように誘導する可能性があるものは、広告であっても書籍であっても違反広告とみなすことになりました。しかし広告は一向に減らず、二〇〇四年七月には厚生労働省から出版業界の主な団体に対して、「このような本は機能性食品の誇大広告の疑いがあるので慎重に取り扱うように」という異例の通告が出されました。 その後も新聞や雑誌には広告が載り続けていましたが、二〇〇五年四月ついに警視庁が薬事法違反の疑いで、一つの出版社と数カ所の健康食品販売会社に家宅捜索に入りました。その出版社の広告は出なくなりましたが、似たような広告はまだよく見かけます。しかしこのような広告のうさんくささに気付いた人は、世の中に着実に増えてきています。 代替医療すべてが良くない商売をしているとは思いません。がんを抱えた人にとって、大きな支えになっているものもたくさんあると感じています。一部の業者が出している法の網をすり抜けるような書き方の広告が、代替医療全体の信頼性を低下させる要因になっていることに、早く気がついて改めるべきでしょう。 実は大手や老舗の製薬会社の中にも、効果の証明がされていない機能性食品を作って売っているところが何社かあります。驚いたのは、問題の出版社が捜索されて広告が出なくなった数日後に、それらの製薬会社の機能性食品の広告が全国紙にいくつも載っていたことです。「売りつける最後のチャンスかもしれない」と思ってあわてて広告を出したのなら、企業のモラルも地に落ちたものです。大手や老舗は「製薬会社だから品質に絶対の自信」などと書きますが、「効く」とは絶対書きません。効果に関しては、うさんくさい広告が作り上げたイメージに便乗しているのです。決して薬としては承認されないものを大手の製薬会社が広告して市販している感覚には、違和感を覚えます。 このように書くと、機能性食品を扱っている業界の人は「営業妨害だ」と思われるかもしれません。それを仕事としている人としては当然の反応かもしれませんが、妨害することを目的として書いているのではありません。この分野は、正しい役立つ情報を伝えようという姿勢よりも、たくさん買ってもらおうという力が勝っているのが現状で、それが問題だといっているのです。だいたい、「困っている皆さんを助けます」と謳う商品を扱っていながら「営業」妨害だと考えるなら、その時点で間違っていると思います。 このような広告に乗せられて、治ると信じて続けてきたのに治らなかった人が、そのことを販売元に伝えたところ「治ると信じる力が弱かったために効果が薄かったのだ」といわれた例もあります。「信じる気持ちが効果を高める可能性」を否定はしませんが、治らなかったのを本人のせいにするのは言語道断です。 人間を含めたすべての動物の身体は、命が終わりに近づくと、食べ物どころか水さえも受け付けなくなります。これはがんに限らず、老衰で命が終わる場合も同じです。この状態になっていても、機能性食品だけは可能な限り続けたいという患者さんや家族が結構いるのです。ごはんや水よりも大切な機能性食品があると信じているのは、正常なバランス感覚とはいえないのではないでしょうか。 副作用はないといわれていた機能性食品も、少数ではありますが肝機能障害などの副作用が報告されています。副作用がなくて、どんながんでも治してしまうような方法があれば、西洋医学もそれを無視するはずがありません。現在の広告合戦は正確な情報でない場合が多いことは、心にとめておいて下さい。 |