どうしてそんなに綺麗な瞳なの

 金曜の夜 時計は24時を過ぎようとしていた。 もうすく土曜日になる。 
ミャンマーの子供達を思い出していた。 彼等の瞳には、疲れを溶かす魔法の力があるようだ。 綺麗な瞳の子供がたくさんいる。 


自転車に乗り バガン ミンカバー村にやって来た。  
マヌーハ寺院の近く 村の広場の大きな木の下に自転車を止め、遅れてくる妻を待っていた。 すると ピンクのシャツに派手なオレンジ色のロンジーを着た娘さんがやって来て 言った。

「Hallo Mr. nice to meet you 」
「Hi nice to meet you . 」

英語の勉強のつもりらしい。
彼女は 私の名前は モンモンよ・・・と名乗った。 彼女は、教科書から切り抜いた様な英語で どこから来たのか これからどこへ行くのか どうしてバガンに来たのか まっすぐな瞳を私に向け 質問してくる。 職務質問みたい。 相手をしているうちに 私が聞きたくなる・・・どうしてそんなに綺麗な瞳をしているの・・・と。  彼女の質問に応えているうちに 妻が追いついてきた。 モンモンはミンカバー村を案内してくれると言う。  

ビルマを旅して困ったことは無い。 またどこにいても 一人になる事は無いのだろう。 いつもどこかで誰かに声をかけられ 子供の綺麗な瞳に支えられ、旅している気がする。


ニューバガン近郊 ローカナンダ パコダ。
パゴダに近づくと 絵葉書売りの子供たちに囲まれた。 しかし 彼らは しつこく絵葉書を売り込むわけでもなく ニコニコ 纏わりついてくる。

「ニホンジン?  コンニチハ   ハロー ハロー  キャキャ ケラケラ ・・・ 」

眼を輝かせ 満面の笑みを浮かべ 無邪気に付き纏ってくる。 真っ直ぐな瞳を持つ彼らとふれあうと 胸の奥で固まっていたものが溶けて行くのがわかる。 心地よく とても楽なのだ。 今年 妻は、彼らと遊んでもらうつもりで 千代紙やキャラメルやキャンディーを持って来た。 ローカナンダ パゴダの広いテラスを 大勢の子供に囲まれ ゆっくりと散策した。 ビデオを回すと 今までワイワイ騒いでいた子供たちは 急におとなしくなった。 実はシャイな一面もある。

「これはビデオだよ。 自己紹介してくれないか?  名前を教えてよ。 カミャー ナメー ベーロー コー バーダレイ。」

片言のミャンマー語で 彼らの表情が少し柔らかくなる。 背の高い左端の子がおどおどした口調で言う。
「僕の名前は オウンオウン。」

次の子は カメラの前まで進み出て ポツリと言った。
「オードゥドゥ。」
「僕は、マウンマウン 」

童顔な子が お辞儀をしながら 右手を胸にあてながら言った。
「僕は、チョーチョーだよ。」

一人ひとり 名前を教えてくれた。 かわいらしい子供たち。

「みんな 学校行っているか? 」

ニヤニヤしながら・・・
「うん」

パゴダの裏側まで来た時 私は彼らに こう言った。
「豊かになりた:ければ 一生懸命に働く事だよ。 働くには、勉強が大事だよ。 だから勉強すると約束してくれたら ボールペンを上げよう。」

みんな ニコニコ 頷いた。 一人ひとりに 「勉強してね」と言いながら 一本ずつボールペンを渡す。  どこかのおじさんが遠くから優しい視線で 子供たちを見守っていた。  今度 行く時は 綾取りを教えようか パゴダの前にロウ石で絵を描いて ケンケンパして遊ぼうか。 


パコダの子供達に見送られ ニューバガンの街へ続く道へと戻る。 遅めの昼食をとりに リバービューレストランへ向う。 誰もいないレストランで 川面を渡る風に吹かれ ゆっくり食事をするのは良いものだ。 蒸し暑い中 自転車を漕ぎ 汗を流した後のビールは美味い。 食後のお茶を飲みながら レストランの支配人と談笑し、レストランを出ると もう二時半だった。 火照った身体も冷えて心地よく、自転車を漕ぎ始めた。 ところが 身体が冷えすぎてしまったようだ。 足がだるい。 

「痛て・・・。」

左足がつった。

右足で庇いながら 自転車を漕いだものの、ニューバガンの街のはずれで 両足ともガクガクになって 自転車から転げ落ちるように屈み込んで動けなくなってしまった。 オールドバガンまでは だいぶある。  痛さをこらえて筋を伸ばしてみるが、痛くて・・・自分の足が言う事を聞いてくれない。 妻と二人 道端でしゃがみこんで 予定外の休憩となった。 どこから来たのか 3人の少女が こちらを見て笑っていた。 背中に風呂敷包みを背負った少女達は警戒する様子も無く まっすぐに私達の傍にやって来た。 学校の帰りなのだろうか?  彼女達はニコニコ 纏わりついて来る。 言葉は、まったく通じなかったが、デイパックから千代紙を取り出し、折り紙を教える。 舟や鶴を折って上げると 嬉しそうに持って帰って行った。 

「タッター。」 (バイバイ)


少女達を見送った後、 不思議に 私の足の痛みは消えていた。 

綺麗な瞳に まっすぐな瞳に また逢いたい。

2002年10月 バガン 




遠くへ行きたい・旅物語
Travel to Myanmar
Mr. Yang. All right resreved .