私はどうして音楽鑑賞に出かけるのでしょう

始めに 

物作りの個人工房で余裕など無いのに懲りずにコンサートに出かけて行きます。
1回のコンサートの費用でCDなら10枚や20枚は買えますね。
ビジネス的には録音の良いインパクトのあるCDを多く持っていた方が良いのかも?
でも再生音からは得られ無いものも有る様に思うので....

理由−1 

当時の私の田舎には音楽専用ホールなども無く、家庭環境からもコンサートに行く習慣は無かった。

  理由−2 

自作好きのラジオ少年がアンプを製作をきっかけに始まったオーディオの趣味!
オーディオフェア(札幌)や学校での授業以外で生演奏を聞く機会は殆ど無かった。
フォークギターとトランペットを少し悪戯した程度。

 理由−3 

それでも真面目にオーディオ機器を選択して揃え(作り)、LPを良く聞いて耳は鍛えていたつもりだった。
上京して音響機器の設計部門に配属され、
業務で音楽の現場に通う機会も増えて来て世界が広がって来た。

 理由−4 

ミキシングコンソールの設計が主だったが、パイロットと航空会社の通信などの通信機部門に携わった事も。
その専門技術を応用して音楽業界に進出するのでした。
帝劇などの名だたる劇場や新設の音楽専用ホールに納入され出しました、TV業界を除いては。

 理由−5 

もう35年以上も前の事ですので実名でも許されるか?
当時のTV局の音楽番組で「ミュージックフェア」は番組構成にゲスト、司会者等々最高の番組でした。
そのフジTVでの格闘が始まるのでした。

 理由−6 

「ミュージックフェア」はお茶の間のTVから出る音でも良質の音楽を届ける!と言う、
業界で初めて音質に拘った放送を行う事で注目されていました。
細部は知りませんが一種のプリエンファシス、ドルビーのノイズ対策みたいな事を行っていたのでは無いか?。
情熱を傾ける「本田」さんと言う音響担当の方がいました。

理由−7 

本題に近づいて来ました。
この番組に使ってもらう音楽専用の「ワイヤレスマイク」開発の話です。
この局と言うより業界は未だ「ワイヤレスマイク」を音楽番組に使っていません。
既存製品は音質面から不採用でしたので、新製品開発を行います。

理由−8 

主にボーカルの方が使う訳ですから自由に歩いて踊って邪魔なケーブルに動きを制限されない。
番組演出上は自由度が上がりメリットがおおきいのだそうです。
歌手は自分専用のマイクを持っていますので他の機材を使うには抵抗があります。
TV局側もミュージシャン側をも納得させなければなりません。
それに耐えられるマイクがあれば!

理由−9 

「ワイヤレスマイク」と言うのはマイクユニット/マイクアンプ/発振器/変調機/高周波電力増幅/アンテナ
などの機能を小さく軽くて長時間動き、TV写りが良くて持ち易いケースに収めなければなりません。
専用受信機も必要です。マイクからの電波を完全追従せねばなりません。
数十台同時稼働するので混信も許されません。
今では普通のPLL回路、TVのチャンネルがずれて外側ダイヤルを回して調整した経験の有る方!、
あの回路をデスクリートで組んで搭載した初の製品でもあります。

 理由−10 

その当時経験した面白い事件を一つ。
音楽専用機では有りませんでしたが、東京池袋にある某国関連の学校にお国から最高幹部が来た時の事。
製造メーカー担当は重要なイベントではバックアップを持参して待機させられます。
自社のマイクを持った最高幹部が電波到達範囲を外れて演説を続けています。
その時、受信機の追従機能が一瞬切れて再スキャンを開始しますが、
その一瞬に「ポン」とか「ボン」と言う音が出ました。
警護官と警備関連者は銃声と間違えて大混乱、会場はパニックです。
原因は分かっていましたが私が生きた心地がしなかった事は想像に難くありませんよね

 理由−11 

そんな事も有り、TV局内で使う機器は音質以前に基本的な性能は徹底検証されます。
電子機器などの規格で最高に厳しいのは軍事関連で放送局関連と医療関連はそれに続きます。
さて、新製品の試作を何度もTV局に持ち込んでも音質面でだめ出しが続きます。
スタジオでマイクをセッティングしている直ぐ横で山口百恵ちゃんが歌っています。
それ程現場主義で試されていました、色々な意味で緊張の連続です。

 理由−12 

試作試験の有る日に「本田」さんから声をかけられました。
これからブラインドテストを行うので聞いて欲しいと。
スタジオの専用バンドが既に1曲演奏してモニタールムのマスターに録音されているとの事。
もう一度同じ曲を全く同じタイミングで演奏して直接モニターに流すと。
我々(私と上司の三人)は切り換えタイミングを知らされずに、
生演奏かマスターテープの音かを聞いて判別してくれと。

 理由−13 

その時の専属バンドは「ダン池田とニューブリード」だったと記憶しています。
プロの演奏家は全く同じタイミングで演奏出来るのだと驚き、
我々の為に演奏してくれたのだと感動し、
仕事の重大さに押しつぶされそうな思いでした。

 理由−14 

担当者は試作を繰り返す我々の判断基準が何処にあるのかを見極めたかったと思われます。
個性的であったり癖があったりとの自己主張は後の事です。
先ずは素直に生音を捉えなければなりません。
試作機を作る生産現場にバンドや演奏家は居ません。
そこで出て来る音の判断は自分の耳でしか出来ないのです。

 理由−15 

試行錯誤を繰り返し新製品は完成して現場採用となりました。
その時から日本のTV局の音楽番組で歌手が「ワイヤレスマイク」を使う様になったのです。

 理由−16 

再生音しか聞いた事の無い私には生音を理解でき無いと強く自覚させられました。
その時から10年近くにわたり私的に聞くオーディオの趣味は凍結しました。
LP(未だCDは未発表)や機材に回す費用で演奏会に通う事となります。

 理由−17 

ジャズが好きでしたのでコンサートホールでの演奏、ライブハウスでの演奏、
当時始まったばかりの合歓の郷でのオールナイト野外コンサートに日比谷野外コンサートなどを聴きあさりました。
幸運にも業務で劇場/コンサートホール/TV局などで各種の音楽、演劇を見る事が出来たのも幸いでした。
六本木ピットインはそんな時にオープンし、近いので毎週の様に出かけました。
ウッドウイル試聴室のプライベート機「jazz Machine」はそのステージの再現用です。
ナベサダが太鼓を振り回しての絶頂期、フュージョンという新ジャンルも生まれつつありました。

 理由−18 

CD規格が発表され初のCDプレーヤー(少し関わりを持っていた)が発売されたのを機会に凍結を解除しました。
驚く事にその間に老舗の中小オーディオメーカーが殆ど無くなっていました。
いつかは欲しいと思っていたのに...その後ネットオークションに救われました。

 理由−19 

AとBのスピーカーを聞き比べます、相対的な違いは分かります。
後に違う環境でBとCの音を聞きます、その時にAとCの音の違いが判断できるか?
趣味として個人が優劣又は好き嫌いで判断して機材を選択するのは当然ですが、
物作りをする供給する側としての立場では変わります。

 理由−20 

音を判断する自分なりの基準が必要です。
その基準があれば環境には左右され難くなります。
その自分なりの基準を発見する、リセットし直す、それが音楽鑑賞する最大の理由です。
勿論、音楽が好きなのですから聞いていて楽しいですし、感動を覚えます。
専門家の誰かが加齢毎にエネルギーが要るので人は感動しなくなるなどと!
冗談じゃありませんね、私は涙を流し鳥肌を立てて聞いています。
その感動が物作りの原動力になっている様に思っているのです。