エンクロージャーの解析

日立 Lo-D HS-500 /JBL Lancer L-101/ウッドウイル作品等を用いて解析します。


下段に向かって更新記事を随時掲載して行きます


記事内容、画像等の転載を禁じます

 
 概 要

 
1.エンクロージャーの振動/定在波/吸音材等の影響と/構造上の優位性を解析検討する。
 
2.スピーカーシステムの音質に与えるエンクロージャーの影響を官能評価に依らずに物理的評価を可能とする。
 3.スピーカーシステム新規製作時のエンクロージャーの設計手法を確立する。
 4.既存スピーカーを解析し改良/改造に役立てる。




 
エンクロージャーの振動測定の手順

 1.スピーカー駆動方法
   a.チューナー/CDプレーヤー/パワーアンプ一体式アンプのL-chで駆動。
   b.入力ソースは一般楽曲CD/測定用CD/測定器によるオーディオ信号。
 2.スピーカー再生音の測定方法
   a.ダイナミック型マイクロフォンによるスピーカー正面中心位置から20cmの位置。
 3.エンクロージャー振動の測定
   a.オリジナル振動センサーによる。測定箇所はその都度画像等で表示。
 4.信号の取り込み
   a.スピーカー再生音/センサー振動は楽器用ミキサーにて増幅/レベル調整。
   b.この信号を24Bit/96KHz A/Dコンバーターによりパソコンに取り込む。
   c.解析目的であるのでエフェクター等での音声/画像の加工を行わない。
   d.音声録音/再生/FFT解析ソフトによる波形画像の取り込みと保存。
 5.信号の再生
   a.スピーカー再生音(L-ch)とエンクロージャー振動音(R-ch)はwab形式ファイルにてこのHPで再生可能とする。
   b.この音声ファイルと同期したFFT波形画像はファイル容量が約150MBと大きくなるので静止画での掲載に留める。
     (ウッドウイル試聴室でファイル再現/実測/試聴が出来ます)
 6.センサーの取付位置
 ”日立(Lo-d)HS-500”の例

      
   
測定時の全体像

  HS-500のオリジナル状態でのエンクロージャー振動解析

              
 
バッフル板ユニット中間位置   側板中心位置         背板中心位置

下記の波形画像下のファイル名をクリックすると音声ファイルにリンクします(容量各約10MB)。
 
(上部画像はSP正面マイク収録した波形/下部画像は各部のエンクロージャー振動の波形)
  
  
補強前HS-500-バッフル板振動ー無伴奏第三第二曲 .wab         補強後HS-500-バッフル板振動ー無伴奏第三第二曲.wav
  上下画像の比較から補強前は3KHz付近から上の減衰が目立つが、補強後には目立った部位は無いが全体的に振動が減少している事が判別出来る。
  バッフル/側板/背板の全体に言える事から、補強後はスピーカーユニットの音に素直に比例したエンクロージャー振動と考えられる。

  
  補強前HS-500ー側板振動ー無伴奏第三第二曲ー.wab            
補強後HS-500ー側板振動ー無伴奏第三第二曲ー.wav

  
  
補強前HS-500ー背板振動ー無伴奏第三第二曲ー.wab            
補強後HS-500ー背板振動ー無伴奏第三第二曲ー.wav

 JBL Lancer L-101のオリジナル状態でのエンクロージャー振動解析

              
  バッフル板ユニット中間位置   側板中心位置            背板中心位置


下記の波形画像下のファイル名をクリックすると音声ファイルにリンクします(容量各約9MB)。
(上部画像はSP正面マイク収録した波形/下部画像は各部のエンクロージャー振動の波形)
   
 補強前L-101-Baffle.wab                             補強後L-101ーバッフル振動ーシェリーマン.wab
 補強前のオリジナル状態/3KHzのピークが無く全体で-10dB程低い振動波形(以下上下の波形の比較)     補強後の改造状態/全体に-15dB程低い振動波形


   
 補強前L-101-Side-plate.wab                              補強後L-101ー側板振動ーシェリーマン.wab
 中域以上の振動無く帯域が狭い/全体で-10dB以上低い振動波形                            1KHz以下の減衰少なく以上は大幅に減衰している   


   
 補強前L-101-Back-board.wab                             補強後L-101ー背板振動ーシェリーマン.wab
 約700Hz以上は大きく減衰している                                               1KHz付近の減衰無くそれ以上は右肩下がりで大きく減衰している   

 ウッドウイル作品「Wing ウイング」のエンクロージャー振動解析

        
バッフル面ユニット中間の右寄り位置         側面中心位置              後部中心の下側寄り位置
(Wingはラウンドの一体構造のなのでバッフル板/側板/背板などの部材は存在しません)


Wingウイングは補強前/補強後などの比較ファイルは無く完成品のファイルのみの掲載です。

下記の波形画像下のファイル名をクリックすると音声ファイルにリンクします(容量各約10MB)。
 
(上部画像はSP正面マイク収録した波形/下部画像は各部のエンクロージャー振動の波形)


 Wing-バッフル面振動-無伴奏第三第二曲 .wab


 Wing-側面振動-無伴奏第三第二曲ー.wab


 補Wing-背面振動-無伴奏第三第二曲ー.wab

  エンクロージャー振動音の聴き方
 
1.L-chにスピーカー正面からマイクで拾った音が記録されています。
 2.R-chにバッフル/側板/背板のエンクロージャー振動音が記録されています。
 3.画像上がL-ch/下がR-chです、再生音をFFT解析した波形ですので、音の強弱と周波数分布を確認出来ます。
 4.この3種のL-chの音は全て同じです。
 5.L-ch/R-ch単独で音量を調節出来ない時には下記画像の様にWindowsの機能を使って行って下さい。
   再生音を聞きながら「バランス」ウインドウのL/Rのレベルをリアルタイムで調節しながら聞く事が出来ます。

  

  エンクロージャー振動の解釈-1

 1.各々のR-chにはバッフル/側板/背板の振動音が記録されています。
 2.L-chのレベルを最少にするとR-chに記録された各々のエンクロージャー振動音だけを聞く事が出来ます。
 3.エンクロージャーの構造体から発する振動音をどの様に感じられるでしょうか?。
 4.通常耳にするスピーカーの音はL-chのスピーカー正面から聞こえる音に近いでしょうが、
   L-chの音にはエンクロージャーからの振動音も含まれています。
 5.正面の音以外にもエンクロージャーの振動音は回り込んでリスナーの耳に入って聞こえています。
 6.「バランス」ウインドウで音量レベルをL/R同じにして中間レベルにして再生します。
   再生音を聞きながらR-chのレベルを最少から最大にする事で生じる音質の変化を慎重に確認してみて下さい。


  エンクロージャー振動の解釈-2
 
 1.赤色波形は「ピークホールド」で波形の最大値を5秒間保持しますが、ここでは静止画ですので意味を持ちません。
 2.波形上部(L-ch)は同じ信号を表しています。
 3.
L-chの波形は同じ部分の音声箇所を取り込んでいますの3種類の波形の比較が出来ます。
 4.各3種類の波形下部(R-ch)では
   a.各エンクロージャー部での振動音の大きさの違いが分かる。
   b.    〃           周波数分布の違いが分かる。
   c.    〃       振動音の音色の違いが分かる(音を聞いた時)。
 5.注)L-chにはエンクロージャー振動が含まれている通常の再生音を拾っています。
     この音声ファイルをステレオ状態(L-ch/R-ch)を同音量で聞くと各部のエンクロージャー振動音が
     重複されて聞こえてしまい、通常の再生音と相違が出ます。
     R-chとL-chの音量を単独で調整出来る状態で聞いて下さい。
 6.L-ch単独で聞く場合:通常のステレオ再生のL-chの方チャンネルの音。
 7.R-ch単独で聞く場合:各部のエンクロージャー振動音が聞こえます。
 8.L-chを音量中間位置で聞きながらR-chを最少から少しずつ音量を上げて聞いて見ます。
   各部のエンクロージャー振動音が大きかった場合を想像出来ます。
   但しステレオ効果が現れるので臨場感等で惑わされるので注意が必要です。
 9.R-chの3種類の音や波形からは、バッフル板での振動音が大きく周波数分布も広い事が分かります。
   エンクロージャーで特にバッフル板の重要性を理解出来る資料と考えられます。


  エンクロージャー振動の解釈-3(JBL L-101の例)
 
 1.L-101の補強を行いオリジナル状態と同条件で測定してみました。
 2.L-chにはエンクロージャー各部(バッフル/側板/背板)の補強済みの音が収録されています。
   オリジナル状態と比較試聴されてどの様に感じられるでしょうか。
 3.補強はオリジナルに手を加える制約から簡易な加工を施しています。
 4.担当者としての感想は
   a.音質は向上した。
   b.補強による振動抑制効果は得られていない。
   c.オリジナル状態のエンクロージャーはユニットに生じる反作用を吸収出来ていない。
     (構造的な強度不足と経年変化による強度低下/使用部材の強度不足と経年変化による強度低下と考えている)
   d.この現象により中低域が反作用で減衰して痩せて聞こえ歪も多く感じられる。
   e.簡易ではあるが補強の実施で反作用による悪影響が減少している。
   f.エンクロージャーの各部位では補強後も振動が大きいので改善が必要と考える。
   g.強固な構造/振動(共振)の少ない部材/振動音の綺麗な部材/適切な振動制御などが必要か。
   h.以上はエンクロージャーの振動についてのみ影響を述べてみた。

  エンクロージャー振動の解釈-4(日立 Lo-D HS-500の例)

 1.オリジナル状態と補強後のスピーカーユニットの収録音(L-chのみの音)を比較すると歴然と違いが分かる事と思います。
 2.オリジナル状態では明らかに本来のチェロの音色(この比較用の曲)に付帯音が多くついています。
 3.この付帯音でチェロの音色が変わるだけでなく音階も不明瞭になっています。
 4.各部のエンクロージャーの振動音(R-chのみの音)のオリジナルと補強後の比較でもスピーカーユニットの音に
   何らかの影響を与えているのではと想像出来ます。
 5.補強はオリジナルに手を加える制約から簡易な加工を施しています。
 6.L-101と同様に補強による振動抑制効果は未だ得られていません。 
 7.補強によってアンバランスな振動を整えた程度の効果を生んだかと想像します。
 8.補強により音質は向上したのではではと考えます
 9.L-101での振動の解釈と同様にエンクロージャには多くの改善の余地が有ると考えます。
 10.オリジナル状態のエンクロージャー材料がかなり劣化しているのが気がかりです。
    (センサーを貼り付けた粘着テープを剥がす時に板材もボロボロと剥がれます)
 11.劣化前の音質は現在よりは遥かに優れていた事と思います(以前にHS-500に付帯音がついているなどと感じた事は有りません)
 12.オークション等で劣化してしまった音しか知らない方は誤解されるのではと、それが気がかりです。
 13.HS-500のコンディションを整えれば最新のスピーカーに勝る長所を多く持っていると信じています。
 14.未だ先になりますが、ウッドウイル版のHS-500が完成しましたらここでの同様の解析を行ってみたいと思います。

 エンクロージャー振動の解釈-5(ウッドウイル作品 Wing ウイング の例)

 1.Wingはエンクロージャーのチューニング済みですので補強前/補強後の比較ファイルは掲載していません。
 2.Wingは室内楽での弦楽器の再生をターゲットとしたスピーカーですので所謂エンクロージャーの鳴きを意識したチューニングになっています。
 3.それでも不要な付帯音が付加されない様にバッフル面は二重構造で10cm口径の低音ユニットでは異例の約30mm厚、
   ユニットの作用/反作用に依る直接的な振動と内圧による振動の両方に耐える様に設計しています。
 4.バッフル面は強固に、側面は豊かに響く様に、背面は構造的に強固になるので振動は減少すると言う設計です。
 5.各、R-chのみの振動音を聞くとその設計意図が読み取れると思います。
 6.L-chから聞こえるこのスピーカーの音色の評価は試聴者に委ねます。
 7.バッフル面はここ迄強固にしても相応の振動が含まれるが、不自然で嫌な付帯音は無いと考える。
 8.側面は楽器の胴鳴きと類似した振動を確認出来るので期待した効果が現れていると考えている。
 9.背面は設計通りに少ない振動で全体の音色への影響を与えていないと考えます。
 10.HS-500/L-101などは経年劣化も併せて盛大に振動しているが、その振動の聞こえ方はスピーカーの音色に対して、
    個々の楽器の付帯音の付加と言うより、試聴ファイルでのチェロの独奏がまるで重奏になったのかとの印象を得ます。
    あまりに振動が多く、その帯域も広い事から感じられる現象と考えます。
 11.HS-500とWingを例に、単独でのL-chのスピーカーの音に、R-chの音を増加させていった時の音の変化を慎重に試聴してみると
    興味深い感想を得られる事と思います。