湯川むらに伝わる『お洗馬淵の河童』のお話

 昔、湯川むらを流れる「滝の湯川」の「お洗馬の淵」に河童が何匹も住んでいた。
 そこへある日、よそから河童の一家が越してきたので転居祝いをすることになり、早速、野菜を盗んだりして「お客」(お祝い)の準備にかかったが、大好物の、牛や馬の「尻の子」がなかなか獲れず、相談の結果、人間の「尻の子」を狙う事になった。
 そんなある日、殿様の狩のお供をして「鹿山」に来た侍が湯川に泊まることになった。その侍が夕食後便所に行くと、下から黒い変なものが出てきたので、侍はそれをねじりとってしまった。その夜、侍が不思議な気配で目を覚ますと、部屋の片隅から「お侍さん、ごめんなして」と細い声が聞こえる。行灯の灯りをつけてみると、くちの尖った、目のギョロっとした、頭のてっぺんに皿のようなものを載せたへんてこな動物が、片方の手をフキの葉っぱで包んで、おでこを畳につけて、「私はお洗馬淵に棲む河童でございますです。先程は本当に悪い事をしました」と、一生懸命に謝っている。そして「尻の子」を獲ろうとした訳を詳しく話してから、「もうこれっきりしねーで
(しませんから)、どーかその私の手をかえしてくだっせい。河童は骨接ぎがうめーで(上手だから)すぐ元通りに継げますです。返してくだされば、お礼に骨接ぎの仕方をお教えしますだ。」と泣き泣き謝る河童を見て、情け深い侍がねじり獲った手を返すと、河童はそれをあっというまにピッタリとくっつけてしまった。
 それからは、滝の湯川に棲む河童は野菜を盗んだり、家畜や人間の「尻の子」を抜くことは無くなり、そればかりか、村人が朝起きてみると、時々軒下に魚が置いてあったりしたということです。
 その侍は城に帰ると、河童に教えてもらった骨接ぎの術で、多くの人々を救ったと言う事です。
                                        
                                『湯川むら』より