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新幹線から航空網へ
 

■これからの高速交通体系

我が国の高速交通体系はいままでは新幹線が中心だったが、これからの、地方への追加には、国内ハブ空港方式による航空網の整備が最も合理的であることを、以下説明する。

■交通諸機関の特性
 
 鉄道というものの基本形は「線」だ。A地点とB地点を結ぶが、途中に駅を設ければ、運送需要地を串刺しにすることができる。
 反対に航空網の基本形は「点」だ。A空港とB空港があれば、その2点を結ぶだけだ。B空港が経由となり、C空港に行く場合でも、AB、BCの(任意に設定可な二点間の)組み合わせと考えられる。
 航空網が「点」からなることによる大きな特長は、AならAという地点に空港を整備すれば、どの地点むけにも航空路線が開設できることだ。そこに(鉄道路)線があってはじめて、その線上に路線を開設でき、途中に駅を設けることができる鉄道との大きな違いがある。航空網のこの特長は途中の「線路」が不要なことから説明できる。
 他も分類すると、高速道路は線、海運は点だ。一般道路は道路「網」と言われるくらいだから、「面」だ。
 
■鉄道の特長と限界

  追加の高速交通体系として、整備新幹線方式で進められているが、鉄道の特性を熟知しなければ、うまくはいかない。
 鉄道を敷設・運営するときは、起終点間の交通需要だけでなく、途中にもうける駅の需要もプラスしなければ、合理的な計画とならない。一本の線の上に多数の都市などの交通需要地がなければならない。我が国の国土は線状に長い。国土に沿って鉄道を敷設すればよいから、鉄道輸送には向いている国土形状だ。
 ところが、高速交通体系の新幹線となると話が違ってくる。従来の(狭軌)ローカル鉄道網とは別線で(標準軌の)高規格(特急専用)路線を新設するのには、まとまった高速交通需要が線状に存在しなければ、運営がペイしない。同じ高速交通体系の航空網との競合を考えて採算に合うのは、区間ごとに考えると、仙台〜東京〜新大阪〜岡山間(以下、採算区間と略)のみであろう。この採算区間の各駅の受け持つ人口(業務、観光人口を含む)は全国移動人口の過半になるからである。
 採算区間の北あるいは西への以遠分はその区間内での需要密度が不足しているし、そこから採算区間の三大中心都市圏へは航空機が分担するに十分な距離である。枝線の秋田、山形、上越あるいは整備中の整備新幹線区間内も同様である。
 ミニ新幹線の山形、秋田は線形の高規格化がないので、安価に建設でき(別線でもないので、運営効率も良い)、整備新幹線第一号開通の長野新幹線は整備新幹線方式という大幅な公費助成と併行在来線の切り離しがあったのと、長野県という航空網にふさわしくない地域だから、どうにか成功しているのではないだろうか。これらも含め、不採算区間の新幹線は採算区間との(JR東、西の社内でのあるいは新幹線鉄道保有機構内)プール制で不採算性が隠されているに過ぎない。

■航空網の特長
 
 航空網の場合はどうだろうか。
 いったんある地点に空港を整備すれば、その発着施設容量に達するまでは、あらゆる地点むけに路線を設定できる。飛行機一機分の需要があれば、採算に合うから、高速「少量」交通体系といえる。厳密に言うと、新たに空港を建設する費用を考えるとペイしないが、出来てしまった空港での航空路線各便の設定の際には「少量」でもよいことになる。路線の改廃も自由だ。一社専用でないから、競争による運営合理化もある。これらの点が、「多量」の需要を必要とする新幹線との大きな違いとなる。
 しかし、鉄道が途中需要を加算できるのと違い、航空機は純粋に2地点間の需要だけだから、その意味では航空路設定可能路線は限られたものとならざるを得ない。
 
■航空網を高速交通体系の中心にするために

  その欠点を克服し、航空網を一般的な高速交通体系にすることができるのは、国内ハブ空港の存在である。すなわち、(場合によっては唯一の)採算路線であるハブ空港との間の路線を使い、その空港で飛行機を乗り換えることを前提とすれば、全国どの二空港間でも航空網は結ぶことができるのである。
 以上のことを推進するために必要なことは、ハブ空港の一層の整備と、そこで乗り継ぐ運賃が割高とならない工夫であろう。
 ハブ空港は東は羽田、西は関空だ。この主旨からは伊丹空港が残存し、関西圏に二つの空港がハブ機能を分散させているのは好ましくない。その他、列島遠端部には、道内ハブの新千歳、九州離島ハブの福岡、長崎、鹿児島、沖縄離島ハブの那覇が必要だが、図らずも現状ではそのように機能している。
 乗り継ぎ料金は時間ロスもあることから、単純に二区間運賃を合算した割高のものとするのでなく、かりに直行便があった場合と同等の料金とするべきだ。中間のハブ空港で途中下車(空港外に出る)しない前提でだ。お客様にわざわざ遠回りしてもらっているのに、割高な料金はいただけない、という考えは必要であろう。
 乗り継ぎのハブ空港では、場合によっては数時間待たされることもあろうが、新幹線あるいは在来線を乗り継ぎする場合と比べても、飛行機のほうが早く着くのであれば、実質乗機時間の短い快適さも加え、有利である。ハブ空港での待ち合わせ時間を利用できる施設の整備も必要だ。
 
■空港アクセス交通手段と空港配置の関係

  新幹線の駅でも空港でも同じだが、高速交通体系では最終目的地へのアクセスの良さが肝腎だ。鉄軌道によるアクセスが確実性、迅速性から便利だが、それには運送密度が足りない地方部では、空港駐車場を拡充整備し、そこからマイカー等によるのが現実的だ。ドアツードアの両端は大体の場合自動車になるから、その意味でも、合理的になる。
 空港を交通結節点として捉えると、高速道路ICとのアクセスがよいことが条件になろう。全国の空港をそのようにして点検し、全国各地間の時間距離を、場合によってはこの提案のようにハブ空港での乗り換えも組み合わせて、満足のいく範囲内に収めることが、これからの高速交通の考えとなるのではないか。
 逆に言うと、各空港とそこへの高速道路等アクセスの組み合わせで、最適な空港配置(間隔)が決まるのであって、最近の地方部空港の当該県内事情だけによる新設・開港ラッシュにはその考慮がなされていないものが多いと感じる。
 高速交通体系の恩恵を全国民が享受できるという、ナショナルミニマムの考えを「国土政策」としてとるべきであり、空港設置の判断に利用者便益(空港使用料)だけでペイするか、という狭い見方にとらわれる必要はないのだが、(地域活性化の旗印のもと)最適配置をあきらかに超え密に建設するのは、空港間の競合による運営面での不利も併せ、不合理かつ将来に対し不明なことであると付言したい。

■交通施設−鉄道、空港、高速道路−の費用負担のあり方

 
 以下、各交通手段の基盤資産投資の負担のあり方についての比較論に話を進める。
 これらには、資産の「保有」と「運用」、「上部利用」の三段階に分けて考えるとわかりやすい。ここで「運用」と「上部利用」の違いは、前者が後者から利用料金を徴収するなど運用して、「保有」の主体に建設投資の償還(資産貸付料)をしていく関係だ。
 整備新幹線の場合、国と地方の大幅な公的負担の結果、鉄建公団が鉄道資産を建設後、「保有」し、それをJRが受益の範囲内で決められた貸付料で「運営」(「運用」「上部利用」を併せたもの)するというスキームとなっている。
 一方、空港は公的(部分民営もあるが、航空会社とは別)保有・運用で、上部利用は一定の使用料(着陸料)を負担すれば、航空各社が参入撤退自由なのに対し、整備新幹線スキームだと、鉄道運営の特殊性から、事実上一社しか上部利用できない。
 一社独占無競争状態だから、貸付料の決め方によっては、公的負担との関係で不都合な結果を招きやすい。蛇足だが、昨年末の道路関係四公団民営化推進委員会での結論で、高速道路資産をもつことになる「保有・債務返済機構」と道路公団民営化後の新会社との関係に似ている(と言うより、似せて考えたようだ)。この場合も、当初決めた「貸付料」が長期に、それも運用成績を左右する時々の経済状況に関わらず、固定されることになる不都合がある。
 高速道路は保有・運用・上部利用の三段階の仕組みがむしろ空港と似ている。高速道路の「上部利用」(交通手段運営)は高速バスなり貨物便の運行会社(あるいはマイカー、自家用貨物という個別利用)で、空港では各航空会社だ。道路保有機構は空港では滑走路など基盤資産「保有」の公的(公設民営の場合もあり)主体となる。だから中間段階の「運用」の、議論の対象となっている道路新会社は空港利便施設(空港ビルなど)の上物会社に類似のものと考え(なおし)た方がよいのではないか。サービスエリアなどは民営でないとうまくいかない。